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動かしてみないとわからない IoTデバイスの課題をコミュニティと解決する

コミュニティと連携する新しいものづくり IoTデバイスメーカーSeeedに聞いた

2025年03月12日 09時00分更新

 IoT向けのマイコンボード、センサーなどを製造・開発するSeeed。IoTプラットフォームを手がけるソラコムや、ユーザーグループであるSORACOM-UGと緊密に連携し、製品に磨きをかけてきたという。Seeed日本法人の松岡 貴志氏に会社と製品の概要、そしてソラコムやSORACOM-UGとの連携について聞いた。

Seeed日本法人 松岡 貴志氏

IoTを支える深センのハードウェアメーカー 日本ではソラコムと協業

 Seeed Studioは中国深センのハードウェアメーカーで、マイコンボードの製造と販売を手がけている。日本法人は2017年に設立されており、販売支援やマーケティング、一部開発まで行なっている。

 今回取材した松岡氏は、大手メーカーで工場の自動化や情報システムを担当していたが、モノづくりイベントのMaker Faireを知って、その活動をアフターファイブにやっていたという。「結局、その活動がエスカレートし、機材が部屋に入らなくなった(笑)」とのことで、本格的にモノづくり側にシフト。2017年の日本法人設立時にSeeedにジョインした。

 現在は組み込みデバイスの開発環境の整備、ライブラリのメンテナンス、ドキュメントの作成などを担当。また、IoTコミュニティのイベントも積極的に主催・参加しており、SORACOMセミナーの名古屋開催の支援もしていた。「当時はラズパイにUSBドングルを付けて、SORACOM Airでつなぐハンズオンをやっていましたね」(松岡氏)とのこと。

 Seeedは自社製品の開発のみならず、受託開発、販売まで手がけており、製品も多岐に及んでいる。Arduinoの開発ボードからスタートし、AIセンサー、ウェザーセンサーにクラウドサービスを加えたソリューション、GroveブランドのセンサーやWioブランドのマイコン、LoRaモデムなどの開発用モジュールも用意している。「私はソフトウェアの開発を担当していますが、Seeedは基本的にはハードウェアの開発と製造が得意な会社です」(松岡氏)という。

LTE対応のマイコンボードから、IoTの敷居を下げるスターターキットまで

 Seeedがソラコム対応デバイスとして最初に提供したのは「Wio LTE JP Version」というLTE対応のマイコンボードだ。ソラコムのSIMが搭載可能な赤い基板で、センサーを取り付けることで、リモートでデータを収集できる。開発ボードなので、回路図も公開されており、ソフトウェアもオープンになっている。「コネクターをご自身でハンダ付けするなど改造も可能です」(松岡氏)。

 このWio LTEは、コミュニティとの連携でたたき上げられた製品だ。「SORACOM-UGで熱心にWio LTEを扱っていただきました。SORACOM-UGからのフィードバックを受けて、ソフトウェアを改善するみたいなサイクルができて、非常にありがたかった」と松岡氏は振り返る。

 このWio LTE JP Versionの採用事例として有名なのは、ウェザーニューズのIoT花粉測定器「ポールンロボ」だ。ポールンロボは顔に見立てた球体となっており、口から空気を吸い込み、含まれる花粉を測定。観測した花粉の数によって目が5段階の色に変化し、設置場所の花粉の飛散量を知らせるというもの。「以前は有線LANだったのですが、各家庭に設置してもらうに際して、こちらをセルラー化したいという要望があり、Wio LTE JP Versionを採用いただきました」(松岡氏)。これにより、電源を入れると、すぐに花粉情報の送信が始まるという。

 とはいえ、マイコンボードだけだとどこから手を付けていいのかわからずハードルが高い。そんな声を受けて、Seeedとソラコムがタッグを組んで企画したのが「Grove IoT スターターキット for SORACOM」になる。こちらはWio LTEに7つのセンサー(加速度センサー、温湿度センサー、磁気スイッチ、超音波距離センサー、GPS、ブザー、ボタン)、スタートガイドの冊子までパッケージ化した。IoTの敷居を感じるユーザーに触ってもらいたいユニークな初心者向けキットと言える。

マイコンボードとセンサー、初心者ガイドをパッケージ化した「Grove IoT スターターキット for SORACOM」

省電力にこだわったWio BG770A ソフトウェアは日本でブラッシュアップ

 そして、最新の開発ボードとして提供開始されたのが「Wio BG770A v1.0」になる。こちらはIoT向けの通信規格であるLTE-Mを採用したマイコンボードで、セルラー通信としてNTTドコモとKDDIに対応。「技適は取得しているけど、キャリアのIOT(相互接続性試験)はパスしていないというデバイスも多い。その点、Wio BG770AはIOTにこだわっています」と松岡氏は語る。

LTE-Mに対応する「Wio BG770A v1.0」

 Wio BG770Aの最大の特徴は省電力だ。「赤い基板のWio LTEは、電気を食います。起動時に2A(アンペア)近く流れるので、添付された短いUSBケーブルを使わないと、きちんと通信できないという課題がありました」と松岡氏は説明する。これに対して「低消費電力セルラーIoT開発ボード」を謳うWio BG770Aは、省電力機能をサポートし、消費電力を抑えられる。「このボードは最大300mAなので、乾電池でも起動できます」(松岡氏)とのことだ。

 Wio BG770Aの省電力機能について、もう少し掘り下げていこう。まず起動時は、電源回路の工夫で起動時に大きな電流が流れないように工夫されている。また、通信時はLTE通信の省電力機能であるPSMで間けつ動作させる。PSMのサンプルコードが提供されており、これを用いることで、通信するときだけ起動し、普段はスリープさせる低消費電力デバイスをすぐに構築することができる。

 PSMは、デバイスの位置情報を把握するために行なう基地局のスキャンを、一時的に止めることができる設定だ。「『これから1時間は通信しませんが、デバイスが消えたことにしないでください』と基地局にお願いするわけです」と松岡氏は説明してくれた。当然、通信していないときにデバイスをスリープさせるわけだが、プログラミングしやすい構造のサンプルコードを用意しているという。

ソラコムだけでなく、SORACOM-UGも製品を磨き上げるパートナー

 実はこのPSMへの対応という点で、ソラコムとの連携は重要だった。「実際にやってみると、PSMの対応はけっこう難しい。デバイスが正しく振る舞っているのかがデバイス側だけではわからないんです」(松岡氏)といった事情があるからだ。

 その点、セルラーのソフトウェアを自前で実装しているソラコムは、デバイスメーカーとして重要なパートナー。デバイスを検証しながら、動作を確認することができる。「Wio BG770Aはソラコムだけで取り扱っているんです。ソラコムはサポートがしっかりしていて、安心してお使いいただけます」と松岡氏も高い信頼を寄せる。

 ソラコムに関しては、ユーザーコミュニティであるSORACOM-UGとも緊密に連携している。「Wio BG770Aもハードウェアとしては完成しているのですが、ソフトウェア面はまだ追っかけの状態です。基地局や電波状況で挙動が違ったりするので、私のテストだけでは限界があります。ユーザーにいろいろな場所で利用してもらい、いただいたフィードバックを受けて製品の安定度を向上していきたいと思います」(松岡氏)とのこと。

 ユーザーコミュニティからフィードバックをもらい、ソフトウェアを更新し、また試してもらうというサイクルを実現。メーカーのSeeedからすると、ソラコムのみならず、SORACOM-UGも、「いっしょに製品を作っているパートナー」(松岡氏)に見えるそう。IoT分野でのソラコムやコミュニティの共創は、Seeedのプロダクトをますます磨き上げていくことになりそうだ。

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