無線LANルーターのラインナップが途切れた背景に苦い思い
大谷:NetVolanteシリーズは見た目も含めて、個性的な製品多かったですよね。
小島:印象深いのはRT60wですかね。個人向けで初めてWi-Fiを搭載した機種なのですが、ISDNの電話機能も付いてました。Wi-Fiの通信も自前でやろうとしたのですが、なかなか安定しなくて結局他社製の無線カードを使ったという経験があります。
大谷:編集部に置いていたので、よく覚えています。薄ピンクみたいなカラーリングであれもおしゃれだったので、液晶が付いていたんですよね。
小島:ただ、2002年頃にWi-FiもISDNも使える個人向けルーターってあんまりなかったと思います。
大谷:2000年代はブロードバンドとともに、無線LANも普及した時期なので、その潮流にもチャレンジしたんですね。
小島:法人は、まだまだノートPCですら有線LANがメインだった時代。「個人ユーザーならいいけど、無線LANって切れるし、会社じゃまだ使えないよね」という風潮だったので。
大谷:確かにそうでした。私はネットワーク雑誌を担当していたので、速度至上主義。有線LANは100Mbpsとかいけるのに、安定性がない11Mbpsとかでつなぐんだと思っていました(笑)。「つながらない」というのも普通にありましたし。
小島:でもRTW65i以降、NetVolanteのWi-Fiモデルはいったん止めてしまいます。無線LANをもっと普及させるという目論見が外れたという点では、苦い経験だったのかもしれません。
「回路設計は2年で終えて、次はソフトだ」と上司から言われた理由
大谷:東京めたりっく通信が1999年にADSLサービスを開始してからは、いよいよブロードバンドの時代に突入した頃ですね。2001年にYahoo!BBが出て以降、個人ユーザーもどんどん増えていきました。
小島:個人向けサービスは2000年代に入ってもISDNの需要がありました。ISDNのダイヤルアップで接続していたので、NetVolanteシリーズは電話の機能も持たせていましたし、通信もセキュアだったんです。
一方で、OCNエコノミー以降、需要が増えてきた法人向けはダイヤルアップから常時接続への置き換えが進み、相手のわかっている電話番号でつなぐ世界から、不特定多数のインターネットにつなぐ環境になりました。当然、セキュリティもなかったので、実装したのがインターネットを用いたIPsecのVPNです。
大谷:拠点間を専用線でつなぐのは高価だったので、インターネットにセキュアな仮想専用線を構築するというインターネットVPNが重要になったんですね。そんな中、入社したばかりの小島さんはヤマハでなにをやっていたんですか?
小島:最初はハードウェア屋さんで、回路設計をしていました。RTA54iや55iのアナログ回路や、RTX2000のIPsec関連をやっています。ただ、入社したとき、1ミリも回路書いてない段階から、ボスからは「2年回路設計したら、ソフトウェアに移ってね」と言われていました(笑)。
というのも、ISDNは自社製チップだったのですが、ブロードバンドの時代は海外の他社製チップを採用することがわかっていました。だから、リファレンスアーキテクチャに従って作ることになるのですが、せめてソフトウェアは自分で作れるようにならなきゃねというのがボスの頭にはあったんです。
10万台売れたヒット商品「RTX1000」 ISDNバックアップが鍵だった
大谷:こうした中でヒット作になったのが、2002年10月に出た「RTX1000」です。なにしろ累計10万台以上売れたということで、プレスリリースまで出た製品です(関連記事:ヤマハルーターの“語り部”平野氏にRTX1000誕生の秘密を聞く)。
小島:はい。正直IPsecに関しては業界標準のプロトコルなので、実装しても差別化にはつながらなかった。なぜ売れたのか?を考えてみると、やはりバックアップ回線としてISDNが使えていたからなんです。
当時のブロードバンド回線って、よく落ちたんです。回線工事を頻繁にやっていたし、局側の通信機器が安定しないこともあって。
大谷:しかも速度も安定せず、不安定だったんですよね。既設の電話回線を利用するADSLは距離が遠いほど信号が減衰するので、電話局舎に近い方が速かった。今から考えれば、なんじゃそりゃという話ですが……。
小島:常時接続なのに接続できなくなるので、バックアップが必要だった。これを自動的にやれるのが、RTX1000です。不安定なブロードバンド回線を、低速ながら安定したISDNで支えるという解決方法が市場に受け入れられたんだと思います。VPNを安価に提供し、なおかつISDNバックアップまで対応していたということで、ヤマハのルーターも評価を受けることになりました。
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