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KDDI、次世代AI開発を国内で加速! 最新GPUクラウドと大阪データセンターの全貌

 KDDIは日本のAI開発力と産業競争力の強化を目指し、大規模なAIインフラの整備と最新クラウドサービスの提供を発表しました。特に、機密情報を安全に取り扱うための「ソブリン性(データ主権)」の確保に焦点を当てた、意欲的な取り組みをご紹介します。

AI時代の要塞「大阪堺データセンター」が始動

 KDDIは2026年1月下旬から、「大阪堺データセンター」の稼働を開始します。このデータセンターは、最新世代のAIサーバー「NVIDIA GB200 NVL72」を搭載する予定です。

 このデータセンターがユニークな点は、その建設背景と技術力にあります。2025年4月に取得したシャープ堺工場跡地の大規模な電力・冷却設備を再利用し、KDDIが長年培ってきたデータセンター構築の知見を活用することで、短期間での稼働が可能となりました。

 最先端の冷却技術を備えているのも特徴です。AIサーバーは非常に高性能であるため、大量の熱を発します。このデータセンターでは従来の空冷方式に加え、熱を液体で直接冷やす「直接液体冷却」という水冷方式を導入しています。これにより、計算能力が高いAIサーバーも安定して稼働させることが可能です。

 また、再生可能エネルギー由来の電力を100%利用するという、環境に配慮した設計になっています。

 法人へGPUを提供するだけでなく、グーグルの高性能な生成AIモデル「Gemini」のオンプレミスサービスなど、パートナーとの協業を通じたAIサービス開発にも活用されるとのことです。

最先端GPUをオンデマンドで
「KDDI GPU Cloud」

 大阪堺データセンターを活用した第1弾サービスが、GPUを提供するクラウドサービス「KDDI GPU Cloud」です。

 サービスの特徴は、最新世代のNVIDIA GB200 NVL72が提供されることです。このGPUは、NVIDIA社のリファレンスアーキテクチャに準拠して構築されているため、最高の性能を引き出せる構成になっています。

 特に注目すべきは、GPU同士を高速通信で接続する「NVLink(エヌブイリンク)」技術です。これにより、複数のGPUを組み合わせたクラスタ環境(多数のサーバーを連結した巨大な計算環境)において、低遅延かつ高帯域幅で連結され、これまで計算時間を要していた分析を非常に高速に実行できます。

 サービスの申込受付開始は2026年4月1日から、トライアル提供は2026年1月下旬のデータセンター稼働開始から予定されています。

日本のデータ主権を守るセキュリティー

 昨今、生成AIの急速な成長に伴いGPU需要が高まっていますが、海外事業者に依存している現状があります。一方で、機密情報の漏洩リスクや地政学リスクを背景に、データを国内に保管し、データ主権(ソブリン性)を守ることが求められています。

 本サービスは、日本国内で運用される本AIデータセンター上で提供され、ガバナンスが担保されたセキュアな環境を実現します。監視カメラの映像や企業の秘匿情報などの機密性の高いデータも安心して保管し、学習・推論に活用することが可能です。

 また、このGPUクラウドは、幅広い分野でのAI開発に貢献します。

 ユースケース例を2つ紹介すると、1つめはモビリティ事業者による自動運転モデル開発(個人情報や走行データなど機密性の高いデータの学習)や、金融機関での市場予測、リスク対策シミュレーション(顧客情報や社内機密データの解析)に最適です。また、法律、医療など専門領域に特化した大規模言語モデル(LLM)や対話AIエージェントの開発にも活用できるそうです。

 2つめは医療研究機関における活用です。ゲノム解析や症例画像解析といった秘匿性の高いデータを扱う研究、あるいは気候変動予測AI、防災シミュレーションAI、ロボット制御AIなどの大量データを用いた研究開発にも役立つとしています。

【まとめ】日本のAI開発をリードする「国内完結」モデル

 これまで、日本の企業や研究機関が機密性の高いデータをAI開発に活用しようとする際、セキュリティーやデータ主権の観点から海外のインフラに頼ることに大きな不安がありました。しかし、今回、KDDIが最新鋭のNVIDIA GB200 NVL72という技術的な「切り札」を、国内にソブリン性を確保した環境で提供し、さらに柔軟なオンデマンド利用を可能にしたことは、この問題を解決する決定的なソリューションとなり得るでしょう。

 特に、水冷技術の導入や再生可能エネルギー100%利用といった技術的・環境的な配慮は、長期にわたって安定したAIインフラを提供しようとするKDDIの強いコミットメントを示しています。国内のAI開発者たちが、データガバナンスの心配なく、最高速の環境で研究開発に集中できる環境が整うことで、日本の産業競争力強化に大きく貢献すると期待されます。

 この「国内完結型」のAIインフラの登場は、日本のAIエコシステム全体を底上げするかもしれません。

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