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生成AI事例アワード ピッチコンテスト レポート1

7万2000時間削減の衝撃! SmartHRが取り組んだ「撮るだけ入力」が年末調整を変える

2026年04月22日 12時00分更新

「Agentic AI Summit '26Spring」にて「第5回 生成AI事例アワード ピッチコンテスト」が開催された

 2026年3月19日、Google Cloud主催のイベント「Agentic AI Summit '26Spring」が開催された。生成AIは現在、チャットによる単純なやりとりやタスクの自動化を経て、自律的に思考し行動する「自律型AIエージェント」へと進化を遂げている。本イベントは、このエージェンティックAIがもたらすビジネス変革をテーマにしたもので、会場では多様なブース展示やピッチなどが行われ盛況を見せた。今回はその中から、第5回 生成AI事例アワード ピッチコンテストの様子をレポートする。

 「生成AI事例アワード」では、Google Cloudの生成AIを活用した革新的かつ実用的な事例を競い合う。今回も多数の応募から厳正な一次審査を通過したファイナリスト6社が登壇。1社あたり5分という制限時間の中で自社の取り組みをプレゼンする。5分を超えると強制的にスピーチが打ち切られるというのも緊張感を高めた。

 審査は技術的革新性、実用性と実現可能性、社会的・経済的影響という3つの観点で行なわれ、審査員の評価点と会場・オンライン視聴者の投票を合算して順位を決める方式だ。

 審査員にはノンフィクションライターの酒井真弓氏、AICX協会代表理事の小澤健祐氏、THE GUILD代表取締役の深津貴之氏、ULSコンサルティング取締役会長の漆原茂氏が名を連ねた。Google Cloudからは執行役員でマーケティング本部ディレクターの根来香里氏、テクノロジー部門執行役員の寳野雄太氏が加わり、合計6名の体制だ。

 今回は6社中2社のレポートをお届けする。

6人の審査員がプレゼンを審査した

AIエージェント3つで東京銀器の職人を世界市場へ送り出す

 最初に登壇したのは、レアゾン・ホールディングスの佐藤貴子氏とアンシカ・カンカネ氏。400年の歴史を持つ東京の伝統工芸「東京銀器」の職人を、AIエージェントで支える取り組みだ。日本の伝統工芸の世界市場は急成長しているが、現場の職人たちはアイデアの枯渇と高額な試作コストという2つの壁に直面していた。

「AIが自律的に動くようになったとき、救うべきは誰か。今回私たちがフォーカスしたのは、日本の伝統工芸、そしてそれを支える職人です」と佐藤氏。

レアゾン・ホールディングス GIFTech エンジニア/データサイエンティストの佐藤貴子氏(左)とアンシカ・カンカネ氏(右)

 チームが構築したのは3つのエージェントから成るマルチエージェントワークフローだ。1つ目の商品提案エージェントは、国別のトレンドや職人固有の作風、純銀の特性を学習し、これまで思いつかなかった商品アイデアを生み出す。職人がここで候補を選定していくことで、アイデア枯渇の課題が解消され、次のフローへと動き出す。

 2つ目のデザイン調整エージェントは、職人がアナログで行ってきた創作フローをそのままデジタルで再現した。鍛金や彫金といった伝統的な技法も学習しており、何度でも作り直せる。素材を無駄にしないため、膨大な試作コストの問題も解決した。

 3つ目は市場価値査定のエージェントだ。訪日外国人からリアルなインサイトを収集し、そのフィードバックを学習させてエージェントの精度を向上させている。ストーリー、プライス、クオリティの観点から商品の魅力度をスコア化し、購買確率を提示することで、職人の意思決定をサポートする仕組みだ。

3つのエージェントを組み合わせたアーキテクチャ図

 データ不足も課題だった。海外顧客にどの銀器が響くかというデータが足りなかったため、Geminiでサンプルデータを生成して学習に用いつつ、職人のフィードバックを加えるヒューマン・イン・ザ・ループを実現している。基盤となる創作フローはすでに完成しており、職人ごとにチューニングするだけで実運用できる状態だという。

 「私たちはクラウドファンディングを実施しました。浅草の協力やリアルイベントも開催して、わずか5日で目標達成。職人がAIを使いこなして実際に市場を動かすことを証明しました」(佐藤氏)

AIによって職人のスキルをブーストさせ、課題を解決した

撮るだけで入力完了、30万人の年末調整を支えたマルチモーダルOCR

 2社目はSmartHRの金岡亮氏。人事労務やタレントマネジメント系のソフトウェアを手がけるSmartHRが挑んだのは、年末調整における保険料控除証明書の入力だ。所得税を確定して過不足を精算する年末調整は、パート・アルバイトを含むすべての給与所得者が対象となる。中でも保険料控除証明書は保険会社ごとにフォーマットが異なり、その種類は数百から数千にのぼる。

SmartHR 金岡亮氏

「保険料控除証明書の入力がとても難しい。各生命保険会社のマニュアルを見ながら従業員がご自身で入力する必要があり、問い合わせや誤入力の差し戻しで、負荷の大きい業務だった」(金岡氏)

 従来のOCRで精度を出すには帳票ごとにプログラムを組む必要があり、数百社を超える保険会社への個別対応は現実的ではなかった。そこでGeminiのマルチモーダルAPIを活用し、証明書を撮影するだけでフォームにデータが入る機能を開発した。

 ポイントは、自社で構築した保険会社を特定するAI機構とGeminiの組み合わせだ。保険会社を特定し、会社ごとにプロンプトを切り替える設計にしたことで、1週間に10社のペースで対応を広げられる。画像がうまく撮れていないケースも多いため、ガードレールにもかなりこだわったそう。リリース後もユーザーの入力データをもとにプロンプトを随時調整し、年末調整の期間中も精度向上を続けた。

保険料控除証明書入力システムのアーキテクチャ図

 その結果、保険会社によって差はあるものの80%後半から90%以上の精度を達成し、初年度にもかかわらず目立ったトラブルなく安定稼働。雇用形態や企業規模を問わず30万人が利用し、削減できた時間は約7万2000時間にのぼる。

「年末調整は1秒間に1500リクエストぐらい来ます。ある時期に集中してリクエストが来るという非常に難しい業務に生成AIの機能を入れられたのは1つ実績になりました」(金岡氏)

 紙の書類はあらゆる業界に存在する。そのリファレンスとなるシステムが組めたのではないか、と金岡氏は手応えを語った。なお同社のAIチームは2024年8月にエンジニア2名で立ち上がり、現在は約20名体制にまで拡大している。

30万人が利用し、約7万2000時間の削減を実現した

 次回は、続いて発表した2社の発表を紹介する。

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