KDDIはMWC Barcelona 2026にて、同社ブース内でAIとリテールについてのセッションを行ないました。ここではその内容と、同社執行役員 パーソナル事業本部 パートナーグロース本部長 久木浩樹氏へのインタビューの様子をお伝えします。
労働力不足という社会課題に挑むテクノロジー
少子高齢化に伴う労働力不足は、日本だけでなく多くの先進国が直面している極めて深刻な社会課題です。特に小売業やサービス業における人手不足は深刻さを増しており、店舗の維持や顧客サービスの低下が強く懸念されています。
この大きな課題に対し、KDDIと、日本発のAIスタートアップであるAVITAがタッグを組み、新たな解決策を提示しました。今回発表されたのが“フィジカルAI”と呼ばれる物理的な身体を持つヒューマノイドロボットと、「AIアバター」を活用した未来の小売店舗の構想です。単に人間の労働力を機械に置き換えるのではなく、AIと人間が協調して働くことで、効率化と人間らしい温かみのあるサービスの両立を目指すと言います。
画面の壁を越えるヒューマノイドロボットへの進化
AVITAはこれまで、ローソンなどのコンビニエンスストアにおいて、ディスプレー越しの2Dアバターを用いた接客システムを展開してきました。しかし、実店舗での運用を重ねる中で、2Dアバターだけではどうしても「画面という壁」を超えられないというジレンマに直面したといいます。平面的なディスプレーを通じたコミュニケーションでは、通りがかった顧客に対して立体的にアピールしたり、物理的な案内をしたりすることに限界があったのです。
そこで両社が新たに開発に挑んだのが、物理的な身体を持つヒューマノイドロボットです。展示会場で披露されたヒューマノイドロボット「ヒナタ」は、立体的な存在感を持つことで顧客との心理的な距離を縮め、より自然で親しみやすいコミュニケーションを実現することを目指しているとのこと。
実際の店舗においては、入り口などでの声がけにはAIアバターを配置し、案内板の前など立体的でリアルな存在感が求められる場面にはヒューマノイドロボットを配置するなど、用途に応じた適材適所の使い分けが想定されています。
あえて「リアル」を追求したロボットデザインの意図
KDDIの久木部長は「ヒューマノイドロボットを開発する上で、技術者たちが常に頭を悩ませるのが“不気味の谷”と呼ばれる現象です。ロボットの見た目が人間に中途半端に近いと、人間はかえって不気味さや強い嫌悪感を感じてしまうのです」と言います。
KDDIとAVITAは、この不気味の谷を越えるために、あえて中途半端なデザインを避け、人間に極めて近いリアルな造形を徹底的に追求する道を選んだようです。ロボットの微細な表情や細かな動作など、人間らしい親しみやすさを再現することで、抵抗感なくコミュニケーションを図れる存在を目指したのです。今回女性の顔にしたこと、機械部分を剥き出しにしたことは「ヒューマノイドであることのアピールと、わかりやすさを重視しました」と久木部長。
AIと人間が支え合うハイブリッドな接客システム
今回のシステムの最大の特徴は、AIがすべてを完璧にこなすことを前提としていない点にあります。AIは日々進化を続けていますが、時には間違った回答をしてしまったり、予期せぬ反応を示したりすることがあります。そこで導入されているのが、AIと人間をシームレスに組み合わせたハイブリッドモデルです。
通常時はAIアバターやヒューマノイドロボットが自動で顧客対応をしますが、AIが回答に窮したり、不適切な反応を示したりした場合には、コールセンターに待機している人間のオペレーターに即座にシステムが引き継がれます。この仕組みにより、顧客に対しては常に適切で質の高いサービスを提供しつつ、店舗で働くスタッフの負担を大幅に軽減できるとのことです。
さらにこのシステムは、障がいを持つ人や高齢者など、物理的な制約で店舗に出向くことが難しい人々に対して、遠隔地からアバターやロボットを通じて接客業務を担うという、まったく新しい就労機会の創出にも繋がっています。実際に、すでに数百名規模のオペレーターがこの仕組みを利用して社会参加を果たしている実績があるとか。
【まとめ】商用化に向けた展望とテクノロジーの融合
KDDIとAVITAは、今回発表したヒューマノイドロボットを、今秋を目処にローソンなどの実際の店舗や携帯ショップに導入し、本格的な商用化を目指す計画です。実運用に向けては、クリアすべき技術的な課題も残されています。たとえば、不適切な発言を防ぐための厳格なAIの倫理制御や、複数の言語に遅延なく対応するための大規模言語モデルの活用、さらには顧客との対話履歴の適切な管理などです。
KDDIが強みとする通信インフラとネットワーク技術、そしてAVITAのAIテクノロジーが融合することで、これらの課題はいずれ解決されていくでしょう。AIやテクノロジーの進化は、決して人間の仕事を奪うのではなく、人間の可能性を広げ、誰もが自分らしく働ける社会を目指すための強力な後押しとなるはずです。
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