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Intel Tech Tour 2025取材レポート【その3】

Panther LakeのGPU「Xe3」はなぜArc Bシリーズなのか?16コア12Xe版のゲーミング性能は前世代の倍でマルチフレーム生成も発表

2025年10月21日 13時00分更新

CPUクロックの変動を抑え、GPUへ最大限の電力をまわす

 モバイルPC向けGPU最大の敵は隣にいるCPUだ。ゲームを快適に遊ぶにはCPUもGPUも性能が必要だが、利用可能な電力の上限は決まっている。Panther Lakeの16コア12Xe版の正確なTDPは明らかになっていないが、ITT 2025では45W設定動作の機材が多かった。この場合、45Wの予算をどうCPUとGPUに分配するか? が問題となる。

 ゲームにおいて、CPUとGPUの電力分配問題をいかにエレガントに解決するかはAMDもNVIDIAも模索していることだ。AMDの場合は「AMD SmartShift」、NVIDIAならMax-Qテクノロジーに含まれる「Dynamic Boost」がこれに相当する。いずれの機能もCPUよりもGPUに電力をより多く分配することでゲームにおけるパフォーマンスを最大化するというものだ。

 インテルの場合、これに相当する機能が「Intelligent Bias Control」、略してIBCである。現在、Lunar LakeではIBC v2が利用できるが、Panther Lakeではこれを進化させたIBC v3を実装する。

 IBCはGPUドライバーを通じてGPUの利用状況を観察し、ITD (Intel Thread Director)からOSにヒントを出す。GPU負荷が限界に達しているなら、それはGPUが電力を欲しているということであり、CPUが使う電力を適度に抑制する必要がある。CPUのクロック変動(≒電力)を減らすことで、GPUのパワーが急激に落ち込まないようにする。

 IBC v2の目的は、CPUの利用を調整することで、ゲーム画面のスタッタリングを抑制するというものだ。インテルによれば、「Fortnite」や「PAYDAY 3」といったゲームでは、最低フレームレートの落ち込みが劇的に軽減するという。スタッタリングの発生はゲーム体験のQOLを著しく下げるため、これは理に適った実装といえる。

こちらはゲーム処理中における電力の推移をグラフ化したもの。CPUのクロックが跳ね上がってより多くの電力を消費すると、GPUのクロックが下がってしまう。つまり、その時に大きくフレームレートが下がり、QOLが下がってしまうわけだ

現在Lunar Lakeで利用できるIBC v2。主にスタッタリングを軽減するために開発された機能で、CPUのスパイクを抑制してGPUにより多くの電力をまわすための機能だ

IBC v2を使う前(水色)と使った後(紫)のフレームレートの差。平均フレームレートも伸びているが、特に最低フレームレート(の下位1パーセンタイル点)が大きく改善している点に注目してほしい。ときに、PAYDAY 3とFortniteにおける最低フレームレートでは差が顕著だ

 Panther LakeのGPUドライバーに搭載するIBC v3は、さらにコアのスケジューリングに対してのヒントを出すことで、GPUへの電力供給を極大化する。具体的には、Eコアを優先して割り当てることでCPUの電力を抑制するというものだ。インテルいわく、GPUドライバー内にアプリケーション認識機能があるとのことなので、ドライバー側にEコア優先でスケジューリングするゲームのリストを持っていると推測できる。

 IBC v3のおかげで、Panther Lakeではゲーム処理中のCPUクロック変動を劇的に抑制し、GPUに安定して大電力を振り分けることに成功したという。しかし、果たしてこれがどの程度の効果があるのか。来年の実機検証が待ち遠しい。

IBC v3ではコアのスケジューリングも追加。つまり、ゲームでGPUにもっと多くのパワーが必要と判断した場合は、Eコアから使うようにITD(Intel Thread Director)を通じてOSに勧告するのだ

IBC v2とv3で電力の取り合いがこれだけ違う、という図。左はIBC v2でCPUが多くの電力を要求しているどころか、乱高下している(これでもIBC v2が介在しているというが……)。右のIBC v3にするとCPUの消費する電力が抑制されるどころか、非常に安定している。そのぶん、GPUにより多くの電力がまわっていることがわかる

 IBCとはまったく違うベクトルでゲームのスタッタリングを抑制する新機能も実装する。発売直後のゲームの挙動が激しくカクつく理由として、ゲームのシェーダーが作られていないため、というものがある。これを抑制するために、近年のゲームはシェーダーのプリコンパイル作業を行うのだが、非常に時間を取られるためゲームを遊ぼうという熱が冷めてしまうことも多い。

 そこで、インテルはゲームごとにプリコンパイルしたシェーダーを自前のクラウドストレージに置いておき、ドライバー側がシェーダーキャッシュにダウンロードするという仕組みを構築した。ゲームのDay 1から最適なプリコンパイルシェーダーが得られるので、スタッタリングも待ち時間も減るという仕組みだ。

 ちなみに、Linux+SteamでWindowsのゲームを導入すると、頻繁にシェーダーアップデートという形のダウンロードが発生するが、これと同じような仕組みをドライバーレベルで導入したものだろう。

クライアント側で行うシェーダーのプリコンパイル作業を省略するために、インテルは自前のクラウドストレージにプリコンパイルしたシェーダーを用意するという力業に出た。ただし、今後インテル産GPUの種類が増えていくとプリコンパイルすべきシェーダーも加速度的に増えていくため、事業として成立するのか? と少々心配になる部分もある

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