週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

Snapdragon 8 Elite Gen 5はAI処理37%高速化でゲームや動画編集が驚くほどスムーズに動く理由

2025年09月26日 08時00分更新

 9月23~25日(現地時間)にハワイで開催中の「Snapdragon Summit」で、クアルコムはハイエンドスマホ向けのチップセット「Snapdragon 8 Elite Gen 5」を発表した。また、基調講演ではユーザーにより選択肢を与えることを目的に、Eliteがつかない「Snapdragon 8 Gen 5」の投入も控えていることが示唆された。

最速のモバイルCPUをうたう、Snapdragon 8 Elite Gen 5が発表された

次世代SoC「Snapdragon 8 Elite Gen 5」は
シングルスレッド20%、マルチスレッド17%も処理能力が向上した

 Snapdragon 8 Elite Gen 5は、各メーカーのフラッグシップモデルに搭載される最新のチップセット。同社は、前世代にあたる「Snapdragon 8 Elite」から、Armのコアを独自にカスタマイズした「Oryon(オライオン)」をスマホ向けにも採用。初のOryon搭載になったPC向けの「Snapdragon X Elite」から数えて3世代目にあたるOryonを搭載している。

 CPUは全8コアで、2つのプライムコアと6つのパフォーマンスコアに分かれる。コア数や、プライム/パフォーマンスの内訳自体は変わっていないものの、Snapdragon 8 Elite Gen 5ではプライムコアが4.6GHz、パフォーマンスコアが3.62GHzと、クロック周波数が向上した。

プライムコアは2コアでそれぞれ4.6GHz、パフォーマンスコアは6コアで3.62GHzとなり、それぞれ前世代よりもクロック周波数が向上している

L2キャッシュは12MBになる

 また、コアクラスターあたり12MBのL2キャッシュを搭載しており、L3キャッシュを搭載しないことで高速化を図っている。こうした仕組みについては、前世代のSnapdragon 8 Eliteと同じだ。処理能力の向上によって、Snapdragon 8 Elite Gen 5はシングルスレッドでは20%、マルチスレッドでは17%の処理能力向上が図られているという。

シングルスレッドで20%、マルチスレッドで17%ほど処理能力が上がった

 GPUはAdreno GPUを採用しており、こちらも前世代比で23%の性能向上が図られているという。AIの処理を担うHexagon NPUを採用しており、こちらは37%高速化。「INT2」(2ビット整数)や「FP8」(8ビット浮動小数点)をサポートし、AI処理もより軽量にできるようになった。

Hexagon NPUは、37%高速化した。また、INT2やFP8に対応し、より軽い処理を高速にこなせるようになった

 別記事(Snapdragon 8 Elite Gen 5はAnTuTu 400万点超え! 次世代スマホの実力が判明)で紹介したように、ベンチマークアプリで性能を測定すると、確かにうたい文句通り、性能が向上していることが分かる。

 一方で、同チップを披露したクアルコムのグループジェネラルマネージャー、アレックス・カトウジアン氏は、「単にスペックを押し上げただけでなく、重要なのはよりスマートで、よりスムーズで、パーソナライズされたインタラクションを可能にすることだ」と語る。

よりスマートでよりスムーズでパーソナライズされたインタラクションが可能になると語ったクアルコムのカトウジアン氏

AIはオンデバイス型にクラウド型を連携していく

 クアルコムがこうした性能向上を通じて実現を目指しているのが、「エージェンティックAI」だ。デバイスに蓄積されているデータや、センシングを通じて得られた情報などを使って、よりユーザーの状況に合わせた回答や処理を行なうAIと言い換えれば理解しやすいだろう。こうした処理をオンデバイスで実行しつつ、クラウド型のAIとも連携していくというのがクアルコムの示した方向性になる。

チップセットの進化を通じて、エージェント的なAIを実現することが可能になるという

 Snapdragon 8 Elite Gen 5発表後に行なわれたデモセッションでは、「Paage.ai」や「AnythingLLM Mobile」といったNPUを活用するアプリが、実際に高速で動作する様子が披露された。

 これらのアプリは、すでにGoogle Play上でダウンロードできるものだが、Snapdragon 8 Elite Gen 5上だと、より快適に利用できる。

基調講演後のデモセッションでは、Snapdragon 8 Elite Gen 5上で動作するサードパーティのAIアプリが披露された。写真はPaage.aiとAnythingLLM Mobile

 同社のCEO、クリスティアーノ・アモン氏は、会期初日の23日に開催された基調講演で「AIが新たなユーザーインターフェイス(UI)」と語る。スマホだけでなく、スマートウォッチやスマートグラスなどの複数デバイスがエージェント型のAIを通じて連携し、文脈を理解しながら必要とするアクションを提案するというものだ。Snapdragon 8 Elite Gen 5は、その実現に近づける処理能力を備えているというわけだ。

AIが新しいUIになっていくとしたクアルコムのアモン氏

 ただし、アモン氏はオンデバイスAIとクラウドAIはそれぞれの強みがあり、両者は協調していくと見ている。それをつなぐのが、クアルコムの得意とする通信技術だ。アモン氏は「6Gはクラウドとエッジデバイスを接続するネットワークとして設計されている」と話し、その重要性を強調した。

オンデバイス(エッジ)AIとクラウドAIは、双方に強みと弱みがある。両者を連携させることで、より本格的なAIが実現するという

 6Gの標準化は現在進行中で、30年ごろの商用化を目指している。これに対し、アモン氏はクアルコムが28年初頭に6G対応の「プレ商用」デバイスを投入することを予告した。

その2つのAIをつなぐのが、6Gだ。クアルコムでは、商用化前の28年にプレ商用デバイスを投入する計画だと明かした

Snapdragon 8 Elite Gen 5初搭載は「Xiaomi 17」

 例年、Snapdragon Summitでは最新のチップセットと同時に、それを採用するメーカーが新モデルの一部を予告することがあるが、今年は会期前にシャオミが「Xiaomi 17」にSnapdragon 8 Elite Gen 5を搭載する計画を明かしている。そのためか、基調講演ではスマホの新モデルが披露されることはなかった。

 代わりに、サムスン電子のモバイルエクスペリエンス部門社長兼COOを務めるチェ・ウォンジュン氏が登壇。Galaxy S25シリーズで強化された「Galaxy AI」を紹介するとともに、同機能を25年末までに「4億台のデバイスに導入することをコミットする」と語った。

 また、クアルコムはサムスン電子との協力で、Snapdragon 8 Elite Gen 5が動画コーデックのAPVに対応したことも明かしている。

サムスン電子のMX(モバイルエクスペリエンス)部門で社長兼COOを務めるチェ・ウォンジュン氏。来日してGalaxy AIの強みや戦略を語ったこともある人物だ

Galaxy AIは年末までに4億台の端末に導入していくという

 一方で、最上位のSnapdragonを搭載するハイエンドモデルは、価格が非常に高くなる傾向がある。20万円を超える端末も珍しくなくなった。こうした中、クアルコムにもやや性能を抑えたハイエンド向けのチップセットが求められるようになっている。同社は、「Snapdragon 8s Gen 4」など、性能を示す「8」の後に「s」がついたチップセットを投入している。

基調講演の最後に、突如明かされたSnapdragon 8 Gen 5。Snapdragon 8 Elite Gen 5よりも、性能を抑えつつ、より普及を促進するための価格帯になるとみられる

 冒頭で挙げたSnapdragon 8 Gen 5も、こうしたチップセットの1つになるとみられる。その型番やカトウジアン氏が「ユーザーにより多くの選択肢と柔軟性を提供するために設計した」と語っていたことから推測すると、Snapdragon 8 Elite Gen 5ほど最先端の機能をすべて詰め込んだものではないが、8s型番のチップよりは高性能になる可能性がある。

 ユーザーやメーカーのニーズが多様化していることもあり、8シリーズ内でのバリエーションを広げる必要性があったようだ。Snapdragon 8 Gen 5は年内に正式発表するという。

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります