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AIエージェントにディープダイブしたAWS re:Invent 2025基調講演レポート

教えて、ほめて、注意して AWSが考える「本番に強いAIエージェントの育て方」

2025年12月05日 07時00分更新

 12月1日から開催されているAmazon Web Servicesのフラグシップイベント「AWS re:Invent 2025」。3日目の基調講演に登壇したのは、AWSのエージェンティックAI部門VPであるスワミ・シバスブラマイアン氏だ。

 AIの専門家であるシバスブラマイアン氏は、AIエージェントの価値や実用例に加え、開発や運用の難しいAIエージェントの課題にメスを入れる。その上で「Amazon Bedrock AgentCore」を中心にしたAWSの新サービスについて紹介。AWSが考えるAIエージェントの育て方とは?

AWS エージェンティックAI部門VP スワミ・シバスブラマイアン氏

ソフトウェアの構築方法を根本的に変えるAIエージェント

 生成AIの勃興から3年目にして、今年大きな関心事になったAIエージェント。自然言語による質問に対する応答という対話型インターフェイスを持つチャットボットから、人間やシステムの代わりに自律的にタスクをこなすAIエージェントに関心が移ったのは、AIへの信頼性が上がった証左と言える。

 AIエージェントは「AIを活用してユーザー定義の入力を洞察し、計画し、適応させ、人間や他のシステムに代わってタスクを完了する自律型ソフトウェアシステム」と定義されている。基調講演においてスワミ・シバスブラマイアン氏は、「デジタル環境を感知して相互作用し、高レベルの目標を実行可能なステップに変換し、時間の経過とともに継続的に学習し、効率を上げることができる」と語る。

AIエージェントとは?

 ビジネスサイドからのAIエージェントへの期待は高い。チャットボットはユーザーの質問に対して単にガイドを提供するだけ。たとえば、Webトラフィックが減った場合、参照する情報は教えてくれるが、問題解決は人間の仕事だ。その点、AIエージェントは問題を調査し、分析し、解決まで主体的に行なってくれる。Webトラフィックが減ったという事態に対して、AIエージェントは分析データを取得し、影響を受けたコードを特定し、システムに問い合わせて最近のコード変更を把握したり、ログを収集し、エラーを特定する。その上で、バグチケットの発行、影響を受けたコードを記載し、開発チームに修正案まで提案してくれる。

 シバスブラマイアン氏は、「ソフトウェア開発や医薬品研究、精密農業、建築設計まで、AIエージェントはさまざまな産業を変革し始めている。人間が直接操作できるユーザーインターフェイスを持つその能力は、ソフトウェアの構築方法を根本的に変えている。有用なソリューションを実現するための技術的な障壁を劇的に低減している」とアピールする。

脱PoC 効果を得られるAIエージェントの構築、展開、運用

 AIエージェントは、学習や推論、そして実行の役割を担うAIエージェントの脳みそにあたる「モデル」、個性や能力を司るアイデンティティである「コード」、外部APIやデータベースにアクセスするための「ツール」という3つのコンポーネントが協調して動作する。

 しかし、これらのコンポーネントをつなぎ合わせるための開発はハードで、専門知識が必要だった。「開発者はあらゆるシナリオに対して、複雑な意思決定ツリーやステートマシン、厳格な事前ワークフローをハードコーディングしなければならなかった。でも保守が難しく、ダイナミックな世界への適応が難しかった」(シバスブラマイアン氏)。

 この課題を解消するためのアプローチの1つがフレームワーク。AWSは「Strands Agents SDK」というオープンソースのSDKを提供しており、LLMを用いたAIエージェント開発の精度向上やコード削減に寄与している。今年の5月から公開されているStrands Agents SDKはすでに529万ダウンロードを記録しており、今回はTypeScriptとエッジデバイスのサポートが追加された。

 開発環境は徐々に整ってきているが、多くのAIエージェントプロジェクトは、本番環境を想定しておらず、PoCから抜け出せていない。本番環境に移行するには、AIエージェントの大規模で迅速な展開、セキュリティの確保、システム間のシームレスな接続が課題。対象の業務のラーニングや、複雑なワークフローの処理、運用のための監視やデバッグも必要だ。「こうした要件はPoCでは考慮されない。優れたプロトタイプができても、本番環境ではメンテナンスの悪夢に陥りがち。複雑性がイノベーションを低下させている」とシバスブラマイアン氏は指摘する。

複雑性がイノベーションを遅延に導いている

AIエージェントの精度を継続的に向上させるには?

 PoCを脱出し、本番環境に対応すべく開発されたのが、AIエージェントの構築、展開、運用のためのプラットフォームである「Amazon Bedrock AgentCore」になる。ランタイム、メモリ、ゲートウェイ、ID管理、監視、コード変換、管理ツールなど複数のモジュールから構成されており、用途に合わせてモジュールを選択すればよい。「みなさんはビジネスの課題に役立つような画期的な体感の創出に集中できる」とシバスブラマイアンはアピールする。

Amazon Bedrock AgentCoreの8つのモジュール

 Amazon Bedrock AgentCoreのゲートウェイモジュールに新たに投入されたのが、「Policy in Amazon Bedrock AgentCore」だ。これはツール利用に関するポリシーを設定することで、AIエージェントが利用するツールへのアクセス権を制御できるもの。Policy in Amazon Bedrock AgentCoreのゲートウェイのモジュールですべての呼び出しが制御され、開発者の意図に基づく範囲を担保する。

 また、AIエージェントの有益性を継続的に評価する「Evaluations」が新たなモジュールとして追加された。こちらは応答に含まれる情報が事実かを評価する「正確性(correctness)、コンテキストやソースに裏付けられた応答かを評価する「忠実性(faithfulness)」、応答に有害なコンテンツが含まれていないかを評価する「有害性(harmfulness)」など全部で13種類の組み込み評価機能で、応答の質を継続的に保つ。

 さらにメモリモジュールも強化された。ここでのメモリは「記憶」を意味し、Amazon Bedrock AgentCoreでは即時の会話の流れを処理する短期記憶と、会話全体の流れを洞察する長期記憶をカバーしていた。「でもなにかが欠けていた。それは『いつ』と『なぜ』だ。これはユーザー行動の背景にあるものだ」とシバスブラマイアン氏は指摘する。

 たとえば、旅行をスムーズにするトラブルAIエージェントを考えた場合、一人の場合は行動もシンプルだ。AIエージェントは飛行機搭乗の45分前に空港に案内する。しかし、家族で旅行する場合は、子供もいて、荷物も重いと、空港の到着や搭乗手続きに大幅に時間がかかる。これを学ばなければ、AIエージェントは適切な応答が行なえない。

 これに対して、AgentCoreのメモリモジュールに追加されたAmazon Bedrock AgentCore Memory episodic functionalityは、過去の対話、複数の対話にまたがる記憶に基づいた応答を行なうことで、ユーザーにとって自然で役に立つ応答を実現する。

体験やタスクを記憶させる「Amazon Bedrock AgentCore Memory episodic functionality」

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