RightTouchが提案するAIオペレーターを継続的に成長させる仕組みとシステム
デモ映えするAIオペレーターは誰でも作れるが、AIコンタクトセンターは運用で失敗する
2026年04月30日 09時00分更新
「デモ映えする、それっぽいAIオペレーターは誰でも作れるが、運用に課題がある」と指摘するのは、「AIコンタクトセンター構想」を発表したRightTouch 代表取締役の長崎大都氏だ。RightTouchが数多くの実体験と失敗から生み出したAIオペレーターを継続的に改善する仕組みとは?
AI時代の「負のジレンマ」を企業と顧客の間で解決
2021年創業のRightTouchはカスタマーサポートソリューションを提供する。現在、AIオペレーター、ナレッジ管理、VoC(Voice of Customer)活用などを実現するコンタクトセンター製品を「QANT(クアント)」ブランドで提供しており、金融・通信系のエンタープライズ企業を中心に導入実績を伸ばしている。
発表会で紹介されたのは、月間で2000万ユーザー、25万件の問い合わせに応対するSBI証券の事例。問い合わせ件数の増加により、オペレーターの負荷が高騰し、応答率の低下、待ち時間の長期化、IVR選定後のエスカレーションによる転送率の長さが問題になっていため、創業当時のRightTouchと共同でAIオペレーターのPoCを実施。95%という高い振り分け精度を実現し、テクニカルリーズンのうちの約52%を自己解決に誘導できたという。
AI全盛の時代となった現在だが、「顧客はむしろ困っている」というのが、RightTouch 代表取締役である長崎大都氏の指摘だ。便利そうに見えるモバイルオーダーでも、端末をうまく使いこなせず、店員に頼みたいという客は多い。また、eKYCによって本人確認は容易になったが、操作ができずにサービスを離脱してしまう顧客もいる。企業と顧客の間に入り、AIエージェント前提でこうした「負のジレンマ」を解消するのがRightTouchの役割だという。
ただ、このAIエージェントに関しては、「社会実装は難しい」という課題がある。生成AI全盛期の昨今だが、2025年の調査によると、タスク特化型のAIプロジェクトで本番運用に進んだのは、わずか5%に過ぎないという(The GenAI Divide - State of AI in Business 2025 MIT NANDA)。現在多くの企業が挑んでいるAIコンタクトセンターの実現においても、実際には3つの壁があり、本運用の実現を阻んでいる。
AIコンタクトセンターの本番運用を阻む3つの壁
最初の「顧客体験の壁」は、過度なAI導入は失敗を招くという点だ。たとえばスウェーデンのフィンテック企業であるKlarnaは、2024年にコンタクトセンターのAIエージェント化を推し進め、約700人分のオペレーターを削減。40%の全社員の業務を代替し、Salesforceを含むSaaS全般を解約したという。
しかし、その結果として2025年には顧客体験のあらゆる数値が低下し、顧客の離反が発生した。そのため、Klarnaはコンタクトセンター要員を再雇用し、AIと人が協業するハイブリッド型コンタクトセンターに転換した。KlarnaのCEOも「過度なAI導入は明らかに失敗だった」と認めているという。
2つ目の「チューニングの壁」は、最適解を得るためのチューニングにかかる時間とコストだ。某メーカーのPoCでは、課題発生のためにプロンプト修正を重ねた結果、イタチごっこに陥り、根本課題の切り分けが難しくなってしまった。また、某金融機関のPoCではモデルやAPIがアップデートするたびにプロンプトの挙動が変わってしまい、新モデルの修正対応に時間を要していた。
3つ目の「データ管理の壁」は、ナレッジデータが多重管理されている状況を指す。人向けとAI向け、内部向け、外部向けなどでナレッジデータが分離されてしまい、AI化を進める以前にデータ作成や改善に極端に手間がかかってしまう。また、オペレーター向けのナレッジは人が読んで使うことを前提としており、応用的な使い方は暗黙知になりやすいが、AI向けはAIが安全に推論・回答・改善するため「根拠と境界条件まで付与されたナレッジであり、要求水準が異なるという課題もある。
RightTouchの長崎氏は、「ビッグテックの音声認識や音声合成技術によって、デモ映えする、『それっぽいAIオペレーター』は誰でも作れるようになった。一方で課題になるのは運用。AIオペレーターを運用し続けるコストは非常に高い」と長崎氏は指摘する。AIの利用料や初期構築コストのみならず、AI人材の運用人件費、基盤の運用コスト、AIの品質チェック、モデルアップデートなどにかかる運用コストが大きく乗りかかるため、運用と制御の仕組み(ハーネス)が必要だという。
人とAIで異なる要件のナレッジを統合管理できる
こうした壁を壊すべく、今回RightTouchから発表されたのは、AIオペレーターを中心にした「AIコンタクトセンター」とその頭脳とも言えるナレッジ総合基盤である「QANTナレッジハブ」β版の提供開始だ。コンタクトセンターの運営モデルそのものを再設計し、AIオペレーターが一次応対から解決までを担い、応対ログやVoCをナレッジデータを改善。「問い合わせを自動化する」ことではなく、「運用するほど問い合わせ解決の精度が上がり続ける仕組みを作る」ことを目標とするという。
同社のQANTスピークではオペレーターの応対やVoCを元に不足しているナレッジを自動生成することで、今までできなかった応対が可能になる。また、工数がかかり、品質保証が難しかったプロンプトチューニングやテストもAIで自動化し、メンテナンスコストを下げつつ、高品質な応対を担保する。
新たに提供されるQANTナレッジハブは、人が利用する前提のナレッジとAIが安全に推論・回答・改善するためのAI用ナレッジを同じ基盤で管理できる。この基盤を「顧客体験ナレッジ」をDWH/データレイク上のレイヤーに構築することで、部門内で改善することが可能になるという。
現時点では一次受けをAIが担当し、応対できない場合には人がエスカレーションされるハイブリッドの利活用が中心だが、将来的にはA2Aと呼ばれるAIエージェントが連携した完全自律対応を見据えているという。組織へのAI導入に関しても、断片的なAI利用ではなく、問い合わせ対応、データ収集、課題発見、ナレッジ作成・修正、自己解決の促進の改善サイクルが回る全体最適を目指していくという。
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