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舞台は大阪の警備会社 事務員がマイナス思考で行動しまくったらDXしていた話

kintoneを使ってもらうことはあきらめた でも、年間1500時間も業務時間は減った

 「kintoneを使ってもらうのをあきらめる」。年間約1500時間の削減を成し遂げたkintone事例のポイントに、会場は驚きを隠せない。

 kintone hive 2025 Osakaの4番手で登壇したのは、警備会社アースセキュリティの中西さやか氏。警備員から経理事務に異動し、持ち前の性格を活かして、業務改善と自動化を進めて行ったら、DXのレベルまで到達してしまった。

アースセキュリティ デジタル事業部 チーフエンジニア 中西さやか氏

警備の現場から経理事務へ 「この業務ってとても効率悪いのでは?」

 「元警備員の最弱事務員が仕事から逃げまくっていたら、効率厨スキルが覚醒し、いつのまにかDXしちゃってた件。~コミュニティ沼からこんにちは~」というラノベのようなタイトルコールを「以下略!」で寸止めして自己紹介を始めた中西さやか氏。趣味はゲームと開発で、好きなことは「効率化」。性格は「積極型 マイナス思考系 生き急ぎタイプ」で、「あらゆる恐怖から逃げるために積極的に行動するしかない人間」と紹介する。いろいろツッコミどころ満載の登壇者だ。

積極型 マイナス思考系 生き急ぎタイプ

 そんな中西氏が所属するアースセキュリティは、交通誘導警備や施設警備を手がける警備会社。中西氏の社歴は4年目で、警備員として入社し、翌年に経理事務に異動し、「この性格を活かした」(中西氏)業務改善に注力。そして、後述するとおり、2024年5月にはデジタル事業部の開発班を結成している。

 さて、アースセキュリティのような警備会社はどのように業務を進めているのだろうか? 顧客の企業から交通誘導警備の依頼を受けた警備会社では、管制という部署が隊員を配置する。日時や場所を隊員に通知し、現場に行ってもらうという派遣業に近い業態だという。

 特徴的なのは、毎日違う現場に向かう隊員がいたり、天気によって現場が頻繁に入れ替わるという点だ。中西氏も現場でこのオペレーションを回していたが、経理事務に異動してみると、これがとても効率の悪い業務であることに気がついたという。

ドン引きポイントは「アナログな管制業務」「構造化されてないExcel」

 中西氏が指摘するドン引きポイントの1つ目は「管制業務がアナログ」であること。その日、その場所にどの隊員を派遣するのか。この差配を同社では巨大なホワイトボードで行なっていた。「現場名や住所を記載し、隊員のマグネットを貼り付けることで、現場を管理していました」とのこと。

 スライドで表示されたホワイトボードは非常にビジーだったが、実はこれも一部にすぎない。実物は縦1メートル、横幅5メートルもある巨大なボード。これには会場からも笑いが起こる。「毎日配置が決まると、スナップショットとして写真を撮り、これを元に事務員さんが基幹システムとExcelに同じ情報を入力していました」と中西氏。これだけでなんと年間約1000時間をかけていたという。確実にドン引きポイントである。

巨大すぎるホワイトボードでの配置管理。むしろすごい

 もう1つのドン引きポイントは「構造的じゃないExcel」だ。そもそも警備会社は警備業法で指定されたさまざまな備付書類を作成する義務があり、これを警察が立ち入り検査で確認するというフローがある。前述したExcelファイルも立ち入り検査対応用の書類の1つで、アースセキュリティはすべての書類をExcelで作成していたという。

 この書類作成の課題はとにかく転記が多かったことだ。営業が持ってきた案件の場合、基幹システムの顧客マスタ、案件マスタ、Excelの取引先一覧、契約書、契約一覧に5回転記する必要があり、しかも基幹システムは仕様上、手入力が必須。「非構造的なExcelの乱立でデータは再利用できず、手動で転記するしかない状態に陥っていました」と中西氏は説明する。

Excel VBAでいろいろ自動化したけど、「あれ? DXいつ始まるん?」

 さて「社会人はこんなに大変なんだな」と考えていた経理事務3ヶ月目だった中西氏。当時は、書類を紛失したり、誤変換したり、入力漏れをしたり、大小さまざまなミスを連発していたという。会社の人たちは優しいのだが、「私はマイナス方向に想像力が豊かなので、怒られるのではないかと、日々びくびくしていました」と中西氏は振り返る。

 会社の人たちは優しいのだが(2回目)、マイナス思考が行き過ぎた結果、退職まで考えた中西氏。しかし、「DXしたいですね」「ほんとにそう」と会社の上層部はしっかり業務改善を考えてくれていた。それを聞いて、「この最弱事務員の私がいま何ができるだろう」と考えた中西氏は、得意のプログラミング知識を活かし、業務フローを整頓し始めた。その上で、データを構造化し、ExcelVBAで手元の作業を中心に勝手に自動化するようになった。

上層部もDXを考えてくれていたはず(このスライド好き)

 気がつけば、手元の業務だけではなく、経理事務全体の業務改善まで進めていた中西氏。半年後に気がついたのは「あれ? DXいつ始まるん???」ということだ。

 そもそもVBAにはメンテナンスや属人性のリスク、スケーラビリティの限界、セキュリティの脆弱性などがあり、中西氏もそれらは重々承知していた。それでも数ヶ月後に本質的なDXが始まるだろうと考えてVBAをベースにした業務改善を手元で行なっていたが、この結果、Excelへの期待が過度に高まってしまったという。「ユーザーの要求が高度化したことで、Excelの限界にもぶち当たり始めました」と中西氏は語る。

 追い打ちをかけるように基幹システムのサポートが終了してしまい、インボイス制度に対応できないことが発覚した。「もう待っていられない」と考えた中西氏は、当時の経理部長に相談し、DXプロジェクトを自ら開始。前述した2つのドン引きポイントをクリアすべき課題としてロックオンし、いろいろ探した結果たどり着いたのがkintoneだ。

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