「光」が汚れを分解する──酸化チタン膜材のしくみ
なぜそんなことが実現できるのか?
光触媒の歴史は意外に古く、原理が発見されたのは1972年のこと。日本の研究者が、水を酸素と水素に分解する光化学反応に酸化チタンが有効であることを論文で示したのが始まりだという。
その後、1990年代に入ると建築用途への応用が本格化。太陽工業では、1995年から酸化チタンを用いた膜材料の研究開発に着手し、約3年の実証を経て、2000年前後から酸化チタン光触媒膜材として初代モデルを市場に投入し始めた。
「膜材に酸化チタンをコーティングしただけで、想定していなかったほどの防汚性能や空気清浄効果が見られました。光触媒は当時はまだ珍しい機能性材料でしたが、外壁材やガラスなどの建築分野で製品への応用展開が広がり、いまではさまざまな建材に採用されています」(太陽工業 技術担当者)
2025大阪・関西万博関連では、「未来の都市」パビリオンだけでなく、「夢洲駅」に設置された大型テントにも、この酸化チタン光触媒膜材が採用されている。
そのほか、過去には大型球場の屋根や高輪ゲートウェイ駅のルーフ部分など、全国のランドマーク施設でも使用例があるそうだ。柔軟性のある膜材は、構造物の曲線や傾斜に追従できるメリットを持つ。グレードも高級仕様からコストパフォーマンス重視のモデルまで多様で、使用条件にもよるが、およそ30年以上という耐用年数の長さも特徴だ。
万博での採用──「未来らしさ」を支える膜
この酸化チタン光触媒膜材、将来的には、新たな機能性を付加することで、より多くの領域への応用が期待されているそう。また、膜材の水平リサイクル化による持続可能性の強化や、より環境負荷の小さい膜材製造など、より未来的な仕様へアップデートさせていく考えもあるようだ。
「今回の万博では、“未来の都市”をどう見せるか、という観点から、デザイナーと共同で素材のあり方を検討しました。膜の構造や色味、光との関係までをトータルで設計しています」(太陽工業 広報担当者)
万博は、単なる大型イベントというよりも、未来社会の実験場であり、次の時代に何を残すかを問う意味合いも持っている。酸化チタン光触媒膜材は、そんな問いに静かに応えるテクノロジーのひとつだろう。2025大阪・関西万博の会場を訪れたら、“真っ白”な「未来の都市」パビリオンと夢洲駅に、ぜひ注目してほしい。
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