第300回
大阪にある警備会社のDXは、ネガティブ思考の事務員から始まった
業務改善とは「人の弱さと向き合う」こと だからkintoneの利用は“あきらめた”
2025年11月28日 08時00分更新
「業務改善とは人間の弱さと向き合う仕事」と語るのは、大阪の警備会社であるアースセキュリティの中西さやか氏だ。だからこそ同氏は、kintoneを導入するも、現場の警備員に“使ってもらうのをあきらめ”、DXを一人で抱え込まずコミュニティに助けを求めた。
サイボウズの年次イベント「Cybozu Days 2025」において、この1年で最も優れたkintone事例を決める「kintone AWARD 2025」が開催された。
4番手に登壇したアースセキュリティの中西氏は、巨大ホワイトボードで現場の管理をするようなアナログ業務を改善し、年1500時間の削減を達成した、kintone+αによるDX施策ついて披露した。
年間1000時間を浪費する「5メートルのドン引きホワイトボード」
アースセキュリティは大阪を拠点とする警備会社だ。その事業は、工事現場での交通誘導をはじめ、施設やイベントの警備、防犯カメラ設置や情報セキュリティまで多岐にわたる。
現在、25歳の中西氏は警備員として入社したが、経理事務へ異動。そこで彼女が目にしたのは、「ドン引き」するほど非効率なアナログ業務だった。
まず衝撃だったのは、アナログな「管制業務」だ。いつ、どの現場に、どの警備員を配置するかを、幅5メートルにも及ぶ巨大なホワイトボードで管理していた。隊員の名前が書かれたマグネットを貼り付け、配置が確定したら、そのボードを撮影。事務員は写真を見ながら、基幹システムとExcelへ手入力する。この作業だけで、実に「年間約1000時間」が費やされていたという。
もうひとつのドン引きポイントは、「Excelの転記地獄」だ。警備会社には、警察の立ち入り検査用にさまざまな書類を備え付ける義務がある。それらすべてをExcelで作成していた。営業が受注した案件ごとに、計5回もExcelやシステムへの転記が発生。特に基幹システムは「仕様上、絶対手入力」というルールまで存在していた。
こうしたアナログな環境なため、中西氏は日々ミスを繰り返してしまう。中西氏は自らを、「積極型マイナス思考系生き急ぎタイプ」と称する。つまり、行き過ぎた想像力で先回りして恐怖を感じ取り、そこから逃げるために行動するタイプの人間だ。そのため、周りの社員は優しいのだが、「今日こそ、ミスで怒られる」と日々怯えていた。中西氏は、その恐怖から逃れるたに、自らDXプロジェクトに着手する。
DX難易度「鬼レベル」の壁と、「kintoneを使わせない」決断
DXを進めるにあたり、中西氏がたどり着いたツールがkintoneだった。ノーコード開発の魅力に加え、カスタマイズ開発をする技術者のコミュニティ「cybozu developer network」の存在が決め手となった。
「cybozu developer networkとカスタマイズ性の高さがあれば、多少の無茶な要求があっても、最悪カスタマイズのパワープレーが効きます。結論を言いますと、kintoneで年間約1500時間の業務削減に成功します」(中西氏)
加えて改善に先立って、各部署の「攻略方法」を調査した。営業や管制は、PCが苦手だが、改善に積極的。経理は、PCは使えるが従来方法にこだわる。そして問題は、DXにおける壁になるだろう実働部隊の警備員(隊員)たちだった。18歳から80代まで年齢層が広く、スマホ操作すらおぼつかない社員も多い。「DX難易度、鬼レベル」(中西氏)な彼らには、kintoneのモバイルアプリも現実的ではない。
そこで、中西氏は、隊員たちには、kintoneを使わせるのを“あきらめた”。「(kintoneを使ってもらうのは)誰も幸せにならない選択です。だったら使わなきゃいいじゃない」と決断を下した。
代わりに彼らのために、使いやすさに特化した警備業クラウドサービス「KOMAINU」を導入。そして、KOMAINUのデータは、JavaScriptカスタマイズでkintoneの稼働管理アプリに連携させた。
処理が煩雑な事務員側はkintone、現場はKOMAINUと、ツールを使い分けることでデジタル化を達成。5メートルのホワイトボードは、3枚の大型モニターに置き換わった。
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