「進化と不変の選択肢」を掲げたウイングアーク1stのビジネスカンファレンス「UpdataNOW25」。11月12日に行なわれた基調講演では、ウイングアーク1st代表取締役 社長執行役員CEO 田中 潤氏が生成AIとデータのあるべき姿を提示。また、インフォマート、北九州市、ツルハホールディングス、PwCコンサルティングなどが登壇し、それぞれのチャレンジストーリーを披露した。
企業で進む生成AIの活用 課題は企業間取引でのデータの信頼性
基調講演に登壇したウイングアーク1st代表取締役 社長執行役員CEO 田中 潤氏は、「進化と不変の選択肢」という今回のUpdataNow25のテーマを掲げ、「今まさに日本も、世界も、変わろうとしているとき。この中で、われわれとして、変えてはいけないもの、変わらなければならないものを選択していかなければならない」と前置きする。
20年以上に渡ってデータの価値を訴えてきたウイングアーク1st。田中氏は、「進化とはDX、生成AIなどのテクノロジー。一方、不変はデータの価値。でも、データの使い方は変わってきた」と指摘し、同社の調査を元にDXや生成AI利用の現状を共有した。
経営視点で感じるデータ活用や分析のメリットとして、多くの企業が「効率的な経営判断」を挙げているという調査を披露し、データ活用がいよいよ企業の意思決定や成長に根付いてきたと語った。実際に約8割の企業がDXを実践しているという。
DXをより推進するべく、注目を集めているのが、近年すさまじい進化を遂げている生成AIだ。2025年には企業の約8割が生成AIの活用に着手しており、利用用途も、社内文書の作成や会議の要約、データ分析・レポート作成を筆頭に、マーケティング・コンテンツ作成、社内ナレッジの検索・情報共有、顧客対応などに拡がっている。そして、昨年から比べると、コード生成やプログラミングの分野での利用が増えているのも特徴。「当社も生成AIを使ったプログラミングが主流になっている」と田中氏は語る。
一方で、生成AIを利用するのにあたっての課題も顕在化している。「セキュリティやプライバシー、情報漏えいリスク」などは当初から指摘されていたことだが、田中氏がポイントしたのは、課題の6位に入っている「既存システムとの統合・データ基盤整備」だ。「生成AIはデータがなければ使えない。そうすると、生成AIを利用するためのデータ基盤が必要になる」(田中氏)
しかし、社内のデータ活用においては、「データの正確性や品質に問題」「セキュリティ対策が不十分」「社内システムの連携が困難」「データ間の整合性がとれていない」などさまざまな課題が存在するという。特に「データの正確性や改ざんのリスク」は、企業間取引で問題になっており、生成AIの活用のブレーキになっているという。「AIがデータを作ってしまうと不安。データが改ざんされるのではないかというリスクをお客さまは感じられている」と田中氏は指摘する。
ダークAIのリスクに対応する「Trustee」 来春にはeシールもスタート
AIによる改ざんリスクを深掘りする田中氏は、生成AIを「ホワイトAI」と「ダークAI」の2つに分類する。善悪のない純粋なテクノロジーである生成AIは、人が利用するにあたっての制限やルールが教え込まれた良識のあるAI(=ホワイトAI)として世の中のサービスに実装される。そのため、ChatGPTやClaudeなど制御されたAIサービスは、不正データを作成しようとすると、アラートが掲示される。
しかし、制限を持たないダークAIの場合、画像やPDFで不正データを作成できる。たとえば、経費精算で利用するレシートの日付や金額を、見た目そのままに改ざんすることが可能だ。もちろん、改ざんする方が悪いのは確かだが、改ざんできてしまうデータを生成できてしまうという点も問題になりかねない。
こうした課題を解決するために作られたのが、ウイングアーク1stのデジタルトラストサービス「Trustee(トラスティ)」だ。第一弾のタイムスタンプサービスでは、文書の存在証明と非改ざん性を証明し、AIによる不正改ざんリスクを軽減する(関連記事:日本最速の1000文書/秒のタイムスタンプを実現する「Trustee」 生成AIのデータ改ざんに対応)。タイムスタンプは電帳法対応でも重要な要件だが、帳票サービスを手がけるウイングアーク1stとしては、文書の信頼性担保のために、こうした新サービスを手がけているという。
Trustee(タイムスタンプ)の特徴は、なによりタイムスタンプ付与の性能が圧倒的に速いという点だ。通常のタイムスタンプサービスは1つの文書あたり、17秒程度の処理時間がかかるが、Trusteeの場合は秒間1000文書を超える驚異的なスピードでタイムスタンプを付与できる。高速な処理に加え、高い可用性や低廉なコストも売り。今月からは同社のデジタル帳票基盤「invoiceAgent」の全テナントで利用可能になり、AIによる改ざんを防げるセキュアな文書環境を実現する。
また、Trusteeの第2弾として「Trustee eシール」の提供も発表された。「社判みたいなもの」(田中氏)というeシールは発行元を証明するサービスで、2026年の春にリリース予定となる。「タイムスタンプとeシールを組み合わせることで、誰がいつ作ったものかを証明できる」と田中氏はアピールする。
従来、同社はデジタル化された帳票の出力、配信、保管、受領を実現するデジタル帳票基盤を提供してきたが、今後は企業間取引において「信頼できる帳票」を提供。安心できる企業間取引をデジタルで実現していくという。
データ活用基盤では生成AIを全面採用
生成AIの利用を阻むダークなAIの抑制に加え、ホワイトなAIの利活用も推進する。その一例が、生成AIでチャートやダッシュボードを生成できる「MotionBoard re:Act」になる(関連記事:最短10秒で誰もがダッシュボード作成 「MotionBoard」新版は生成AIにネイティブ対応)。デモでは、ユーザーの自然言語でのリクエストに対して、Dr.Sumにアクセスして、データ構造を調べ、ダッシュボードを生成する模様が披露された。
もちろん、生成AIのサービスでも似たようなことはできるが、MotionBoard re:Actでは完成したダッシュボードを共有したり、データ更新も可能。「確かに生成AIはおねがいできればダッシュボードを作ってくれます。でも、どうやって成果物を共有するのでしょうか? はたまたデータは最新版になっているでしょうか? データのコントロールやセキュリティはどうするのでしょうか?」と田中氏は指摘する。
これに対して、MotionBoard re:Actは、これらの課題を解決し、ダッシュボードを運用することが可能になる。「まさに生成AIを運用するためのデータプラットフォームとして利用できるのがMotionBoard re:Act」と田中氏は語る。もちろん、既存のデータやダッシュボードの利活用も可能。来月から利用可能になるという。
同社はデータの収集や連携、統合などを実現するDr.Sum、Dr.Sumのデータを可視化するMotionBoardで、高速なデータ活用基盤を実現してきた。これに生成AIのケイパビリティが組み込まれることで、さらなるデータ活用を推進する。
田中氏は、自治体のソリューションについても言及。住民や事業者接点の自治体DXを実現するウイングアークNEXのデジタルガバメント事業に、ウイングアーク1st本体でLGWAN内のシステムやマイナンバー系の基幹業務を支える「Govlong」などのサービスを組み合わせることで、次世代の自治体DXを一気通貫で提供できる強みをアピール。「データとテクノロジーで企業や自治体のDXを支援し、継続的な成長を実現したい。これからもウイングアーク1stにご期待いただきたい」とまとめた。
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