第286回
部長の机に積み上がる決裁書類は、kintone導入で解消されたか
“毎年3割が入れ替わる”特殊な組織でペーパーレス 地方にもDXを波及させた地域活性化センター
2025年09月19日 10時00分更新
ペーパーレス化×ルールの見直しで、決裁フローを7階層から5階層に削減
ペーパーレス化においては、既存ルールの見直しを掛け合わせることで、業務効率化の加速を図った。紙での運用時は、ハンコリレースタイルの決裁フローであったが、これをkintoneでデジタル化しても、「ハンコを押す行為がクリックに変わっただけ」(西田氏)と考えたのだ。
決裁フローを調べると、最大で7階層もの承認プロセスが存在していたことが判明。決裁遅延の大きな要因となっていたこの多層構造を、最大でも5階層までにシンプル化している。さらに、決裁権限の見直しにも着手。かつては、部長が最終決裁権を持つことが多く、数千円の物品購入といった軽微な案件であっても必ず承認が必要であった。この運用を見直し、一定の範囲で所属課長に委譲できる体制に変更した。
「既存のルール自体がそもそも合理的なのかという点に目を向け、勇気を持って改善しました。これにより、業務改善の効果は何倍にも膨らみます」(西田氏)
現在では、承認者がオフィスにいなくても、スマートフォンで承認できる仕組みも実装している。承認フロー自体のシンプル化も相まって、決裁までの時間は明確に短縮された。
さらに、kintoneの検索機能は添付ファイルの中身まで対象となるため、情報検索の手間も大幅削減。目的のデータに容易にたどり着けるようになっている。ステータス管理機能により、決裁済みのデータも明確になり、ファイルが乱立することもなくなった。
もちろん定量的な成果も得られている。書類の印刷は、41.5パーセントも減少し、当時3台あった複合機も2台に減らすことができた。かつて部長の机の上に山積みになっていたファイルや、個人ロッカーに突っ込まれていた決裁書類は、無事姿を消した。
ひとり情シスからの脱却、全国へ広がり始めた「DXの連鎖」
kintone導入は、業務効率化という目に見える成果だけでなく、職員のマインドにも変化をもたらした。他の職員から「kintoneを使って自分の業務も効率化してほしい」という声が次々と上がるようになり、それに応える形で、アプリを開発できる職員も増えた。結果として内製化が進み、業務効率化が加速した。
組織体制にも変化が生まれた。kintoneを通じてシステムの重要性が共有され、ひとり情シスで奮闘していた西田氏のチームは、3人体制へと強化されている。「体制が強化されたことで、当時諦めていた育児休業を取ることができました。娘たちとかけがえのない時間を過ごすことができ、個人的にはものすごく大きな成果だったと感じています」(西田氏)
そして現在起こっているのが「DXの連鎖」である。地域活性化センターでkintoneによる業務改善を経験した地方公共団体からの出向職員が帰任した後、自身の自治体でkintoneを推進する事例が現れ始めたのだ。「この波及効果に地域活性化センターの存在意義があると考えています」と西田氏。
西田氏は、「私たちの挑戦は、小さな組織の小さな課題を解決したいという想いから始まりました。kintoneの導入がゴールではなく、その先には『地域が元気になる未来』があります。地域のために現場の変革を後押しして、地域のDX推進につなげていくことを目指しています」と締めくくった。
セッション後、サイボウズの柴田祐吾氏から西田氏に質問が投げかけられた。
柴田氏:出張が多く、職員の3割が入れ替わるという組織の特性がある中で、kintoneを使ってもらうためにどのような工夫をされましたか?
西田氏:マニュアルの作成にはかなり力を入れて、誰が見てもわかるように工夫を凝らしました。まずは自分で調べられるような優しい環境を作り、その上で相談できる窓口も準備する形です。
柴田氏:出向職員が自身の自治体でkintoneを導入するという話がありました。kintoneを広げるという点で、今でもコミュニケーションを取られているのでしょうか。
西田氏:まさに今、相談に乗っているところです。ある職員からは電話で、「来月から(kintoneを)入れるから相談乗ってよ」と言われました。他にも、導入を検討中の自治体から相談を受けているところです。センターを離れた後も、kintoneを通じたつながりは続いています。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう


