うまいビールが飲めるのは誰のおかげ? ODMメーカーの技術を活かす旭光電機の課題解決型ビジネス
2026年07月16日 16時00分更新
キンキンに冷えたビールをさらにうまくする、きめ細かな泡。その安定した提供を支えるビールサーバーには、樽切れを検知し、泡吹きを防止するセンサー技術が使われている。その他、東海道新幹線の自動ドアやホームドアを制御しているのもセンサーだ。普段我々が何気なく使っているこのようなセンサーの制御技術と、ネットワークやクラウドを組み合わせ、その仕組みを意識させることなく世の中を支えている縁の下の力持ち、それが旭光電機だ。
社会インフラや災害対策向けなど、さまざまなIoT製品とソリューションを開発する旭光電機は、国内工場による開発力と量産体制を強みに事業を展開している。今回はDXソリューション部部長の辻一郎氏をはじめ、担当課長 永井克典氏、担当次長 児玉晴夫氏、主任 奥村昌平氏の4名に旭光電機の製品やその特性などについてお話を伺った。
ODM事業で培った技術をIoTへ展開する旭光電機
1947年に創業し、来年80周年を迎える旭光電機は神戸市に本社を置き、明石工場、大久保工場の国内2拠点で製造を行うメーカーだ。その事業の主力は、委託側のブランド製品に対し、相手先(受託メーカー)が企画・デザイン・設計から製造までを一貫して行う製造形態・ODM事業で、自動ドア関連製品や鉄道車両向け電装品、船舶向け制御機器など、社会インフラを支える製品の製造を手掛けている。
そのデバイス開発や製造で培った技術力を背景に、同社は数年前からIoT事業へ参入した。もともとIoT関連の製品は展開していたものの、デバイス単体ではなく、クラウドを含めたソリューションとして提供する体制を強化するため、2025年3月にDXソリューション部を発足した。
ODMメーカーとして培ってきた製造技術と、自社ブランドによるIoTソリューション事業。その両輪によって、旭光電機は従来の受託製造だけでなく、自ら価値を提案する事業へと領域を広げている。
「製品だけで提供してもなかなかお客様に受け入れていただけない。クラウドなども含めてソリューションとして提供する体制を作りたかった」と辻氏が語る旭光電機の最大の強みは、日本国内の工場で高品質な製品を万単位で量産できる製造体制と、顧客のニーズに応じた柔軟な開発力を兼ね備えていることだ。
国内生産であるため、顧客の要望を製品へ反映するスピードも速い。海外生産では仕様変更や改善に時間がかかるケースもあるが、同社では開発部門と製造部門が近い距離にあることで、顧客の要望に応じた対応を迅速に進められる。
また、量産だけではなく、IoTソリューション事業では、顧客ごとの要件に応じたカスタマイズ開発にも対応している。特にODM事業で培った設計力と製造技術を活かし、顧客ごとの課題に合わせたワンオフ開発を試作段階で終わることなく、その先の量産展開まで一貫して対応できる体制を構築している。
IoTデバイスとクラウドで現場課題を解決
旭光電機では、工場設備の監視からエネルギー管理、漏水監視まで、さまざまな現場課題に対応するIoT製品を展開している。その中心となるのが、IoTソリューションブランド「Lumiot」の製品群だ。
同社ではIoTデバイスに加え、可視化サービス「Lumiot Viewer」も展開している。Lumiot Viewerは、IoTデバイスから収集したデータをクラウド上で可視化するサービスだ。AWS環境を前提としており、データの可視化だけでなく、将来的な機能拡張にも対応できる。現在は鉄道事業者向けに変電所の受電量監視用途での導入も進められている。
こうした可視化基盤と組み合わせて利用されるのが、汎用IoTゲートウェイ「SmartFitPRO」だ。SmartFitPROは、接点入力やアナログ入力など工場設備で利用されるさまざまなインターフェースに対応したIoTゲートウェイで、取得したデータをクラウドへ送信し、遠隔監視や可視化を実現する。SORACOMストアで提供されており、すぐに利用を開始できる。
同製品はマイコンベースで設計されているため、一般的なLinuxベースのゲートウェイと比べて堅牢性が高いことが特徴だ。また、独自開発したIoT向けOSとモジュラー設計を採用しており、用途に応じて機能を組み合わせながら柔軟なカスタマイズにも対応できる。現在はLTE通信モジュール搭載モデルやアナログ入力対応モデル、GPS搭載エッジAI(DL/ML)モデルなど複数のバリエーションを展開しているほか、衛星通信モジュールへの対応も進めている。
「SmartFitPROによっていろいろな用途に対応することを入口として、専用システムや専用デバイスの開発につなげていくことを期待しています」(児玉氏)
工場向けソリューションの電力監視システム「wattXplorer」は、分電盤内のケーブルにクランプセンサーを取り付けるだけで電力使用量を可視化できるシステムで、設備ごとの消費電力やCO2排出量を把握できる。停電を伴わずに設置できるケースが多く、工場全体だけでなく回路単位での電力使用状況を把握できる。「wattXplorerは、クランプを取り付けるだけで使えるので、設置がとても簡単です」(永井氏)
近年はカーボンニュートラルへの対応やCO2排出量の把握が求められる中、設備単位で電力使用量を分析できるツールとして活用が広がっている。
また、漏水監視向けに展開している「漏水みはり番」は、内部にバッテリーとSIMを搭載し、電源やネットワーク環境がない場所でも利用できる漏水監視デバイスだ。「漏水みはり番は、電池とeSIMを搭載しているので、現場に置けばすぐ使える製品です」(永井氏)
漏水みはり番の布状のセンサー部分に水が染み込むと異常を検知し、通知を行う。主に設備の床下や水回り機器周辺など、漏水が許されない場所への設置を想定しており、通信費やクラウド利用料を含めたパッケージとして提供されている。
このように旭光電機では、汎用IoTゲートウェイ、電力監視、漏水監視といった複数の製品をラインアップしているが、それぞれ単独で販売するだけでなく、顧客の環境や要件に応じて組み合わせながら提供している。
現場の課題に応じたソリューションを提案
旭光電機のIoTソリューションは、製造業を中心に導入が進んでいるほか、自治体向けの社会インフラ監視でも活用されている。導入先としては製造業が中心で、設備関連企業などにも活用が広がっている。
同社の取り組みを象徴する事例の1つが、工場における薬液漏れ監視の案件だ。ある工場では、広範囲に薬液が流れる配管が張り巡らされ、その配管の接続部が多数あり、漏液によるインパクトの大きな接続部が十数ヵ所あった。もし公道をまたぐ配管で漏液が発生すれば、道路上へ流出して重大な事故につながる。しかし、人手による監視は限界があるため、自動化が求められていた。
この案件では当初、カメラによる監視も検討されたが、接続部全周を監視するのは現実的ではなく、雨の日は漏液を検知できない。そこで旭光電機ではセンサーによる検知方式を提案。相談を受けた後、和田社長自らが構造案を考案し、現場に合わせた仕組みを構築した。これは旭光電機が製品ありきではなく、顧客の課題に応じてソリューションを提案していることをよく表している事例だ。
実際の導入先としては製造業が中心で、工場設備の稼働状況や電力使用量の可視化、漏水監視など、現場の運用改善につながる用途で活用されているが、現在は鉄道事業者向けの案件も進行している。変電所の受電量を可視化する用途で導入が進められており、クラウドと組み合わせた監視ソリューションとして活用されている。製造業の設備監視から社会インフラの監視まで。旭光電機は、顧客ごとに異なる課題に向き合いながら、IoTソリューションを提供している。
IoT基盤としてソラコムを採用
旭光電機によるソラコムの利用は約10年前までさかのぼる。現在の担当メンバーが入社した時点ですでに利用が始まっており、ソラコムの立ち上げ初期からパートナーとして関係を築いてきた。
現在は「SmartFitPRO」をはじめ、「漏水みはり番」など複数の製品でソラコムの通信サービスを活用している。製品によってSIMを内蔵した構成やWi-Fi経由の構成を使い分けながら、IoTソリューションの通信基盤として利用している。
辻氏がソラコムで特に評価するのは、AWSとの親和性の高さだ。「ソラコムを使う最大のメリットはAWSに直接つながっていること」と辻氏は語る。製造業の顧客の中には、IoT導入に際してセキュリティ面への不安を持つ企業も少なくない。その際、「インターネットを経由せずAWSへ接続できる」という説明が、顧客に安心感を持ってもらう上で大きな役割を果たしていると辻氏は語った。
また、同社ではBeam、Funnel、Funkといったソラコムのクラウド連携サービスも積極的に活用している。IoTシステムでは、デバイスとクラウド間の通信において暗号化や認証情報の管理が必要になるが、ソラコムのサービスを利用することで、それらの処理をクラウド側へ集約できる。デバイス開発側の負担を軽減しながら、安全なクラウド連携を実現できることもメリットの1つだという。
開発現場では、SORACOM HarvestやSORACOM Lagoonも活用している。新製品の立ち上げやPoC(概念実証)の段階では、まずデータが正しく取得できているかを確認する必要がある。HarvestやLagoonを利用することで、通信確認からデータの可視化までを短期間で行えるため、開発や検証をスムーズに進められる。
永井氏は「通信確認の際にデータが届いているかを簡単に確認できる。また、お客様が本格的なSaaS環境までは必要としていない場合でも、データを可視化して見てもらうことができる」と語る。実際、Lumiot Viewerを提供する以前は、Lagoonを利用して顧客向けの可視化環境を構築するケースもあったという。
ソラコムの利用は、PoCではHarvestでデータを確認し、その後本格的なシステム構築へ進むといった段階的な導入も進めやすく、IoT導入時のハードルを下げる役割も果たしている。通信だけでなく、クラウド連携や可視化、開発支援まで含めたプラットフォームとして活用できることが、旭光電機がソラコムを高く評価している理由の1つだ。
顧客課題に寄り添うIoTソリューションへ
旭光電機では現在、IoTソリューションブランド「Lumiot」の強化を進めるとともに、自治体向け浸水監視ソリューションにも注力している。その中で注力しているのが、自治体向け浸水監視ソリューション「浸水ウォッチャー」だ。
「漏水みはり番」は、屋内設備の漏水監視を目的とした製品だが、浸水ウォッチャーはその技術を発展させ、道路やアンダーパスなど屋外環境での浸水監視に対応することを目指している。
近年はゲリラ豪雨や線状降水帯による浸水被害が各地で発生しており、自治体における監視ニーズも高まっている。同社ではこれまで実証実験的な取り組みを進めてきたが、今後は自治体向けソリューションとして本格的な展開を予定している。
浸水ウォッチャーの開発では生成AIを活用したソフトウェア開発にも取り組んでいる。浸水状況を可視化するSaaSの開発では、生成AIを活用することで短期間での開発を実現した。こうした新しい開発手法も積極的に取り入れながら、IoTソリューションの高度化を進めている。
また、社会インフラ向けの取り組みを進める中で、通信手段の拡張にも取り組んでいる。現在、SmartFitPROシリーズでは衛星通信モジュールへの対応を進めている。「浸水ウォッチャーのような社会インフラ向けの用途では、電波が届かない場所もたくさんあります。衛星対応は今後取り組んでいきたいテーマの1つです」(辻氏)
辻氏は「お客様は製品を使いたいのではなく、課題を解決したいんです」と語り、旭光電機が目指しているのは、単に製品ラインアップを増やすことではなく、顧客が抱える課題に対して最適なソリューションを提案できる体制づくりを重視している。今後は導入事例や活用事例の発信も強化しながら、より多くの課題に対応できるソリューション提案力を高めていく方針だ。
ODMメーカーとして培ってきた開発力と製造力を基盤に、IoTデバイスからクラウドサービスまでを組み合わせたソリューションを展開する旭光電機は、顧客の課題解決に取り組むパートナーとして、IoTソリューション事業の拡大を目指している。
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