「GMOサイバーセキュリティ大会議2025」レポート
“2014年ウクライナ紛争”での領域横断なサイバー戦を振り返る 今こそ求められる産学官の連携
2025年03月18日 09時00分更新
急速にデジタル化が進む中、世界的に激化するサイバー攻撃に対し、産官学がどのように連携し、日本の安全保障を守っていくべきかが問われている。
GMOインターネットグループは、2025年3月6日、セキュリティカンファレンス「GMOサイバーセキュリティ大会議&表彰式2025」を開催した。本イベントでは政府や自衛隊、民間の専門家らが一堂に会して、日本が直面するサイバー脅威への具体的な対応策や今後の展望について熱く語っている。
今回は、内閣総理大臣の石破茂氏およびサイバー安全保障担当大臣の平将明氏のビデオメッセージ、陸上自衛隊の廣惠次郎氏による“2014年のウクライナ紛争”のサイバー戦の解説、そして、セキュリティ業界の発展に貢献した個人・団体を称える表彰式の様子をレポートする。
100年後もなくならない脅威に対し、国を挙げて進める「サイバー対応能力」の向上
冒頭、GMOインターネットグループのグループ代表である熊谷正寿氏は、モーゼの“モーセの十戒”を引き合いに出し、「現実は厳しく、悪意を持ってインターネットを利用する人が一定数存在している」と嘆いた。同グループは、22年前に盗聴や改ざん防止のためSSLの販売事業を開始し、その後、サイバーセキュリティ事業を拡大してきた。今では、グループ総勢8000人のうち1100人がセキュリティ関連事業に従事しているという。
熊谷氏は、「本イベントは、日本のサイバーセキュリティを進化させるために、“産官学連携の象徴”となる場に成長して欲しいと願っています。モーゼの戒めが示すように、残念ながら、この先100年においても犯罪はなくならないでしょう。しかし、このような困難な現実に立ち向かい、誰もがデジタル技術の恩恵を享受し、豊かで便利な生活を送れる未来を創造するために、共に学び、そして新たな力を結集しましょう」と呼びかけた。
続けて、内閣総理大臣である石破茂氏のビデオメッセージが流れた。
石破氏は、「DXの進展により、今後、サイバー空間の活用はさらに進んでいくことになりますが、他方で、悪質なサイバー攻撃が世界中で発生しています。我が国でも、年末年始に航空会社や金融機関、通信事業者に対するサイバー攻撃が発生しました。また、1月にも、国家の関与も疑われるサイバー攻撃を確認しております。こうしたサイバー攻撃への対策を強化し、サイバー空間という社会基盤を自由、公正、安全に活用できますよう、維持をしていかなければなりません」と語った。
政府としては、国家安全保障戦略に基づき、サイバー安全保障分野での取り組みを強化。国や重要インフラなどに対する重大なサイバー攻撃を排除する“能動的サイバー防御”を可能とするための法案を提出している。
また、政府は毎年2月1日から3月18日までを、サイバーセキュリティ月間として普及啓発活動を集中的に実施している。「自分が狙われることはないだろう」と思わず、国民一人一人が対策をとる必要がある。そして、国全体でサイバーセキュリティを強化するために、「産学官が連携して人材育成を進める」ことが重要な課題だと述べられた。
サイバー安全保障担当大臣の平将明氏もビデオメッセージを寄せた。
「我が国において、国家を背景とする海外の攻撃グループ等による活動がみられます。昨年12月には、北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループによる暗号資産摂取の手口に関する注意喚起を、本年1月には、中国の関与が疑われるサイバー攻撃グループによる情報窃取の手口に関する注意喚起を発出し、企業と個人の皆様に対策を促しています」(平氏)
日本のサイバー対応能力の向上が重要な課題となる中で、政府は、国家安全保障戦略において掲げた「サイバー安全保障分野での対応能力」を、欧米主要国と同等以上に向上させるという目標を掲げている。
社会全体へのDXの浸透やAI、量子技術の進展により急速に変化するサイバー空間をめぐるリスクに対応するために、現行制度下において対応可能な課題については、2月に「サイバーセキュリティ戦略本部」を開催し、検討に着手している。
ウクライナ紛争のサイバー戦における“領域横断作戦”
続いて、陸上自衛隊の教育訓練研究本部 本部長 陸将である廣惠次郎氏が登壇、安全保障分野におけるサイバー戦の重要性について語った。陸上自衛隊には17個の階級があり、陸将は上から2番目。また、廣惠氏は陸将としては唯一、ウクライナを訪問(2020年2月)し、ドンバスの指揮官やウクライナ軍の情報総局と交流した経験を持っているという。
現在のウクライナ戦争については話すことはできないとのことで、今回紹介されたのが、2014年に起きたウクライナ紛争におけて展開された3つのサイバー戦の事例である。
まず、2014年7月、ゼノフィリアで起きた戦いでは、ウクライナ軍の無線機は電子戦での妨害で使用できなくなっていた。それにより、兵士の携帯電話に連絡手段が依存されていたのだが、ロシア側が携帯電話を傍受。個人を特定し、その家族も特定し、両親などに「あなたの息子さんが亡くなりました」といったメッセージを送っていたという。
すると、その家族は驚いて、すぐに確認の電話をかける。その結果、ウクライナ軍が隠れているエリアで携帯通信のトラフィックが増大して、場所が特定される。そこに対し、火力戦闘部隊や近接戦闘部隊により攻撃が仕掛けられた。この作戦は、電磁波領域でもあり、サーバー戦でもあり、心理戦の要素も含まれていた。このように多岐にわたる要素を含む作戦のことを専門用語では「領域横断作戦」と呼称する。
「このような領域横断作戦が2014年当時に行われていたのは斬新で、世界中の軍事専門家が非常に驚きました」(廣惠氏)
2つ目は、ロシアの無人航空機(UAV)「オルラン10」がウクライナ軍の指揮所や兵士が使っている携帯電話の電波を探知した事例だ。電子戦装備「レール3」で場所を特定し、火力戦闘部隊が攻撃する作戦が展開された。こちらも、地上領域、電磁波領域、宇宙領域の3つの領域にまたがった領域横断作戦となり、非常に洗練された作戦だったという。
3つ目は、ロシアの電子戦装備「ロランジト」がウクライナ兵の携帯電話にマルウェアや心理戦のテキストメッセージなどを送った作戦である。例えば、「もうお前らの部隊は囲まれたから退却しろ」というようなメッセージを送って士気を低下させた。この戦いも地上領域、電磁波領域、サイバー領域を横断した戦いである。
廣惠氏は、「これからはほとんどの戦いが領域横断作戦になっていきます。今までは、陸海空の領域で戦ってきたわけですが、それに加えて、電磁波領域、宇宙領域、サイバー領域からなる『ウサデン(宇サ電)』を合わせた、6つの領域を横断して戦っていく」と語る。そして、「今は、“認知領域”も、正式に領域として考えています。サイバー能力を含めて自衛隊全体の能力向上に努めていきたい」と展望を述べた。
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