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物流大手ロジスティードが挑んだ“主体性を育む”市民開発者育成

わずか3名で5万6000人へのkintone展開 「作る」から「変える」マインド変革が突破口に

 社員数が5万6000人を超える物流大手のロジスティードは、kintoneの全社展開に踏み切った。課題が山積みな一方で、推進メンバーはわずか3名のみ。工夫を凝らして施策を展開するも、思い通りに進まない。転機となったのは、「何を変えるべきか」という本質的な問いに向き合うことだった。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2025 Tokyo」を開催。ラストを務めたロジスティードの辺玉婷氏は、kintoneの全社導入に向けた、市民開発推進とマインド変革の軌跡について披露した。

ロジスティード 人事総務本部 VCセンター 辺玉婷氏

kintone大規模活用の前にふさがる全社展開の「壁」

 ロジスティードは、グループ社員数5万6000人を抱える、総合物流企業だ。3PL(サードパーティロジスティクス)事業で成長を続けており、2023年に日立物流から社名を変更している。

 2017年の入社以来、VC(バリューチェンジ&クリエーション)センターで業務改善に取り組んできた辺氏は、2022年からkintoneの全社展開を担当することになる。しかし、大規模の組織でのkintone活用は、想像以上に多くの壁が立ちはだかったという。

 開発人員の不足、デジタルリテラシーの格差、多種多様な業務プロセス、情報のサイロ化など、課題は多岐にわたった。こうした状況に対して、kintoneの推進メンバーはわずか3名。限られたリソースでkintoneを広げていくための工夫が不可欠だった。

 推進チームはまず、全社展開のステップを「知ってもらう」「触ってもらう」「要望に応える」の3段階に定義し、それぞれに対応する施策を展開する。

 kintoneに関する全ての情報を集約したポータルサイトを構築し、誰でもアクセスできる情報基盤を整備。次に、心理的なハードルを下げる、自由に触れられる学習アプリを用意した。現場からの質問や要望を集約・共有するQ&Aアプリも導入して、個別対応の工数削減を図った。

「しかし、知ってもらうことからつまずきました。そもそも、自ら考えて改善するという文化が社内に根付いておらず、現場から『アプリを作ったんだけど、全然楽にならない』と聞かれるたびに、私も困ってしまう。根本の問題が残されていたら、使いづらいままなのは当然でした」(辺氏)

導入初期に直面した様々な課題

 加えて、自由に触れる環境を用意した結果、管理が行き届かない「野良アプリ」が生まれる事態も招く。誰が何の目的で使っているか把握できず、削除の判断もつけられない。

 Q&Aアプリも思い通りにはいかなかった。対応工数を減らすつもりが、毎月20件以上の質問に回答しても、「直接教えてほしい」という声が後を絶たない。辺氏は、「頑張っても頑張っても伝わらないことに正直辛さも感じました。こうした苦労をしながら、私たちが気づいたのは、本質的な理解がないとどんな仕組みも機能しないということでした」と振り返る。

「作る」から「変える」マインド転換がもたらしたブレークスルー

 導入後のリアルな問題点を通じて、推進チームは従来の進め方を見直し、再スタートを決断した。そこで向き合ったのは、「何を変えるべきか」という本質的な問いだ。チームが導き出した答えは、“アプリの作り方”ではなく、“業務そのもの”、そして“従業員のマインド”を変えることだった。

「kintoneはアプリ作成ツールですが、真の価値は業務の流れや働きかたを変えた時に生まれます。つまり、必要なのは“作る”ではなく“変える”というマインドの変革です」(辺氏)

 この気づきをきっかけに、ロジスティードは、kintoneアプリの開発アプローチを「センター開発」と「市民開発」の二軸に明確に分類した。

 全社標準の業務プロセス、法令遵守に関わるようなリスクが高い案件については、推進チーム(VCセンター)が要件定義を経てアプリ作成し、品質を担保する。一方で、部署固有の業務プロセスやリスクが低い案件については、市民開発として現場主導でのアプリ作成を推奨する方針に切り替えたのだ。

センター開発と市民開発の切り分ける方針に見直した

 市民開発においては、「失敗しても大丈夫」という前提のもと、現場が自由にチャレンジできるよう、心理的安全性の高い環境づくりを重視した。この方針転換によって、現場の主体性が引き出され、改善スピードも格段に向上したという。

 一方のセンター開発で大切にしたのが、現場への「問いかけ」だ。アプリ開発の依頼を受けた際、言われた通りに作るのではなく、まずは業務そのものを見直すことから始めた。「例えば、『この業務は本当に必要ですか』『なぜここは手入力しているのですか』といった問いを投げかけることで、現場の当たり前を見直すきっかけになります」(辺氏)

 このアプローチによって、単なる作業のデジタル化ではなく、本質的な業務改革へとつながる道筋が見えてきた。

センター開発で重視する「問いかけ」の姿勢

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