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LEDが半導体の救世主に? チップレット同士の接続を電気信号から光信号へ ISSCC 2025詳報

2025年04月21日 12時00分更新

MicroLEDと同等の密度で受光器も並べられる

 こうした光信号を利用する場合の問題が、干渉に起因するBER(Bit Error Rate)の悪化である。対策として、特にレーザーを利用した従来の方式ではフィードバック回路を組み合わせたFEC(Forward Error Collection:ノイズなどを打ち消せるようにあらかじめ波形を変化させて送り出す方式)が必要になり、通常の通信で必要となる1E-12(10の-12乗)というBERをなんとか確保すべく努力しているが、MicroLEDを使う場合はこうした問題が発生しないため、信号出力を引き上げてもノイズの影響をほとんど受けないため、複雑なエラー訂正/エラー補正機構が不要、とされる。

縦軸がノイズの強さで、LEDの場合は理論限界(Shot Noiseと呼ばれる、なにもしなくても発生してしまうノイズ)とほぼ同等であるとしている

 先ほど、「発光素子はMicroLEDでいいとして、受光素子をどうする?」と書いたが、そちらに対する解が下の画像だ。ここではドイツのXFABの130nm SOIプロセスを利用したものだが、青色光であればシリコンベースで簡単に受光器を構築可能であり、MicroLEDと同等の密度で受光器を並べられるとする。

X-Fabの130nmのSOIだけでなく、通常のSi(ケイ素)やImager(CMOSセンサー)用のプロセスでも受光器は構築できるとしている

 複数の発光器/受光器を同時に利用できるのであれば、そもそも必要とされる帯域を構築するために、無理に信号速度を引き上げる必要はない。また信号速度を低めに抑えてもいいのなら、MicroLEDなら極端に電流を下げられるので、帯域あたりの消費電力をグンと抑えられることになる。

この図、High Speed μPD→Blue Light→μRXは矢印が逆だし、Optical InterfaceとParallel Interfaceの間の矢印は双方向になってないとおかしいように思う

 試作に利用したのは下の画像のような構造である。光ファイバーを間に介在させている関係で、まるでインテルがHotChipsで示したChip-to-Chipの光インターコネクトに見えるのだが、これはあくまでも試作であり、例えば通信の状況を途中で測定したりするのには光ファイバーで引き回したりする方が好ましい。

発光器/受光器共に平面実装の形になるので、ミラーを立ててその先で光ファイバーと接続する構造になっている。実験にはこれで十分だろうが、今後実用に供する際にはこのミラーの高さを抑えるための構造が別途必要になるだろう

 あと、今のところ基板に光信号を通すための標準的な技法が確立していないという問題もある。1つの実装例は連載676回で紹介したLightMatterのPassageであるが、これは今のところLightMatterのみが提供するもので一般的とは言いにくい。

Passageのテストチップ

 現在はこのCMOS Transceiver ArrayとSoCが別のチップレットになっているが、将来的にはこれを1つのチップレットの中に実装することも不可能ではない。あくまでも今回は基本的なコンポーネントの実用性を検証するという目的だからこれで良いわけだ。

 今回の試作では、2Gbps×32対の構成で64Gbpsの双方向通信を1pJ/bit未満の消費電力で実現することに成功した、としている。1chあたりの送信出力は-32~-29.5dBmで、数値に直すと0.63~1.12μWの範囲で、BERは10E-3~10E-4の範囲。送信出力をあげるほどBERは下がる傾向にあるので、とっかかりとしては悪い結果ではない。

 消費電力が大きいのは、本来のチップレット間の接続は数mmのオーダーなのに、実験用ということでそれなりの長さの光ファイバーを使って引き回しており、これの損失が大きいので、発光量を引き上げないと通信が成立せず、これが消費電力増をもたらしていることも関係しているかと思われる。

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