金沢のJAWS FESTA 2025で出会う「災害支援」という課題
能登半島地震で浮き彫りとなった情報共有の課題とは? AWSエンジニア、金沢で災害支援を学ぶ
2025年11月04日 10時00分更新
2025年10月11日、金沢で開催されたJAWS FESTA 2025には、石川県の前副知事である西垣淳子氏が登壇。自らがリードした能登半島地震における被災者支援に必要になったデータベースの構築を通じて、災害対策における行政の課題について説明した。災害支援における情報共有の難しさをAWSエンジニアが学ぶ貴重な機会となった。
悲願だった北陸での開催 エンジニアに学んでほしい災害支援の課題
JAWS FESTAはAWSのユーザーグループであるJAWS-UGが主催する年次イベントで、春先に都内で開催されるJAWS DAYSの地方版にあたる。イベントの冒頭、JAWS FESTA 2025 in 金沢の開会を宣言した実行委員長のふぁらお加藤さんは、「ホントに開催できるもんですね」と感慨深そうに第一声を挙げる。
東京で行なわれるJAWS DAYSに対して、地方版のJAWS FESTAは全国持ち回り。これまで大阪、名古屋、仙台、福岡、札幌などで行なわれており、北陸での開催は悲願だった。一昨年は広島と金沢で開催地を争ったが、能登半島地震のため、金沢での開催はいったん断念。震災の復興も道半ばという現在だが、災害支援を大きなテーマに掲げて、いよいよ金沢での開催にこぎつけた。
今回、スタッフ含めた参加者はなんと300人を超えたという。ここまでの人数を収容できる会場をコミュニティで確保するのは難しかったため、今回は金沢市内の観光地である近江町に位置する「ITビジネスプラザ武蔵」と「近江町交流プラザ4階まなびぃ広場」の2ヶ所を貸し切った。ただ、全員入れる部屋はないため、集合撮影はなくし、サテライトで配信を視聴できるように工夫したという。
会場の諸注意や2会場のアクセス、イベントの楽しみ方、懇親会の受付、アンケートなどについて説明した加藤さんは、「今日は楽しんでいってほしいです!」とまとめ、金沢でのJAWS FESTA 2025がいよいよスタートした。
災害救助法の適用で被災者支援の主体になった石川県
続くメインセッションでは、石川県の前副知事の西垣淳子氏が登壇。能登半島地震の発災時に災害支援をリードした経験を元に、「能登半島地震で見えた災害対策の課題と組織変革の重要性」というタイトルで被災者支援のデータベース作りについて講演を行なった。
経済産業省の官僚だった西垣氏は、能登半島地震の約1年半前に石川県の副知事に着任。「もともとデジタルな人だったわけではないのですが、東京都副知事の宮坂さんがおっしゃるとおり、県庁や都庁に入ってみると、あまりに違ってびっくり。そこから、庁内のデジタル化を進めました」と振り返る。災害支援に関しても、着任後いくつかの災害が何回か起こり、少しずつシステムの整備をしてきた中で、震災当日を迎えたという。
2024年の能登半島地震は、1月1日の16時10分に起こった震度7の地震が本震となるが、実際は4分前に震度5の地震が起こっていた。また、1月1日ということで、帰省していた人も多く、観光客とあわせると普段よりも人口が4割多い状態で震災を迎えたというのも特徴だった。「本震4分前の地震で、津波が来るといけないからと、外に出たことで、家の倒壊から免れた人もいた」とのことで、実は生死を分ける4分でもあったという。
そして起こった能登半島地震。地震のみならず、火災や津波で被害がさらに拡大した。能登半島にある志賀町、輪島市、七尾市、珠洲市、穴水町、能登町の6つの市町で大きな被害が発生し、石川県は同日に6市町を含む17市町に災害救助法の適用を申請した。
災害救助法が適用されると、災害支援の主体は市町村(基礎自治体)から都道府県に移る。自身も被害を受けている自治体は災害対策の費用負担がなくなり、都道府県と国が半分ずつ負担することになる。通常、災害救助法の適用は被害が積み上げられてから申請されることが多いが、能登半島地震の場合、広域災害として県のリーダーシップを発揮すべく、震災当日に災害救助法の適用を申請したのが大きかったという。
では、能登半島地震で、どのような問題が起こったのか? まずは道路やその下にある電力やガス、通信などのケーブル・配管が断絶した。電力が供給できないため、ケータイの基地局がバッテリーでの稼働を終えると、通信ができなくなった。道路が使えないため、自主避難所や孤立した集落が発生し、連絡が取れなくなったところもあった。
もう1つ起こったのは医療や介護施設の機能低下だ。被害の酷かった6市町は高齢化率がほぼ5割で、しかも全体の3割は後期高齢者だ。インフラが断絶し、地元の医療機関や介護施設が機能低下してしまうと、高齢者の健康に大きなダメージをもたらすことになる。
こうした事態から能登半島地震では「広域避難」が必要になった。広域避難とは、住民票のある市町村から住民票のない市町村に移動すること。災害関連死を防ぐだけではなく、避難生活の質の改善を実現するのが目的となる。「これだけ大規模な広域避難は、東日本大震災以来」(西垣氏)だという。
ただ、広域避難での課題は、避難先の市町村に住民情報がないこと。「みなさんが思っているほど、国は住民情報を持っていません。マイナンバーや納税者情報は組織ごとにすべて遮断されているのが現状。住民票に関しては、完全に市町で分断しているので、広域避難を行なうと、住民情報がまったく動かないというのが、今日の話の中心になります」と西垣氏は語る。
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