第301回
秋田の老舗ブライダル企業が挑んだ「社長と社員とkintone」のPDACA経営
コロナ禍で売上激減 社長自作のkintoneアプリで回復も、変革のラストピースになったのは
2025年12月08日 07時00分更新
コロナ禍にて売上が激減し、社員の3割が離職した老舗ブライダル企業であるイヤタカ。残った社員の言葉で覚悟を固めた大野社長は、自らkintoneアプリを開発し、変革に乗り出した。結果、成果は得られたものの大野氏一人の力では、改善の勢いが衰え始める――。
サイボウズの年次イベント「Cybozu Days 2025」において、この1年で最も優れたkintone事例を決める「kintone AWARD 2025」が開催された。
5番手に登壇したイヤタカの大野恒平氏は、コロナ禍を社長と社員とkintoneで乗り越えた、会社再生のストーリーを語った。
一瞬で仕事がなくなり、日常が一変した“新型コロナウイルス”
秋田市の彌高(いやたか)神社を母体に、ブライダル事業を手掛ける老舗企業のイヤタカ。時代の変化にあわせ、レストランや介護、コーヒー豆焙煎、Web制作と事業の多角化を図っている。
大野氏は東京出身で、かつては監査法人に勤務していた。妻の実家であるイヤタカの跡継ぎ問題を受け、「家族の役に立ちたい」との想いから秋田へ移住し、2018年に社長に就任。しかし、大野氏と会社を、新型コロナウイルスが直撃する。
「目の前から一瞬にして仕事がなくなり、日常が一変しました。結婚式や宴会予約のほとんどがキャンセルとなり、売り上げは激減。仕事がなくなったため、当時100名超いた常勤社員のうち、約3割が会社を去っていきました。社長になりたての私は、何度も心が折れそうになりました」(大野氏)
「人と人が集う場」を提供することを使命に掲げる同社にとって、コロナ禍の影響は大きかった。この絶望の中で大野氏を支えたのは、残ってくれた社員たちだ。「社長についていきます、指示してください」という言葉に、大野氏はリーダーとしての覚悟を決める。「私の使命は社員たちの笑顔と満足を生み出すこと。時代を乗り越えていける強い会社になる」と心に誓った。
反撃の狼煙はkitoneによる“事業の見える化”
現状を打破すべく、大野氏が行き着いたのがkintoneである。2020年4月にワークフローシステムとして「サイボウズ Office」を導入。その際にkintoneを知り、その自由度の高さに惹かれて本格導入へと舵を切った。
最初の挑戦は「事業の見える化」だった。コロナ禍ではブライダル以外の事業を伸ばす必要があったが、多角化した事業を充分を把握できていなかった。既存の基幹システムはブライダル専用で、他事業はExcelで管理していたからだ。
「多角化した事業の内容や規模に見合うシステムが見つかりませんでした。そこで私は、もうひとつの基幹システムをkintoneで構築して、すべての事業を適時把握できる環境作りに挑戦しました」(大野氏)
大野氏は、組織図とリンクする形でポータルとスペースを配置し、その中でコーヒー豆の焙煎記録や介護日報、Web制作の案件管理など、各事業にあわせたアプリを作成。ブライダル事業でも、商談予定アプリなどを作っている。
これらのアプリの効果は絶大だった。グループ全体のほぼすべての日常業務が見える化され、大野氏の意思決定は格段に早くなった。加えて、社員の頑張りも実を結び、前年度比でレストラン事業の売上は126%、介護事業部は120%増加して、婚礼成約率も9ポイント上昇するなど、各事業で利益向上を達成。この「見える化」が、反撃の狼煙になる。
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