電気信号から光信号へ、という流れが起きていることはこの連載で何度か紹介した。要するに電気信号では現状100Gbpsくらいが頭打ちで、これを超えての伝送は猛烈に消費電力が上がってしまうし、到達距離もそれほど遠くならない。
そこでBoard to BoardやChip to Chipに光伝送を利用することで、消費電力を減らしながら帯域を増やそうという試みが進んでおり、連載800回のBroadcomや連載801回のインテルなどの例を紹介した。
ただ、あくまでチップ、つまり複数のチップレットから構成される1つのパッケージの中にPIC(Photonics Integrated Circuit)/EIC(Electrical Integrated Circuit)を実装したチップレットを混ぜることで、パッケージ間の光通信を可能にするというものであり、チップレット同士の接続はあくまでも電気信号であった。今回の話はその先、チップレット同士の接続にも光通信が使えないか、というものである。
なお、この発表はテクニカルセッションではなくフォーラムの方(Forum 1.5)で、発表者はミシガン大学のEhsan Afshari教授である。つまりまだ大学の研究レベルの話であって、半導体メーカーによるものではないことに注意されたい。
チップレット同士の接続に光通信を使うには
信号速度を200Gbpsまで引き上げる必要がある
Afshari教授は現在の通信のボトルネックについて説明し、システムが大規模化していく中で、パッケージ内の転送速度はまだ不十分であるが、50Tbit/秒を超えるような帯域を実現するには信号速度を200Gbpsまで引き上げる必要があり、消費電力やPHYの面積、歩留まりなどが限界に達してしまうと論じている。

通信のボトルネックについての説明。UCIeのAdvanced Packageでも、0.6pJ/bit(0.5V)ないし0.46pJ/bit(0.3V)になっている。おおむねIntra-packageで0.5pJ以上という指摘は正確だろう
また現在のCPO(Co-Package Optics)は1mを超える距離向けのソリューションにとどまっており、1m未満に向けた商用製品が現実問題として存在しないとしている。

1m未満に向けた商用製品は存在しない。現状光信号は、電気信号では到達できない距離の接続という、要するに長距離到達性を重視されたラインナップになっているから、というのが最大の理由でもある。もっともこれは逆に1m未満に特化したソリューションがないから、製品も作れないという卵と鶏のような関係でもある
現在CPOは主に通信業界(具体的には光イーサネット)に利用されているわけだが、これをそのままパッケージ内のDie-to-Die接続に使うのは無理がありすぎる、とする。

CPOは主に光イーサネットに利用されている。これはいささか例が古いとは思うが、インテルのCo-Packageed OCIもまだ大きいと思う
その代わりにAfshari教授が着目したのはMicroLEDである。これはGaN(窒化ガリウム)を利用した非常に超小型のLEDであり、例えばSONYはこれをCrystal LEDというブランドで商品化している。

MicroLEDはすでに実用化されている。とはいえ、例えばams OSRAMのようにAppleの方針変更でMicroLED DisplayがOLEDに置き換えられたことで、MicroLED工場の立ち上げを中断せざるを得なかった会社もあるので、前途が有望とまでは言い切れない
製造技術もほぼ確立されており、既存のCMOSとの親和性も悪くはない(GaNを使う関係で、CMOSとは別にMicroLED用のウェハーを必要とするが、バックプレーンは通常のシリコンベースなので、CMOS LSIの製造工程の最後の方でMicroLEDの実装ができる)。
このMicroLEDを信号送信デバイスとして使うことで、1レーンあたり10Gbpsを超えるような送信が可能になる、というわけだ。
MicroLEDはいわゆるレーザーとは異なるので、1つの発光面からの光出力は非常に小さい。そもそも発光面の大きさはμmオーダー(通常100μm角未満で、どうかするとそのMicroLEDへの配線用のBonding Padの面積の方が大きくなりかねない)である。それでもコントラスト比が最大で100万:1など、かなりOn/Offがはっきりしている。これをそのまま、複雑な変調などをせずに利用することで低価格化や省電力化のメリットも得られる、としている。
製造方法も確立しており、高温でも動作するほか、レーザーを利用した場合には避けて通れないスレッショルド(ある程度の電流を流さないと、そもそもレーザーは発光しない)がないので、非常に少ない電力でも動作するのが特徴である。あとは要求される帯域とリンクの本数と信号速度、それと消費電力のバーターとなるわけだ。
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