第840回
Avicena Techが最新MicroLED光チップレット技術を公開! 2027年製品化に向けた新たな光インターコネクト戦略
2025年09月08日 12時00分更新
照明用の光ファイバーを90度曲げて信号を水平方向に引っ張り出す
MicroLEDを利用するメリットは連載820回でも説明したように、以下のことが考えられる。
- すでに広範に利用されている
- 10Gbps以上の送受信が可能
- レーザー光ではないことに起因するさまざまなメリットがある
これもAfshari教授のスライドとほぼ同じもの
では製品ではどうするか? というと、このMicroLEDを利用した送受信ユニットに、ファイバーバンドルをつなぐような形で光の送受信を可能にする、としている。
理想を言えば、LightmatterのPassageのように基板側に導光路を構築できればスマートなのだろうが、これはコストが高い。とりあえずチップの脇からこんな感じで光を取り出す、あるいは光を送り込むのが現実的な策と判断したのだろう
MicroLEDもPD(Photo Detector)も基板に水平に実装されるので、光の入出力は基板と垂直方向になる。ここで水平方向に引っ張り出すにはミラーを使うなどの方策があるが、Avicenaでは光ファイバーそのものを90度曲げる形で対応したわけだ。
ちなみにそのコネクターだが、基板上での複数チップの接続であればこの小さなコネクターで済むが、外部に引っ張り出す(最大10mくらいまで伸ばす場合がある)場合にはこのコネクターでは強度的に心配である。
そうした用途向けにはMTP風コネクターを利用できるとする。また光ファイバーそのものは照明用のものを利用できるとしている。
光ファイバーは直径50μmのものを331本束ねたもの。MTPはUS Conecという会社の登録商標で、それもあって「MTP風(MTP-style)」と称されている。コネクターに2つ六角形の穴があり、そこに左側のようにファイバーが束ねられている格好だ
そんな照明用の光ファイバーで十分なのか? という疑問がわくのだが、実用上問題ない範囲で位置合わせが実現できているとする(右上の棒グラフ)。
ちなみに通常の光ファイバーの場合、特にSMF(Single Mode Fiber)だと光の中心軸が少しでもずれるといきなりまともに通信できなくなるため、光ファイバーのコネクター精度は高いものが要求され、これが価格が高い理由の1つになっている。
MicroLEDではこのあたりの精度がそこまで求められない=安価なコネクターで済む、というのも価格を低く抑えることの一助になっているのだろう。実際の1Tbpsのテストチップが下の画像である。
1Tbpsのテストチップ。これもAfshari教授のスライドで出てきた
光ファイバーそのものは331本だが、前掲のグラフからわかるように一部完全に焦点が合わないものもあるので、331本をフルに使うのではなく304本だけを利用し、1本あたり4Gbpsで伝送することでトータル1.2Tbps(片方向あたり)の伝送速度を確保できた、というわけだ。
304bit幅ということになるが、16bit×19というなかなか微妙なチャネル数になる。あるいは32bit×9(これがデータ用)+16bit×1(これが送受信クロックあるいは制御用)という形になるかもしれない。これだとデータ転送速度は1.152Tbpsほどになるが、四捨五入すれば1.2Tbpsと言って差し支えない帯域だろう。
コネクターそのものは3mm角程度(おそらく左の写真でチップと接続されている部分の寸法)とかなり小さく、これで送受信用の331本×2の光ファイバーを全部まかなえる。現在は試作品なのか高さがけっこうあるのでこのまま商品化は厳しそうだが、今回のモノはあくまでもデモチップ用ということで、今後もう少し洗練されたものが出てくることを期待したい。
ちなみに送信側の詳細は下の画像のような具合だ。もともとMicroLEDの歩留まりはすでに十分高いので、送信側の構成も歩留まりはほぼ100%に近いし、なんならもう少し送受信に使うレーン数を減らしてその分を冗長レーンに充てることも可能である。
クロストークが発生した場合の影響(右上)もそう大きくなく(BERが10倍程度になるが、もともとが低いからそう大きな問題ではない)、Data Eye(右下)もHeight/Widthともにちゃんと確保できているように見える
BERは受信電流の大きさと見事に反比例しており、10μA程度が確保できればBERは1E-8が達成できる。受信電流を増やすには送信側のMicroLEDの輝度を上げればいいわけで、あとは消費電力とBERのバランスをどこらへんで取るかになる。
では、より高速にするとどうなるか? ということで11.2Gbpsまで信号速度を上げ場合の結果が下の画像だ。
やはり1.5mAのままだとBERが1E-09とやや大きめだが、3mAまでLEDの消費電力を増やすとBERは4E-13とかなり改善する。ただその分送信に必要になる電力が増えるわけで、やはり消費電力とBERのバーター、という関係は変わらない。
ちなみにLED素子がどの程度の速度まで利用できるかの検証が下の画像だ。左は通常の高速型LEDで、5GHzまで速度を上げると光出力が3dBほど落ちる。ただその先の減衰は緩やかである。右はVery High Speed LEDで、6GHzでも出力低下は1dBに過ぎないが、その先がひどいことになっている。
Very High Speedの方、100A/cm2程度では1GHzあたりから急速に性能が低下する。逆に10KA/cm2では6GHzでもほぼ1dB程度で済むのだが、流れる電力が桁違いに大きいので、今回の用途での実用性はなさそう。なお、左グラフも項目の単位はA/cm2である
ここから見ると、通常のHigh Speed LEDを使って速度を上げた方がマシで、その際に出力低下の度合いをどこまで許容するかがバーターという感じだ。
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