2024年11月8~9日、幕張メッセにて「Cybozu Days2024」が開催された。多数のブース展示のほか、多くのセッションが開催され、たくさんの人が耳を傾けていた。今回は、そんなセッションの中から「成功事例で学ぶ! 海外事業を強化するkintone活用の秘訣」のレポートを紹介しよう。
世界各国で使われるkintone 日本企業の海外進出を支える
冒頭登壇したのはkintoneの東南アジア事業を担うサイボウズ Kintone Southeast Asia Sdn. Bhd. 代表 中澤飛翔氏。同氏は、kintoneをグローバル展開する際、顧客に「kintoneって中小企業向け、日本国内向けのサービスでしょ」と言われることが多いと説明。しかし、kintoneは世界各国で使われており、中華圏1390社、東南アジア1220社、北米890社と着実に利用者を増やしている。日本国内では3万5000社を超える導入実績(※取材当時)があることと比べればまだ数は少ないものの、「一社一社の海外企業がkintoneを活かしてしっかり事業を支えている」と中澤氏は強調した。
海外事業においてよく耳にする課題としては「現場の活動が把握しづらい」「Excelやメール、紙、さらに海外ならではのチャットツール(WhatsAppやWeChatなど)による業務の分散が非効率」「スタッフの入れ替わりやジョブホッピングによる情報の属人化」などを挙げ、これらをkintoneで解決している事例を、6つ紹介してくれた。
不二製油の駐在員をkintoneでフォロー
続いて、kintoneユーザーである不二製油グループ本社から人事・総務部門 グローバル人事グループ アシスタントマネージャーの小林麻紀氏と大森誉史氏が登壇し、不二製油におけるkintone活用について紹介した。(社名、組織名は取材当時のもの)
不二製油は1950年創業の大阪に本社を置くBtoBの食素材メーカーで、業務用チョコレートでは世界第3位、日本第1位のシェアを誇る。その背景には技術力や生産力があり、それらを支える海外駐在員が社内で重要な存在だという。以前はいろいろな課題があったが、そこにkintoneを導入し、海外駐在員をサポートする仕組みが整えられた。海外拠点は東南アジアや中国アメリカ、アフリカ、欧州など14か国34社、従業員数は連結で5731名となる。
主に駐在員関連業務にkintoneを利用しており、駐在員ポータルやマスター管理、関係者共有など約30のアプリを開発・運用しており、駐在員と現地法人担当者とのコミュニケーションやワークフローに活用している。
たとえば、各種資料やFAQをkintoneに登録し、「アジア担当だけに見せたい」「管理職だけに限定したい」「ローカルスタッフにも公開したいな」といった細かいアクセス権の設定を行なえるのが、kintoneの強みだと大森氏。時差が大きいアメリカの拠点からでも、日本本社に問合せ回答を待つことなく、自己解決できる環境を整えた。
小林氏はワークフロー面を担当しているとのこと。費用精算をkintone化することで、一元管理できるようになり、ペーパーレス化が進んだ。過去の事例も参照しながら承認作業を進められるので業務効率がアップ。海外の複雑な納税手続きも効率的になったという。
推しアプリは「一時帰国申請」と「VISA管理アプリ」
続いて中澤氏から「お2人の推しアプリを教えてください」とお題が出たところ、小林氏は「一時帰国申請」アプリを挙げた。海外駐在員が日本に帰国して休養を取る際の手続きを効率化したのだ。
「海外駐在員が日本に帰国する際、権利申請と費用精算の二つのフローが別々に走っていました。これを一つにまとめることで管理がしやすくなりました。さらに有事の際、誰がどこにいるかも確認しやすくなり、所在をこちらで把握できるようになりました」(小林氏)
大森氏は「VISA管理アプリ」を紹介してくれた。ビザ取得には多くの関係者が連携する必要があるので、駐在員本人だけでなく現地法人担当者や本社海外人事、さらに代行業者にもkintoneを使ってもらい、必要情報を一元化した。
「このアプリを使うことで、必要な情報を共有し、進捗も管理できるようになりました。今まではメールで連絡していたので、情報が散乱してしまい、急に上司から進捗を聞かれてもあたふたするばかりだったのです。今は、kintoneに1人1ページで情報が全部そろっていますので、すぐに進捗が確認できます」(大森氏)
引き継ぎしやすくなったことも大きなメリットだった。大森氏たちにとっては、VISAの業務は毎年発生するタスクだが、現地法人にとっては数年に1度のイベントとなるためだ。現地法人は人員の入れ替わりが激しいので、何かあった時にkintoneで過去の情報を見れば、必要な書類や手順が分かるので、とても便利になったという。
中澤氏も自身の駐在経験から、「駐在員にはビザや帰国手続きなど膨大な業務があり、そこをkintoneで一括管理しているのは心強い」と語った。
kintone導入前は、海外からは国内と同じポータルが使えず、メールや紙、Excelだけで完結させるしかなく、常時70~80名ほどの駐在員を3名で回すには限界があった。「あの資料をもう一度送ってほしい」といった問い合わせ対応だけで時間を取られ、紙書類もキャビネットが満杯になる状態が続いていた。
kintoneを選んだのは、初心者でも使いやすい点が大きかったという。もともと他のワークフローシステムも検討していたが、なかなか開発が進まず、小林氏は心が折れかけていたそう。そんな時、隣の部署にkintoneが導入され、そのアプリ開発の過程を見学し、操作性に感動した。
「サポートサービスの方にもご相談をして、どんどん没頭してアプリを作り始めました。海外を巻き込んで使いたいと思っていたので、セキュリティが重要でした。そのため、『セキュアアクセス』という機能があるので、kintoneを採用することができました。あと、多言語対応できるところもありがたく、今も利用させていただいてます」(小林氏)
現地とのコミュニケーションがスムーズに 駐在員とのつながりも密に
新しいツールを導入する際によくあるのが抵抗勢力の問題。その点を問われると、説明会を行ったうえ、まずは閲覧するだけでメリットを感じるアプリを用意した。「給与改定の通知」といったごく簡単なワークフローに触ってもらうことで、kintoneにとっつきやすい印象を持ってもらったのだ。英語のマニュアルを作るなど、多少の準備は必要だったが、コロナ禍でのデジタル化ニーズも重なって比較的スムーズに浸透したという。
「今までメールベースでどんどん来ていたものが、kintoneを見ればいろいろな情報が全部集約されるようになり、全体の流れが見えるのですごく便利になった、という声をいただいています」(大森氏)
kintoneの導入効果も大きかった。現地とのコミュニケーションが格段にスムーズになり、駐在員とのつながりが以前より密になった。初期に構築したアプリだけで年間350件の申請が電子化され、116時間の業務削減につながった。特に給与改定の時期はタスクが多いので休日出勤していたのだが、それが不要になったという。個人情報の誤送信リスクもなくなり、精神的な負担が大きく減った、と小林氏。
「個人情報の誤送信や給与の通知はすごく重要なところです。この導入効果にkintoneが貢献できているのはうれしく思います。われわれ、海外で働いている駐在員は結構孤独なんです。そのため、kintoneでつながることができ、チームワークを向上するところは、サイボウズの1番やりたいところでもあります」(中澤氏)
海外は言語や法令や慣習が異なるうえ、合弁会社もあるので運用が一本化できない。業務環境も絶えず変化し、イレギュラーだらけだ。そんな海外拠点との連携にkintoneを推奨する理由は、非エンジニアの担当者が、現場の声を反映して、すぐにアプリを修正できる柔軟性があるためだという。
最後に今後の展望について質問に対して小林氏はこう答える。
「今構築してるアプリをしっかり浸透させることが必要だと思っています。ユーザー側の意見を反映して、やっぱりkintoneは使いやすいと皆さんのkintone愛を高めていきたいです。実は、中国エリアで独自にkintoneの採用が決まりました。中国拠点のDX化に向け、布石になればと取り組みを始めています。海外駐在員ポータルで始めたkintoneですが、それだけではなく不二製油の大事な経営資本として、海外事業を強化していくツールにできたらなと考えています」
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