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XR、AI、3Dプリント…ハイテクで復活する中国の文化財

2026年02月24日 12時00分更新

3DプリントとVRで文化財を再現して展示
AIが絵画の欠落した部分を推定

 XR以外では3Dプリントも文化財の復活に役立っている。敦煌にある仏教絵画が描かれた石窟が何十と並ぶ莫高窟では、壁画保護の一環として、3Dスキャンと3Dプリントを組み合わせた修復が試みられている。

 破損した壁画部分を高精度にデジタル化し、特殊な修復材料を用いて、欠損部とぴったり合う薄いレプリカを3Dプリンターで作成。それを壁面に貼り込むことで、脆弱なオリジナル層を触らずに視覚的に補完する。山西省の雲崗石窟では、高精度なデータをベースに石窟全体や一部仏像を3Dプリントを活用して国内外巡回展示をしており、巨大な観光名所・文化財をそのまま再現。3DプリントとVRで本物同様の石窟を構築し、保護や修復や取り組みが進められている。

 3Dプリンターを使った同様の手法は四川省の三星堆や西安の兵馬俑、各地で出土されている腐食する青銅器の欠損部補填にも応用されている。欠損部補填、つまり存在ないものを3Dプリンターでどうやって製作して補うかというところでAIが活躍する。

 たとえば三星堆では、青銅神獣などを3Dスキャンした後、AIによって曲がった部分をまっすぐに戻し、折れ曲がる前の形状を推定する処理をする。そのうえで、形状の対称性や既知の青銅器様式に基づいたアルゴリズムで、欠けている部分を推定する。

 また出土した多数の破片と既知の本体データを3Dスキャンし、AIによる形状特徴の抽出とマッチングをして、AIが最も確からしい組み合わせを提案。その結果を基に専門家が検証し、デジタル空間で仮想的に組み立てた後、3Dプリントで印刷するプロセスへと進める。

 「補修候補を学習したAIが出し、専門家の人間が絞り込む」というのは絵画にも応用されている。山西省運城の永楽宮にある、元代の大型壁画「朝元図」は人物の顔や服装の一部が大きく損傷している。

中国

山西省の朝元図(百度百科より)。AIでの修復にAMDも協力している

 従来の技法では、一人の人物像を修復するだけでも修復師が数ヵ月かかることから、全体の復元には膨大な時間がかかるという。そうした状況で登場したのがAIであり、専用で開発した大規模モデルと生成AIを組み合わせた画像修復システムである。

 こちらも損傷を受けていない人物や衣文の部分から線・色彩・陰影の特徴を学習させ、そのスタイルを保ちながら欠損した顔や衣の皺を推定・生成する。AIは複数の候補案を出力し、修復チームはその中から妥当だと思われる案を選び、デジタル上での「仮想復元」を完了するというものだ。

本来の文化財の復元技術を否定するものではなく
テクノロジーを活用して選択肢を広げている

 近年のXR、AI、3Dプリンターといったテクノロジーは文化財の修復や再現の速度を大きく進めた。伝統的な修復技法や考古学的調査を置き換えるのではなく、むしろそれらを前提として「リスクを減らし、選択肢を増やし、説明力を高める」方向で使われている。

 本記事は中国の各種報道から読み解いたが、中国以外でも類似の手法で文化財の修復を進めていることだろう。ホライゾン・オブ・クフなどのコンテンツを見るときには、どんなテクノロジーで修復したり再現したりできたのかと考えると、よりコンテンツを楽しく見られるのではないだろうか。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)、「移民時代の異国飯」(星海社新書)などを執筆。最新著作は「異国飯100倍お楽しみマニュアル ご近所で世界に出会う本」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク

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