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物理IPには真似できない4%の差はどこから生まれるか? RTL実装が解き放つDimensity 9500の真価

2026年03月23日 12時00分更新

 ISSCCのSession 10はデジタル回路をどう実装するかを論じる"Digital Processing and Circuit Techniques"だ。ここでMediaTekはDimensity 9500の実装を発表した。

最上位SoC「Dimensity 9500」の立ち位置

 Dimensity(ディメンシティ) 9500といえば2025年9月に発表されたばかりのハイエンドモバイルSoCである。厳密に言えば、今年1月にはDimensity 9500sが発表されているが、どちらも同じ3nm世代で製造のSoCとはいえ、ポジショニングとしてはDimensity 9500の方が上である。というよりもDimensity 9500sは前世代Dimensity 9400のリフレッシュ版である。

 スペックを下表にまとめたが、DimensityがArmの最新のクライアント向けプラットフォームであるLumux CSS(Compute Sub System)を採用しているのに対し、Dimensity 9500sは前世代であるCSS for Clientを採用して構成されており、それもあってCPUやGPUが一世代前のものになっている。

Dimensity 9500とDimensity 9500sの違い
  Dimensity 9500 Dimensity 9500s
CPU 1×C1-Ultra(4.21GHz)
3×C1-Premium(3.5GHz)
4×C1-Pro(2.7GHz)
1×Cortex-X925(3.73GHz)
2×Cortex-X4(3.3GHz)
4×Cortex-A720(2.4GHz)
L3+SLC 16MB+10MB 12MB+10MB
Memory LPDDR5x-10667 LPDDR5x-10667
GPU 12×Mali G1-Ultra 11 or 12×Immortalis-G925
NPU NPU 990 NPU 890
ISP Imagiq 1190 Imagiq(型番不明)
Storage 4-lane UFS 4.1 4-lane UFS 4.0
Modem 3GPP Rel17 5D Modem
Sub-6GHz 5CC-CA up to 7.4Gbps
Wi-Fi 7 up to 7.3Gbps
3GPP Rel17 5D Modem
Sub-6GHz 5CC-CA up to 7Gbps
Wi-Fi 7 up to 6.5Gbps

 どちらもフラッグシップSoCという扱いではあるのだが、Dimensity 9500の方が上位製品にあたると考えてもらえばいい。現時点ではvivoのX400/X400 Pro、OPPOのFind X9/X9 Pro、HONOR Magic8 Pro AirあたりがこのDimensity 9500を搭載している。

物理IPかRTLか? MediaTekが選んだ「こだわり」の設計手法

 話をISSCCに戻そう。Lumix CSSは、RTL(論理IP)だけでなく物理IPの提供もしている。通常はRTLでの提供で、これを購入したメーカーは利用するプロセスに合わせて物理実装(配置配線)をして、テープアウトに至るわけだが、物理IPの場合はTSMCのN3にあわせて物理的な配置配線を終わらせた状態のものがArmから提供されることになる。

 どちらが良いのかというのは難しいところであるが、技術力に自信があるメーカーは多少開発期間がかかってもRTLで導入することが考えられる。回路レベルでのカスタマイズは、物理IPを購入した場合にはほぼ不可能になるからだ。今回の発表を見る限り、断言はできないがMediaTekはRTLを導入したのではないかと思われる。

「1%-Low」を叩き出す、ゲーム体験に特化した設計ターゲット

 前置きが長くなったが、まず設計のターゲット。今回はCPUクラスターのみが議論の対象であるが、そこでの設計ターゲットがGeekBench 6のスコアというのが非常にわかりやすい。

おおむねGeekBenchのスコアで、シングルスレッド:マルチスレッド3:7になるのがどの世代でも共通なのはおもしろい

 ただCPU性能の向上の目的がゲームのフレームレート向上、というあたりがDimensityシリーズの製品の性格を明確に物語っている。これをもっと明確に示したのが下の画像だ。

平均フレームレートから1%低い値というのが、おおむね9割近いフレームレートをカバーする範囲になる。これを80fps以上に引き上げるのが目的であり、SCP(Single Core Performance)を5%引き上げるとこの1%-Low fpsが4.1%向上するとしている

 Dimensityの場合、ゲームの平均フレームレートの1%-Lowの値を引き上げる、というのがターゲットになっている。これに向けてコアそのものを高速なものにするだけでなく、動作周波数も引き上げることで対応するというのが基本方針であるとする。

N3→N3Pにするだけではここまで動作周波数は上がらない。これに関してはDimensity 9400のCortex-X925からC1-Ultraに変更したことも動作周波数向上に貢献しているものと考えられる

 もっとも動作周波数を引き上げる=発熱が増えるであって、これは特にモバイルCPUには致命的な問題となるので、当然細かな電力管理が必要になる。当たり前だが高速動作には高い電圧が必要であり、これはCPUにダメージを及ぼす。

PCのCPUに比べると、温度管理の桁が一桁細かくなっているあたりがさすがスマートフォン向けである

縦軸はCPUがデグレ―ション(劣化)する速度。電圧を10%高めるだけで、80%も劣化速度が向上する

 このあたりを勘案してMediaTekが実装したのがDMPA(Dynamic Mobile-Performance Augmentation)で、SCPをわずかながら引き上げる効果があるとする。今回の論文はほぼこのDMPAの実装の詳細を説明したものだが、こちらは後述する。

SCPを引き上げるのがDMPA。右下の描き方からすると、HP CoreはC1-Ultraのみで、C1-PremiumがBP Coreに分類されているように思える

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