Nokiaは3月1日、MWC Barcelona 2026の開幕前日にプレス・アナリスト向けイベントを開催し、AI時代に対応した次世代ネットワーク構想と、NVIDIAとのAI RAN提携の進捗を発表した。2026年末に商用トライアル、2027年に商用リリースを予定している。
AIトラフィックの急増に備える
Justin Hotard CEOは基調講演で「通信ネットワークはこれまで音声やデータ、そして動画と、その時代で最も通信量の多い用途に合わせて進化してきた」と振り返り、次にネットワーク設計の前提となるのはAIだと主張した。
同氏が示した数値によると、AIサービスへのアクセスは年間1.3兆回に達している。AIが処理するデータ単位であるトークンは、1日あたり100兆を超え、月間77エクサバイトのトラフィックが発生している。そして、その半数以上をモバイル回線が担っている。
現在のAIトラフィック(AIが生み出す通信量)はチャットボットなど人間と機械のやり取りが中心だが、今後は機械同士の通信が本格化する。AIエージェントが人間やIoT機器に代わってAI同士で交渉し、自律的にデータをやり取りする世界が近づいている。
AIトラフィックは従来の動画配信と性質が異なる。4K動画のストリーミングは帯域幅こそ必要だが、パターンは予測しやすい。一方、AIでは自律デバイスが画像を送信した直後にテキスト指示を受け取るなど、上りと下りの通信量が激しく変動する。
従来のネットワーク設計はトラフィックのピークを予測し、それに対応できるよう余裕を持たせる考え方で成り立っていた。AIが24時間散発的に通信を発生させる環境では予測自体が困難になるため、設計の前提を根本から見直す必要があるとHotard氏は訴えた。
予測に頼れない以上、ネットワークの内部状態をリアルタイムに把握して即座に対処する必要がある。Hotard氏はこの観点から、ネットワーク内部を可視化しプログラム可能にする「ガラスボックス」型アーキテクチャを提唱した。
NVIDIAとのAI RAN提携が進展
AI RANは、NVIDIAのGPUを基地局に搭載し、RAN処理とAIアプリケーションを同じ計算基盤上で同時に動かす技術だ。Pallavi Mahajan CTAO(最高技術・AI責任者)によると、T-Mobile USのシアトル本社でNVIDIA Grace Hopper 200サーバー上に、RAN処理とリアルタイム映像字幕生成を同時に実行する試験に成功したという。また、5Gスマートフォンと商用基地局装置を使い、実際の電波環境で動作を確認している。
AI RANの採用に向けた協力事業者も広がっている。英BTはRANの長期的な進化の一環としてAI RANを検討し、フィンランドのElisaはネットワーク全体へのAI適用で先行する。ドコモはAI中心のネットワーク戦略の下で自律運用を推進しており、Vodafone Groupはスペイン・マラガのイノベーションセンターで次世代基盤の開発を進めている。そして、SoftBank Roboticsもパートナーに加わった。
AI RANの提携パートナー。T-Mobile、ドコモ、SoftBank Robotics、NVIDIA、Indosat Ooredoo Hutchison、Elisa、BT、Vodafoneなどのロゴが並んだ
通信事業者がパネルで議論
パネルディスカッションには、T-Mobile USのJohn Saw CTO、NVIDIAのRonnie Vasishta テレコム担当SVP、IOHのVikram Sinha CEO、ElisaのSami Komulainen COOが登壇した。
パネルディスカッションの様子。左からNokiaのHotard CEO、ElisaのKomulainen COO、IOHのSinha CEO、NVIDIAのVasishta SVP、T-MobileのSaw CTO、NokiaのMahajan CTAO
Saw氏は、自律走行車やロボットが物理空間で行動を起こすための「キネティックトークン」という概念を提唱した。現在のAIトークンは主にテキストや画像の処理だが、物理AIではミリ秒単位のリアルタイム処理が求められる。モバイルネットワークがその神経系を担うという見立てだ。
Sinha氏はインドネシア全土5万5000拠点でのAI RAN展開と教育格差解消への活用構想を紹介し、ElisaのKomulainen氏はエストニアで10年以上取り組んできた自律型ネットワーク運用の知見を共有した。
新型無線機と商用化の見通し
AI RANを実現する具体的な製品として、新世代無線機「Doksuri」を発表した。次世代SoCを搭載し、電力効率を最大30%改善、重量を最大25%軽量化している。設置時間も最大70%短縮できるという。異なるメーカーの基地局機器と組み合わせられるOpen RAN規格にも対応しており、AI RANへの移行を見据えた設計だ。
Open RAN対応の新型機器への移行は、6Gへの転換も容易にする。従来のモバイルネットワークでは、世代交代のたびに専用ハードウェアを丸ごと入れ替える必要があり、事業者は一度選んだベンダーに縛られやすかった。Mahajan氏は「AI RANではGPU上のソフトウェアアップデートで5Gから6Gへ移行できる」と説明した。ハードウェアの入れ替えサイクルから脱却する構想だ。
質疑応答では、通信キャリアにとっての具体的なメリットが問われた。Hotard氏は「6Gは明日実現するものではないが、今から準備を始める必要がある」と述べ、AIトラフィック増大への対応を「0〜5年の問題」と位置づけた。収益モデルについては、コネクテッドカーのプラットフォーム事業者がトークン配信に対価を払うような、従来の月額課金とは異なる形態が生まれる可能性に言及した。
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