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金沢のJAWS FESTA 2025で出会う「災害支援」という課題

能登半島地震で浮き彫りとなった情報共有の課題とは? AWSエンジニア、金沢で災害支援を学ぶ

2025年11月04日 10時00分更新

被災者を支援したいのに、被災者のデータベースがない

 西垣氏は災害救助法適用後に石川県が実施した3つのステップを紹介した。ステップ1は避難所データベースの運用だ。こちらは市町村が入力して、県が活用する仕組みとして総合防災情報システム「EYE-BOUSAI」が利用されており、避難所と人数を把握できる。ただ、後述する通り、あくまで指定避難所や市町村の入力が前提で、今回はイレギュラーな運用が求められたという。

 次のステップ2で必要になるのは、避難者のデータベースだ。避難所と避難者の情報、名前、住所、年齢、性別、連絡先などをひも付けることで、初めてステップ3のニーズに応じた支援が可能になる。しかし、現状はこの避難者データベースがない。住民票を持った市町では被災者生活再建支援システムはあるが、あくまで罹災証明が前提。災害救助法で災害支援の主体となっても、石川県としては「誰を支援するのか?」を調べる方法がなかったわけだ。

災害支援で必要な避難所情報、被災者情報、そして支援施策

 西垣氏は「こういう施策に取り組む場合、まずは対象を特定して支援するのが流れだと思うんですが、避難者を特定して支援する仕組みが今ないんです。これが大前提。これにいきなり取り組んだのが(能登半島地震での)石川県。だから課題だらけでした」と振り返る。

 まずステップ1の避難所については、EYE BOUSAIで登録する仕組みはあったが、発災直後にインフラが断絶したため、そもそも避難できない被災者がいた。自宅や車で過ごしたり、自主避難所が開設されたところもあった。自衛隊や報道機関、DMAT(災害派遣医療チーム)などによると、孤立集落は24集落、3300人を超えていたという。「まずは避難できる人と避難できない人ができたということ。(後者の)避難できない人をどのように取り込むのかが最初の課題でした」と西垣氏は語る。

避難できない被災者がおり、自主避難所も開設されたが、把握できなかった

 市町村が開設している指定避難所は場所も特定されており、IDも振られているのでシステムに登録しやすい。しかし、自主避難所や孤立集落は、場所も、規模もまったくわからない。避難所の情報と人数を確認しなければならないのは、これらが支援の質に直結するからだ。「避難所が特定的にできない上に、何人いるかもわからない。避難所と物資支援が全然合わない。とりあえず2~3割増しで送っていた」(西垣氏)。インフラが断絶した段階で、もっとも被災者に近かったのは救助を担当した自衛隊だったため、自衛隊からのリクエストを受けて、物資を送っていたこともあった。

把握している被災者数と物資の数が合わない

水も電気もガソリンもない中、県職員が市町に出向いてデータ入力

 発災から2日後、西垣氏に「自衛隊が把握している自主避難所や孤立集落の情報を防災システムに取り込めないか?」と提案を持ってきたのが、サイボウズ災害支援チームリーダーの柴田哲史氏だ(関連記事:被災者と支援者が語る能登半島地震のリアル 支援で見えた仕組み作りの大切さ)。

 柴田氏は、自衛隊が把握している孤立集落の情報を県側でも使えるようにするため、ゲートウェイを介して、タブレットで現地の写真を登録できるシステムを構築した。「写真のファイル内には緯度・経度が登録されているので、自主避難所と場所の名寄せをこのシステムでやりました。写真にはタイムスタンプも入るので、いつの時点で何人いるのかもわかるようになりました」と西垣氏は語る。

 課題は、総合防災情報システムのEYE BOUSAIに市町以外の情報をいかに取り込むだ。「市町村から上がってきた情報以外の情報をEYE BOUSAIに入れるなんて、やったことない」と西垣氏。通常時は手続きを遵守すると情報は正確になるのだが、今回直面したのは手続きを遵守したら、情報が不正確になるというパターンだ。市町が避難所情報や手書きの名簿を集めても、指定避難所以外の避難先には対応できないし、人の移動も把握できないことになる。

 また、自衛隊以外にもDMATが指定避難所以外の自主避難所や孤立集落で医療活動を展開していたが、こちらは独自のデータベースを持っており、命名ルールやIDも異なっていた。そのため、これらの名寄せも大変。そのため、石川県では指定避難所のIDを共通化しつつ、自衛隊やDMATなどが調査した自主避難所も、SAPのデータベースに一次集約し、総合防災情報システムのEYE BOUSAIに登録することにした。

現地調査で得た写真や情報を総合防災情報システムに登録する

 一番大変だったのはシステムではなく、現場のオペレーションだったという。「やったことがないことに対して、手続きに頼らず、現場でどう動くか。市町で登録しなければならないので、当初は県職員がわざわざ市町に出向いて入力していました。名寄せや手書き対応も大変でしたが、そもそも水も出ない、電気も使えないので、道路も大変だったので、命がけでした」と西垣氏は語る。

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