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職人の感覚も残せる? モノに触れたときの感覚を共有する触覚技術の実装を目指す東北大「TouchStar」

 体験型コンテンツで重要視されているのが迫力ある映像や音。しかし、昨今はそれら以外にも着目されている要素がある。それが「触覚」だ。例えば、物に触れたときの感覚をリアルに伝えることができれば、コンテンツの臨場感もアップする。こうした「触覚技術のコンテンツ実装」を目指しているのが、東北大学のプロジェクト「TouchStar(タッチスター)」だ。

現状のデバイスでは難しかった触覚の再現

「TouchStar」は東北大学が展開している事業化プロジェクト。東北大学客員起業家の石田健太氏がリードし、同大学の昆陽雅司教授が生み出した「触覚技術」を活用したコンテンツの社会実装に取り組んでいる。

 視覚や聴覚を共有するコンテンツとしては、本などのテキストやテレビ、ビデオといった映像、他にも音声コンテンツが存在するが、「触覚」については他者に伝達するメディアがないのが現状。現在のデバイスでは「触覚」を再現することが難しいことが、「触覚を再現するコンテンツ」がなかなか生まれない要因だ。

 その理由について石田氏は「何かに触れたときに生じる感覚を信号化すると、数十ヘルツから数キロヘルツと実に幅広い周波数で構成されています。現在、スマートフォンやゲーム機に搭載されている一般的なバイブレーターでは、人が何か触れたときの細かく幅広い振動を表現することが難しい現状です。鍵盤の足りないピアノで曲を演奏するようなものです」と話す。

ハードのボトルネックがない使い勝手のよい技術

 現状のデバイスでは触覚の再現は困難だったが、それを可能にしたのが上でも述べた昆陽教授が生み出した「触覚信号を変換する技術」だ。

 この触覚信号変換技術では、何かに触れたときに生じる周波数を元に、そのとき人がどのように感じているのかの「体感」を、ヒト知覚モデルに基づいて定量化。その定量化されたデータを約100~200ヘルツ帯で新たに波形化することが可能。つまり、現状のバイブレーターでも触覚をリアルに再現することができる。

 昆陽教授の「触覚信号変換ソフトウェア」は「体感の自然さ」と「使い勝手の良さ」が特徴だ。

 従来の振動機能は映像やゲームの「おまけ」でしかなく、人によっては「不快」と振動機能をオフにすることも少なくなかった。

 しかし、触覚信号変換技術で再現したコンテンツは非常にリアルかつナチュラルなものになっており、昆陽教授によると「イベントなどで体感付き動画コンテンツを試した人はみんな驚いている」という。

 また、新たに機器を開発するのではなく、すでにスマートフォンやVRデバイスに搭載されているバイブレーターで再現できるのも重要なポイント。

 コンテンツを楽しむのに新しいハードが必要になると、そのハードも普及させないといけないが、昆陽教授の触覚信号変換ソフトウェアはハードのボトルネックがない。これはビジネスという面でも大きなメリットだ。

触覚がリアルに再現できるようになればどうなる?

 石田氏によると、現状は「ハードウェアやソフトウェアの会社、ソフトウェアに用いる触覚データを音や振動から生み出すクリエーター、触覚を分析して商品開発や研究に生かしたいメーカーといったところが想定しているソリューションの提供先になる」という。

 例えばハードウェアやソフトウェアの場合、ゲーム体験がより本格的かつ充実したものになり、遊びの幅も広がる。また、映像コンテンツと共に触覚体験を提供することで従来よりもリアルで迫力ある内容になるだろう。

 他にも、「人が触れた感覚をデータ化して残すことで、例えば職人が出来あがった物に触れて分かる良しあしなど、その人の感覚に依存する情報もデータ化することができます。そのため、伝統技術、職人の感覚を触覚データにして継承するといった、技術・文化の保存にも役立つコンテンツです」と石田氏は指摘する。

 また、エンターテインメントや技術継承以外にも、ヘルスケア分野やロボット研究などでの利用も考えられる。

 今後の展望について石田氏は「まずは正式にリリースして足元を固めることは重要ですが、ゆくゆくは世界へと展開していきたいです」と話す。

 また、昆陽教授も「触覚体験技術が社会実装され、多くの人が活用するようになれば、これまでになかった分野との連携や、思いもよらない活用方法が生まれる可能性があります。そのため、企業やクリエーターとの連携も行っていきたいです」と抱負を語った。

 スマートフォンやゲーム機、コントローラー、映画館の座席など、さまざまな場所に振動機能が搭載されているように、「触覚を楽しんでもらう」というニーズは高い。近い将来、身の回りのあらゆる機器に、昆陽教授の触覚信号変換技術が搭載される――ということも多いにあり得る。

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