第469回
ワットパフォーマンスの大幅改善でHEDTの王者が完全体に、Zen 5世代CPU「Ryzen Threadripper 9000」シリーズをレビュー
2025年07月30日 22時00分更新
「Media Encoder 2025」
HandBrakeとは異なるエンコーダーを搭載している「Media Encoder 2025」でも試してみよう。「Premiere Pro 2025」を用い5分の4K動画を編集し、これを4KのMP4動画にエンコードする際の時間を計測する。VBR 1パス、平均40Mbps&最高品質設定とした。CPUの比較なのでソフトウェアエンコードの結果を見るのが目的だが、ハードウェア(NVEnc)を利用した際の時間も計測している。
結果はHandBrake(Super HQ 1080p30 Surround)の傾向に似ている。Threadripper 9970Xがコア数の多いThreadripper 7980Xよりわずかに速いという下剋上も共通だ。ただGPUエンコードに比べるとCPUエンコードは壊滅的に不利である。
動画エンコード処理でThreadripperが精彩を欠く理由は、処理の並列度がそれほど高くなく、Threadripperはコアを持て余してしまうという点にある。では並列にエンコード処理を走らせ、休眠しているコアを作らなければどうなるかを検証してみた。
以下のグラフは、同じPremiere Pro 2025で編集した動画から、4本の異なるエンコード設定で並列エンコードさせた時の処理時間である。#1〜#4は次のような設定になっている。ちなみにどれもCPUエンコードを指定している
#1:H.265 40Mbps/ VBR 1パス
#2:H.264 YouTube 2160p 4K Ultra HD/ 40Mbps/ VBR 2パス
#3:Mobile Device 4K 32-40Mbps/ VBR 2パス
#4:高品質 1080p HD 20-24Mbps/ VBR 2パス
さすがに16コアのRyzen 9 9950XではCPUのコア数が足りず、処理時間は大幅に長くなった(#1が1つ前のグラフのCPUエンコード設定と同じである)。メインメモリー32GBではギリギリだったが、CPUの大半のコアが100%に張り付く時間が長く、CPUコア数がネックであることは明らかだ。
その点Threadripperはコア数もメモリー搭載量も優位にあるため、処理時間は単独処理よりやや長くなる程度だったが、コア数との関連づけられるような結果は得られなかった。期待のThreadripper PRO 9995WXですら、Threadripper 9980Xと大差ない結果に終わってしまったのだ。
ただエンコード中はGPUのシェーダーも高負荷になる(色補正などのフィルター処理に使われている)ので、GPUのバスやメモリーバスがネックになっている可能性も考えられる。Threadripper PRO 9995WXのパフォーマンスに関する疑念を払拭するには、今回用意できなかったWRX90マザーが必要になるだろう。
より完成度を増したThreadripper 9000シリーズ
今回の検証において、Threadripper PRO 9995WXの性能は確かに高かったが、これが96コアか! と驚くほどでもなかった。とはいえ、何回も書いているようにTHREADRIPPER PRO 9995WXの性能をフルに発揮できないTRX50マザーでの検証であるため、この結果をもって「性能は今ひとつ」と断じるのは早計である。
その一方でThreadripper 9000シリーズのワットパフォーマンスがかなり向上していることが確認できた。Zen 5になってコアの処理効率が上がったせいもあるし、メモリー帯域が太くなりメモリーコントローラーの仕事がより効率良くなったせいとも考えられる。
Threadripper 7000シリーズから同コア数の9000シリーズへの乗り換えに対するメリットはさほど大きくないだろうが、より完成度を増したThreadripperとして評価することはできるだろう。
以上で前編は終了である。後編はグラフィック要素の含まれるCG/ CAD系ベンチマークやゲーム等、AI(LLM)といった分野で検証する予定だ。
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