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スマホCPUの王者が挑む「脱・裏方」宣言。Arm初の自社販売チップAGI CPUは世界をどう変えるか?

2026年04月06日 12時00分更新

 ISSCCの解説を中断して、久々のArm CPUロードマップである。前回は連載571回なので約6年ぶりである。今回は、3月24日にArmが発表したAGI CPUをご紹介したい。

Armが35年の歴史で初となる「自社ブランド製チップ」の販売へ

 Armは基本的にCPUやGPU、NPU、インターコネクトと周辺回路のIPを提供する会社である。もちろん例外も若干あり、例えば以前ロンドン科学博物館の展示物をご紹介した時に示したように、ARM610ARM2のプロトタイプ(?)などを製造した実績はあるし、その後も自社でテストチップを製造・テストしてきたから、チップの製造実績はあるのだが、それを商品として販売してきたことはなかった。つまりこれはArmの35年の歴史の中で初めての販売向けのチップなのである。

AGI CPUを示すRene Haas CEO。なぜシルク印刷に"2013ARM"とあるのかが謎である

 まず簡単になぜ? という話をしておく。Armは2018年のTechConで、Neoverseというブランドを発表した。2011年からArmはサーバー向け市場の参入を明確にし、まずはCortex-A15をベースにしたソリューションを発表。次いで新しいコアをどんどんサーバー向けに投入することを目論んだものの、そもそもモバイル向けのCortex-Aはサーバー向けのワークロードに適さないケースが少なくなかった。

 そこで2018年から、モバイル向けとサーバー向けで製品ラインを分割し、サーバー向けにはNeoverseというブランドを付けることを明らかにした。

2018年に示されたNeoverseのロードマップ。16nmはNeoverse以前のものになる

 このロードマップに出ているAres Platformは、2019年にNeoverse N1として発表され、これを最初に搭載したのはAWSに買収されたイスラエルAnnapurna Labsが開発したGraviton(Graviton 1)である。これを皮切りに、Neoverseはさまざまなユーザーに採用されていく。こうした動向を受けて、Neoverseそのものも以下の3種類のラインナップが用意され、かつ1年半程度の頻度でコアが更新されていった。

Neoverseのラインナップ
ラインナップ コンセプト
Neoverse V 性能優先
Neoverse N 性能と消費のバランスの取れた構成
Neoverse E 効率優先

 2024年2月に第3世代のNeoverse V3/N3/E3が発表されており、最近はこれが採用され始めている。

2024年における製品展開構成。現時点で第4世代に関してはなにも明らかになっていない

 ところで上の文章に違和感を感じられた方がいたら鋭い。「Neoverseはさまざまな『ユーザー』に採用されていく」というのは、本来はおかしい。というのは、これがモバイル向けのCortex-A(最近こちらはLumexというブランドになった)や自動車向けのCortex-AE(こちらはZenaというブランド)、あるいは組み込み向けのCortex-Mの場合は「さまざまな『半導体メーカー』に採用されている」という表現になる。

 本来Armのビジネスは半導体メーカーにIPを提供、それを採用した半導体メーカーが製品を開発して、モバイル向けならセットメーカーに販売する形になるわけだが、Neoverseのみやや話が変わってくる。なぜなら、Neoverseの大口ユーザーはAWSだったりGoogleだったりMetaだったり、要するにハイパースケーラーであり、そのハイパースケーラーは自社のサービス向けにのみそのチップを利用しているからだ。

 もちろん例外もあって、例えばNVIDIAのGrace CPUはNeoverse V2をベースに構築されているし、Ampere ComputingはNeoverse N1をベースにAmpere Alterという製品を構築している。

 過去に記事で紹介した中でいえば、インテルのMount EvansことIPU E2100はNeoverse N1、IPU E2200はNeoverse N2を搭載しているなど、半導体メーカーが採用する事例がないわけではないが、圧倒的多数のユーザーはハイパースケーラーであり、自社利用がほとんどである。

 こうしたユーザーに向けて、ArmはNeoverse N2/N3/V3向けにNeoverse CSS(Compute Sub System)と呼ばれるソリューションを提供してきた。単にCPUだけでなく、インターコネクトなどを含めた周辺回路までまとめたIPを提供するというもので、Armによって最適化されている=メーカーごとの差別化は難しいが、とにかくNeoverseベースのCPUが欲しいというだけであれば、開発が容易になるというものだ。

 そしてこのNeoverseとNeoverse CSSの売上は近年急速に伸びるようになった。要するにハイパースケーラーがみんな自前でCPUを開発・製造して自社のサービスで使い始めたからだ。

2023年あたりから急速に出荷個数が増え、現在トータルで12.5億個のコアが出荷されているとする

 ここでArmは方針転換をした。モバイル向けや組み込みその他に関しては、Armが自身でチップを製造した場合、既存の顧客ビジネスと干渉することになる。

 ところがサーバーに関しては、その主要顧客は自身でチップを外販していない。であれば、Armがもしチップを販売した場合、主要顧客は自身でNeoverseベースのCPUを設計・製造する手間が省ける=CPUの設計チームをAI向けチップの開発・製造に振り分けられるし、製造に必要な初期コストを下げられる。

 このコストを考えると、チップそのものの価格が自社製造の場合よりも若干高いとしても、トータルでのコスト削減が可能になる。

 一方Armとしては、IPのロイヤリティよりも高い収益をチップ製造で得られることになる。予定では2030年に1兆ドルのTAM(Total Available Market:獲得可能性のある市場規模の最大金額)になるとしており、これはArmの売上増加に大きく貢献すると予測される。以上のことから発表されたのがAGI CPUである。

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