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舞台は大阪の警備会社 事務員がマイナス思考で行動しまくったらDXしていた話

kintoneを使ってもらうことはあきらめた でも、年間1500時間も業務時間は減った

頑固さ、ITアレルギーMAXの隊員 kintoneはあえて使わない

 中西氏がkintoneを選んだ理由。ノーコードでアプリを作れるのも魅力的だったが、特に心引かれたのは開発者向けサイト「Cybozu Developers Network」だ。「このカスタマイズ性の高さがあれば、無茶な要求でも最悪パワープレイが効く」。そう考えた中西氏は、kintoneの導入を決める。

 結論として、年間約1500時間の削減に成功したkintone。では、どのようにこの成果を実現したのか? 1つ目のポイントは「kintoneを使ってもらうのをあきらめる」だ。一見矛盾したポイントだが、ここにいたるべく、中西氏は業務棚卸しの際に、ヒアリングやアンケートで各部署の攻略法を編み出していた。

kintone使ってもらうのをあきらめる

 たとえば営業部や管制は、現場上がりの方も多く、パソコンを使えない人が多かった。しかし、改善意欲は高いため、難しくなければ導入は応じてくれると見られる。一方で、経理部はパソコンは得意だが、自分のペースを乱されることに抵抗感があるため、従来のやり方にこだわる傾向があるという。しかし、いったん説得に応じてもらえば、自走するポテンシャルすらあるという見込みがあった。

 問題は、現場の隊員。18~80歳台まで年齢は幅広く、スマホを使えない人もおり、頑固さやITアレルギーがMAXだ。この「DX難易度鬼レベルの人たち」にkintoneを使ってもらえるのか? 最終的に「これは無理だ」と結論づけた。「大前提として、kintoneのモバイルアプリってちょっと使いづらいじゃないですか(小声)。これをスマホが苦手な80代の方に使っていただく。これは労力とコストに対するリターンが望めません。誰も幸せにならない選択です」と中西氏は語る。

DX難易度鬼レベルの隊員たち

 結果として選択したのは、専用の警備管制システム「KOMAINU」を利用することだった。KOMAINUを使えば、ホワイトボードのように隊員を配置でき、シンプルなモバイルアプリで情報を共有することができる。中西氏は、JavaScriptカスタマイズでkintoneにデータを取り込めるようにし、実績入力や追加請求の入力などをkintone上で実現できるようにした。さらに立ち入り検査対応の一覧を作成することにより、メイン業務をしながら、監査対応の書類を作成できるようにした。

 スマホが苦手な隊員にはインターフェイスの優れたKOMAINU、煩雑な処理がある経理にはカスタマイズ性の高いkintone。「刺さるところを見定めることで、弊社ではkintoneを確実に浸透させることができました」と中西氏は語る。

刺さるところを見定め、確実に浸透

カスタマイズはオススメしない でも、内製化にこだわったのは?

 2つ目は「保守性の確保をいったんあきらめる」だ。たとえば、新しい案件を獲得した場合、営業は顧客登録、契約登録、案件登録の3つのデータベースへの入力が必要になる。今までは3回の転記でこなしてきたが、kintoneになったところで、この入力は結局やらなければならない。「だったら1つにすればいいじゃん」ということで、導入されたのがkintoneの新規現場管理アプリだ。

 新規現場管理アプリで新規入力を行なうと、条件に応じてボタンが有効化される。たとえば新規顧客を選択すると、顧客登録が有効になる。あとはボタンをクリックされることで、他のマスターへのデータ入力も自動で行なわれる。「この仕組みのおかげで、パソコンが苦手な営業さんにも無理なくkintoneを使ってもらうことができるようになりました」と中西氏が語る。

 ただ、kintone標準ではこうした登録時の条件分岐が行なえないため、JavaScriptカスタマイズで行なっている。「kintoneの標準ではできることが限られています。システムに人間が寄り添っていけるのが理想なのですが、運用でカバーする範囲が大きいほど、kintoneへの反感につながってしまう」と中西氏は指摘する。

 実際、今回の事例では「ユーザーの負担を減らす」という目的を最優先するという意思決定があったからこそ、クリック数を減らすカスタマイズの設計が可能になった。ただ、カスタマイズは学習コストがかかり、属人化へのリスクは存在する。「カスタマイズは自己責任です。基本的にはオススメしません。管理コストも馬鹿にならないので、正直プラグインを使った方が断然お得です」と中西氏。

カスタマイズはあくまで自己責任。管理コストから考えてもプラグイン

 ちなみに中西氏は、「生成AIの普及でカスタマイズの敷居がグッと下がってしまいました。なので、われわれはガバナンスやルールの見直しをしっかり行なうべきだと考えています」と指摘する。そこで、アースセキュリティでは、いったんあきらめた属人化の課題にも対応すべく、カスタマイズを内製化するための開発班を立ち上げた。現在は、中西氏含めた3人で開発を行なっている。

 では、なぜカスタマイズの内製化にこだわったのか? たまたま部内にコードを書ける人がいたということもあるが、実は「新規事業になったらいいな」という目論見もあった。こうして生まれたのが、KOMAINUとkintoneとの連携プラグインを自ら開発し、外販する「KomaToneプロジェクト」だ。「これをやりたいがために、開発をがんばってきたのです」と中西氏は語る。

「KomaToneプロジェクト」成果物を外販するまさにDX

 ここで中西氏がアピールしたのは、「カスタマイズがよい」ということではなく、「組織にあった手段を取るべき」ということだ。アースセキュリティの場合は、ユーザーの負担を最小化するという目的を実現するためのコードを書ける人材がおり、かつ挑戦を許容する社内文化があったという。

モチベーション喪失時にふらっとコミュニティへ

 3つ目は「完璧をあきらめる」だ。前述した通り、KOMAINUにデータを入力したデータをJavaScriptカスタマイズでkintoneの稼働管理アプリに連携させることで、インボイス対応の請求書が簡単に作成できるようになった。

 しかし、そこで問題になったのがとある事務員さんの退職だ。これはまずいということでメンバーを増やしたが、不慣れな育成やプロマネ業務で中西氏の業務が激増。「怒濤の入社研修が終わった頃には、モチベーションがなくなってしまいました」と中西氏は振り返る。そんな中西氏がXでふと見つけたのが、kintoneの話で盛り上がるユーザーコミュニティの存在だ。

モチベーションがなくなった結果、ユーザーコミュニティに行ったら?

 「ふらっと参加した結果、めちゃくちゃ楽しかったんですよ!」と中西氏。他社の話を聞くことで勉強になるし、社内では通じない話、業務改善の想いを話すことで、自分自身の整頓することも可能になったという。「やはり1人で考えていると、視野がぎゅっと狭くなってしまいます。しかし、同じように悩んで、一歩ずつ進んでいるみなさんを見て、もう少し気楽にやっともいいかなと、思うことができました」と中西氏。

 大事なのは完璧を目指さないこと。「しっかりした先輩でなくてもいいや」「入力ミスがあっても仕方ないね」「作ったアプリがすぐに使えてもらえなくてもしゃあない」「市民開発できてないけど、今じゃなくていい」、なにより「人間なんだし気分が落ち込むこともある」といった、なるようになるか精神が大事。中西氏は、「改善は大事ですが、折れないことがなにより大事。辛くなったら、ユーザーコミュニティに出てきてください」と聴衆にアピールする。

「業務改善でここまで熱くなるイベント、そうそうありません」

 20代にしてベテラン顔負けの業務分析力、プレゼンスキル、DXへの深い知見を持つ中西氏は「ツールは刺さるところを見定める」「自社にあった手段をとる」「折れないことがなにより大事」の3つのポイントを改めて説明。巨大なホワイトボードはすべてモニターに変わり、KOMAINUでの隊員配置を確認できるようになっているという。

 アースセキュリティは、kintone導入で年間1500時間を削減したが、内勤は15人だったので、一人頭で100時間の削減になった。手作業をなくしたことで、業務プロセス全体の効率化につながぎ、データを連携させることで、一貫性も確保した。さらに成功体験は業務改善の文化につながったという。

 とはいえ、まだまだ課題は山積みだ。人手不足が大きな課題となっており、警備員のうち66.3%は50歳以上。「でも、私たちにとっては主戦力なんです。スマホが使えないから、高齢だからと言わず、寄り添っていきたい。取り残さないDXはミッションだと思っています。そして、kintoneならその改善の一手になるはずです」と語る。

警備員の7割近くは50歳以上

 中西氏は、kintone hiveについても「業務改善でここまで熱くなれるイベント、そうそうありません。このユーザーコミュニティを含めたエコシステムこそ、kintone最大の魅力です」とアピールする。最後は「改善が改善を呼ぶサイクルに、KomaToneで警備業界、取引先や警察にまでつなげていきたい。このZeppなんばから、みなさんを通じて、もっと業務改善が進んでいけるといいなと思いました。みなさん、いっしょにがんばっていきましょう」と結んだ。

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