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ワットパフォーマンスの大幅改善でHEDTの王者が完全体に、Zen 5世代CPU「Ryzen Threadripper 9000」シリーズをレビュー

2025年07月30日 22時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●北村/ASCII

 AMDのプロ/ HEDT(High-End-DeskTop)向けCPUである「Ryzen Threadripper」シリーズ(以降Ryzenは省略)が、いよいよZen 5世代に更新される。つい先日、プロ向けの「Threadripper PRO 9000 WX」シリーズが発表されたばかりだが、今度はHEDT向けの「Threadripper 9000」シリーズが発表された。ラインナップと北米予想価格は以下の通りである。

Threadripper PRO 9000 WXシリーズの価格
Threadripper 9980X 4999ドル(筆者予想価格:89万9000円)
Threadripper 9970X 2499ドル(同:44万9800円)
Threadripper 9960X 1499ドル(同:26万9800円)

 国内予想価格はまだ筆者の元に届いていないが、すでに売価の判明しているThreadripper PRO 9995WXが1万1699ドルで211万9000円、Threadripper PRO 9975WXが4099ドルで74万1500円と設定されていることを考慮すると、1ドル180円前後のレートで計算されていると考えられる。上表のカッコ内はこれを元にした筆者の予想価格である。

AMD資料より引用。Threadripper 9000シリーズの主なスペックと価格一覧

新旧ThreadripperおよびインテルのXeon W 3500シリーズの主なスペックを比較したもの。注目したいのは「PCIe Generation」と「Memory」だ。Threadripper 7000シリーズに対し、PCI Express Gen 5のレーン数と対応メモリークロックにおいて、Threadripper 9000シリーズが上回っている

 今回のThreadripper 9000シリーズはアーキテクチャーがZen 5ベースになったことが最大のトピックだが、搭載コア数に関してはZen 4→Zen 5でCCD(Core Complex Die)あたりのコア数は8基で変化はない。そのため前世代(Threadripper 7000シリーズ)から見ると、コア数よりもZen 5採用によるコアそのものの処理性能向上のほか、メモリー帯域やPCI Expressの帯域増といった足回り強化が差別化ポイントとなっている。

 Threadripper 9000シリーズならTRX50チップセット搭載マザーが必要だが、Threadripper PRO 9000 WXシリーズであればTRX50もしくはWRX90マザーが利用できる。このあたりはRyzen 7000シリーズと9000シリーズでソケットを共有しているところと通じるものがある。

 今回筆者は幸運にもThreadripper 9980Xおよび9970X、さらにプロ向け最上位のThreadripper PRO 9995WXをテストする機会に恵まれた。ただThreadripper PRO 9995WXはTRX50マザー(後述)でのテストとなったため、Threadripper PRO 9995WXのポテンシャルのすべてを引き出しているかというとはなはだ疑問である。新旧Threadripperの比較を主軸にThreadripper PRO 9995WXの物理96コアの性能はどうか……? 程度の軽いスタンスで読み進めていただけると幸いだ。

 今回は基本的なCPU性能および動画エンコード性能を中心に検証し、グラフィック(ゲームおよびCAD/ CG系)に関係する検証は別稿にてお届けする予定だ。

パッケージはより派手に。付属品は同じ

 Threadripper 9000シリーズは7000シリーズとソケット形状(sTR5)を共有している関係上、形状・デザインともに前世代からまったく変わっていない。大きく変わったのはパッケージくらいのものだ。

 市販の簡易水冷を利用するためのアタッチメントが付属するが、このアタッチメントを使ってもCPUの中心部しか冷やせない。よってこのアタッチメントは動作確認のためのつなぎだと思った方がいいだろう。

 また、このアタッチメントを装着できる簡易水冷は、ヘッドが丸型かつ歯車型のアタッチメントを備えるものに限定される(例:NZXT「Kraken」シリーズ)点に注意されたい。

左がThreadripper 7000シリーズ、右がThreadripper 9000シリーズのパッケージ。全体につやのあるコート紙を使った箱に改められた。Ryzenのセールスが好調なあまり、パッケージに予算をかけられるようになったのだろうか?(どうやら、売れることに慣れたようだ)

パッケージの中身。Threadripperのソケットを開閉するためのトルクドライバーと、市販のAIO水冷のヘッドを取り付けるためのアタッチメント

Threadripper 9970Xの表面

Threadripper 9980Xの表面

Threadripper PRO 9995WX

Threadripper 9970X(左)と7970X(右)の比較。どちらもまったく同じ形状である。ソケットがsTR5を継承しているのだから当然といえば当然だ。ちなみにオレンジのキャリアプレートは非常にもろく、あっさりと割れるので取扱には注意されたい

こちらもThreadripper 9970X(左)と7970X(右)の比較だが、中央のキャパシターの配置において、ほんのわずかな差異があることがわかるだろうか?

Socket AM5のRyzenとは大きさがこれだけ違う

Threadripper 9970Xの情報:「CPU-Z」にて取得。Zen 5世代なのでCCDは4nmプロセスが採用されている

同じくThreadripper 9980Xの情報

Threadripper PRO 9995WXの情報:96T192Tというとんでもない規模のCPUがテストできたのはいいが、200万円オーバーのサンプルを扱うのにはさすがに緊張の連続だった

Threadripper PRO 9995WXの全コアに負荷をかけると、タスクマネージャーはこのような感じになる

「HWiNFO Pro」でThreadripper PRO 9995WXのクロックをモニターしようとしたが、コア数が多すぎる! クロックの横にある「perf #1」という値は、優秀なコアほど若くなる。よく見ると番号が繰り上がるのは15までで、16以降に設定されているコアが大多数を占めることがわかる。CCDごとに優秀なコアを設定して細かく制御しているのではないようだ

 新Threadripperの中身について、何か特別な設計を施したなどとアピールしている資料は配布されなかった。ただ動作クロックに関してはThreadripper PRO 9995WX〜TR9960Xまですべて最大5.4GHz動作に設定されている。Threadripper 9980XとThreadripper 7980Xを比較した場合わずか300MHzの差ではあるが、クロックが引き上げられたことはいいニュースである。

 とはいえTDPは350Wのまま据え置かれているため、クロックが上がった分電力制限の影響を受けやすくなる可能性を考慮する必要があるだろう。PBO(Precision Boost Overdrive 2)を使って電力制限を引き上げることも可能だが、この価格帯のCPUをPBOでブーストする胆力はあるだろうか?(筆者にはない)

今回テストしたThreadripperと、その近傍の製品とのスペック比較。PCIeレーン数は総数ではなく、チップセットとのリンク用を除いたレーン数となる

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