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“平均年齢50歳越え”部署のkintone活用が全社員に勇気を与える

“Excel地獄”から始まった全社DX 若手女性社員の熱意が老舗企業の「ITなんて無理」を覆す

便利すぎて孤立? 昭和のままの全社に突き付けた40ページの挑戦状

 設備部での華々しい成功の一方で、思わぬ問題が発生した。設備部だけがkintoneを導入し“独自進化”した結果、他部署から孤立してしまったのだ。「レコード」や「フィールド」といったkintone用語が飛び交う設備部は、他部署から見れば異質な存在になっていた。

「kintoneって便利なのだから、プロサス全社でもっと活用すればいいのに。kintoneで社内全体の業務改善ができるんじゃないの?」と考えた小田氏は、古巣である販売部の業務を調査する。

 そこで目にした光景は、設備部のかつての姿そのものだ。手書きの書類をFAXで送信し、複数のツールが乱立して業務は非効率。情報共有のプラットフォームは15年以上前から変わっていない。実は、最先端の老舗企業を掲げ、キラキラしたWebサイトを新設していたのだが、社内の実態は昭和のままだった。

ツールの増築が重なり、業務の効率が落ちるまでに陥っていた

 実際に、販売部からは、通話しながら複数ツールを使うのは煩雑なので、一本化できないかと相談を受けた。これを機に小田氏は、kintone活用を全社に広げることを決意し、経営陣に向けたプレゼンの準備に取り掛かる。設備部での成功体験と、会社全体を変えたいという熱意を込めた提案書は、気づけば40ページを超える大作となった。

 小田氏は完成した提案書を手に、経営陣へ直談判。営業部の顧客管理はできるのか、古いプラットフォームを刷新できるのか、基幹システムのマスターデータを移行できなければ意味がないのではないか。次々と投げかけられるすべての疑問に対し、小田氏は「kintoneならできます。なんならもう準備ができてます」と即答。設備部での実績が強力な説得材料となり、ついにkintoneの全社導入が決定した。

全社導入に向けて、経営陣のゴーサインをもぎ取った

徹底フォローで掴んだ全社浸透、年間110万円のコストカットとその先へ

 全社導入決定後、まずは各部署に協力者を立てて、1か月間のkintone習得期間を設けた。小田氏は自ら講師となり、「kintone強化プログラム」と題したレクチャー会を実施。簡単な部署スペースの作成から始め、アプリ開発で困った際の相談フォームも設置した。

 もちろん、すべての部署が順風満帆だったわけではない。kintoneの導入に苦戦する部署に対しては、個人レッスンや相談会を開催し、特製マニュアルを作成するなど、徹底的にフォローした。この献身的なサポートにより、全部署でkintoneは浸透していく。

 今では手書きやExcelでの業務は、すべてkintoneアプリ化。昭和の遺物だった古いプラットフォームは廃止され、kintoneのポータル画面に情報を集約。スマートフォンからのアクセスも可能になり、情報共有のスピードも格段に向上した。

徹底的にフォローし続け、kintoneの浸透に努めた

 かつて社内で乱立していた6つの有料ツールも、すべてkintoneアプリに置き換わる。年間180万円のツール利用料は70万円に圧縮でき、少なくとも110万円のコストカットを達成した。

 設備部から活用が始まったkintoneは、全社に波及し、今やプロサスにとって不可欠なプラットフォームとなった。部署でのExcel地獄からの脱却や売上2倍の達成、そして年間110万円のコスト削減。これらの定量的な成果はもちろん大きいが、それ以上に重要な変化があったという。

 それは、「ITなんて無理だ」と思い込んでいた社員たちの意識改革だ。平均年齢52歳の設備部メンバーがkintoneを使いこなし、自律的に業務を管理するようになったことは、全社員に大きな勇気を与えたという。そして、小田氏のように、現状に疑問を持ち、自ら行動を起こして会社を変えようとする人材が生まれたことこそが、最大の成果といえる。

 セッションのタイトルにもなった「kintoneがITなんて無理だと思っていたアナログ会社を変えた」。小田氏と黒田氏の軽快な掛け合いで語られたこの言葉は、DXに悩む多くの中小企業にとって、希望のメッセージとなるだろう。

 セッション後、サイボウズの柴田氏から両氏に質問が投げかけられた。

柴田氏:小田さんが経営層へプレゼンしたのは、誰かから指示があったのでしょうか。

小田氏:いえ。私が一人でkintoneの全社導入をやりたいなと思い立ちまして、気づいたら提案書ができていました。

柴田氏:提案の中では、どんなポイントを訴求されましたか。

小田氏:やっぱり「設備部のおじさんたち全員が使いこなせるようになりました」というところです。あとは、「kintoneの導入は簡単ですよ」という点もアピールしました。

アフタートークの様子

柴田氏:黒田さんはどうして今回の発表に参加されたのでしょうか。

黒田氏:私は設備部でもなくて、別の部署の部長です。うちの部署では割とkintoneをスマートに導入して、小田さんともよくやり取りしていました。そうした中、kintone hiveで発表するということで、「面白そうだから手伝わせて」と参加しました。

柴田氏:小田さんの活躍を近くで見られていた立場から、皆さんに真似してほしいポイントはありますか。

黒田氏:今回、順風満帆な感じで説明しましたが、結構トラブルもありました。それを、気力と体力で乗り越えています。なので、kintone導入は「気力と体力でどうにかなります」とお伝えしたいですね。

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