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kintoneで“上手に失敗”しながら築いた販売員強化の仕組み

ライバルは“電卓” 現場の不満を跳ね返した福岡イエローハットの「タイヤ商談アプリ」

 「みなさんは、所有する車の“タイヤの状態”を知っていますか」 ―― 現在、タイヤ点検を担ってきたガソリンスタンドが、ピーク時の半数以下にまで激減、危険なタイヤで走る車が増えているという。このような状況を受け、福岡イエローハットでは、タイヤ販売員の育成・増強に乗り出した。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive fukuoka」を開催。4番手で登壇した福岡イエローハットの佐藤和也氏は、短期間でタイヤ販売員を即戦力にするためのkintoneによる「仕組み」づくりについて披露した。

福岡イエローハット 代表取締役 佐藤和也氏

激減する車点検の受け皿と増加する危険なタイヤ

 福岡イエローハットは、福岡県内に17店舗を展開しており、カー用品の販売や車検、自動車整備など、地域に密着したカーライフサポートを手掛けている。佐藤氏は、車が好きが高じてイエローハットに入社、5年前に同社の代表取締役に就任した。

 佐藤氏は冒頭、「自身の車のタイヤの状態をご存知でしょうか。実は、非常に危険な状態で走っている車が増えています」と語りかける。実際に、信号待ちや駐車場で見かけるタイヤは、「よくこの状態で走っているな」と感じるものさえあるという。

 この背景には、自動車業界が抱える構造的な問題がある。かつてタイヤ点検のインフラとして機能していたガソリンスタンドは、1995年の約6万店をピークに2023年には半数以下にまで激減。さらに、残った店舗の4割もセルフスタンド化して、点検サービスを受ける機会が減っている。追い打ちをかけるように、2024年の整備工場の倒産件数は過去最多を更新。車を安全に保つための受け皿が急速に失われているのが現状だ。

点検機会が失われている車業界の現状

 このような状況を受け佐藤氏は、タイヤ点検を強化して、車の現状を正しく伝える必要性を痛感。その実現には、専門知識を持つタイヤ販売員の育成と増強が不可欠だが、一筋縄ではいかない。タイヤ販売は、車両の確認から乗り方についてのヒアリング、最適な商品提案、工賃の計算、在庫確認、そして見積作成と、多岐にわたる工程が存在するためだ。

工数が多岐にわたり、育成に時間がかかるタイヤ販売員

 特に、見積作成には多くの課題が存在する。計算はすべて電卓で、膨大な量の在庫から最適なサイズのタイヤを見つけ出すには多くの時間を要する。見積書も手書きで、商談中に提示することも、複数商品で比較することもできない。このような状況では、新人を採用したとしても、社員は教育に時間をとれられ、かえって現場の負担が増すというジレンマに陥る。

 真に求められたのは、経験の浅いスタッフでも短期間で即戦力になれる「仕組み」づくりだ。同社はまず、業務を根本から見直すことから始め、「仕事」と「作業」を明確に区別した。計算や在庫確認といった「作業」はITで自動化して、人間は顧客との対話や提案といった本来やるべき「仕事」に集中する。この方針のもと、福岡イエローハットのDXが始動した。

人間がやるべき仕事とアプリで自動化できる作業に再定義

使いやすさにこだわった「タイヤ商談」アプリ、ライバルは“電卓”だった

 この仕組みのために、タイヤ見積もり専用のソフトウェアを探すも、同社の細かい要件を満たすものは見つからない。そんな折、YouTubeで見つけたのがkintoneだ。これなら課題を解決できるかもしれないと、サイボウズの福岡オフィスに訪問。そこで紹介されたのが、kintoneの伴走支援パートナーであるSACCSYだった。

Youtubeでkintoneを知り、サイボウズオフィスに訪問

 そのSACCSYと開発したのが「タイヤ商談」アプリだ。これまで現場を苦しめてきた在庫確認や価格計算、見積書作成の全てを完結でき、とにかく使いやすさにこだわり抜いている。

 見積もり作成では、タイヤの「幅」「扁平率」「インチサイズ」という3つの要素をプルダウンで選択するだけで、入力作業はほぼ完了。サイズに応じた工賃や期間設定されたキャンペーン割引なども自動反映される。

 そして、条件に適合するタイヤが一覧で表示され、在庫がある商品が自動で選択される上、価格順・在庫数量順に並び変えることもできる。販売員は商談をしながら、候補から外れたタイヤを画面上で削除。最後に、プラグイン「k-Report」と連携して、最大6種のタイヤを画像付きで比較できる見積書がPDFで出力される。

使いやすさにこだわった「タイヤ商談」アプリ

 しかし、この完成版に至るまでには、紆余曲折があった。初期バージョンのアプリを展開した際に衝撃的だったのが、タブレットの上に電卓を置いて計算するスタッフの姿だ。「電卓の方が慣れているし早い」というのがそのスタッフの声だ。加えてベテランスタッフは、そもそも現状にも困っておらず、新しいやり方を覚える方が面倒だと愚痴をこぼす。

 アプリ側にも問題はあった。初期バージョンは、後々の活用を想定して入力項目を増やしすぎており、タブレットでは入力しにくいタイピングが必要なフィールドも多用していた。

タブレットの上に電卓を置く本末転倒な運用も

 そこで佐藤氏は「鋼の心」で現場の声を聞き、改善を繰り返していく。使われることで初めて気づく不便さを一つひとつ解消し、入力項目を減らして、自動化を進める。特にこだわったのは、電卓の強みであった「価格がすぐに出せる」という体験の実装だ。

「私が『使いなさい』と言えば、その段階でも使ってもらうことはできたと思います。ただ、『これがないと仕事にならない』と言わせてこそ、本当に便利なアプリになりえます」(佐藤氏)。

 こうした徹底した現場目線の改善サイクルが、徐々にスタッフの心をつかんでいった。

使われて気付く不便さを一つずつ解消していく

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