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NTTの宇宙ビジネスは成層圏から静止衛星、通信からデータ活用まで全方向

2025年03月08日 09時30分更新

 MWCのNTTドコモブースでは、NTTグループの宇宙事業を統合するブランド「NTT C89」(以下、C89)に関する取り組みについてアピールしていた。

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89番目の新たな星座を作る勢いで取り組むNTTの宇宙事業
成層圏、低軌道衛星、静止軌道衛星と多重なサービスを提供

 C89は、2023年6月にNTTグループの宇宙ビジネスを統合する目的で設立。その名称について、事業を担当しているNTT 研究開発マーケティング本部の木村吾郎氏に話をうかがったところ、「88ある星座に次ぐ、89番目の新たな星座をNTTが宇宙に作りたい」というビジョンが込められているとのことだった。

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 NTTグループとしての宇宙ビジネスの歴史は古く、1995年にN-STARという衛星が打ち上げ、衛星電話サービスが開始したことに始まる。

 2014年にはNTTデータが衛星データを用いた3D地図作成やシミュレーションプラットフォーム開発などのプロジェクトを手掛けるなど、事業領域は徐々に拡大してきた。

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 木村氏はC89について、「目指しているのは地上ネットワーク、HAPS(高高度プラットフォーム)、LEO(低軌道)衛星、GEO(静止軌道)衛星といった多様なアセットを光ファイバー技術で接続し、統合的なネットワークインフラを宇宙に構築する」という壮大なビジョンであることを説明。

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 このネットワークにより、観測データ、通信サービスなどを一元的に顧客に提供することを目指している。ドコモ自身も、観測衛星と通信衛星の両方を手掛ける企業は、世界的にも少ないと認識しており、その独自性を強調している。

 事業領域は多岐にわたっており、GEO衛星においては、ワイドスターとして船舶などを対象とした電話・データ通信サービスを提供している。LEO衛星分野では、自社開発ではなく、StarlinkやAmazon Kuiperといった海外事業者と提携し、ブロードバンドサービスを早期に提供する戦略を取る。これは、LEO衛星の電波利用申請の難しさや、全世界をカバーするための膨大な設備投資が必要となる点を考慮した判断とのこと。

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 一方、HAPSはドコモが注力する領域の一つであり、ケニアでの通信実験成功が発表されている。HAPSは高度約20kmという低高度を飛行するため、LEO衛星と比較して地上の広い範囲をカバーでき、大容量かつ高速な通信が可能になる。また、現状のStarlinkが衛星通信用の端末を必要とするのに対し、HAPSはすでにあるスマホなどに直接接続できる利点を持つ。

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 さらに、LEO衛星が地球を周回するため日本上空を通過する時間が限られるのに対し、HAPSは柔軟に移動させることが可能であり、木村氏は「たとえば、災害時には特定の地域に集中的に通信インフラを提供できる。設備投資の面でも、全世界をカバーする必要のあるLEO衛星ビジネスとは異なり、日本を中心としたエリアカバーに最適化できる」と話していた。

観測衛星からのデータを分析して提供
衛星間の高速通信を可能にする取り組みも

 観測衛星分野では、NTTデータがこれまでAW3Dとして、世界各国の衛星データを収集・解析し、3D地図を提供するサービスを展開してきた。2023年7月には自社で高精細な観測衛星を開発・運用するMarble Visionsを設立。これにより、衛星データの取得から解析、提供までを垂直統合し、最新のデータを迅速に提供することが可能になる。

 顧客は単に画像データが欲しいのではなく、その分析結果やシミュレーション結果を求めているため、この垂直統合による提供価値向上に期待が寄せられる。

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 これらの通信と観測をつなぐ役割を担うのが、Space Compassである。同社は、衛星間の光データ通信技術の開発や、HAPSのオペレーターとしての役割を担い、C89の描く統合的なネットワーク構想の中核をなす。

 衛星間を無線ではなく光通信で接続することで、周波数利用の制約を受けずに大容量・高速な通信が可能となり、木村氏は「将来的にはLEO衛星コンステレーションにおけるゲームチェンジャーとなる可能性を秘めている」としていた。

 異業種との連携も積極的に進めている。自動車業界では、BMWの車両にNTTのSIMが搭載され、モバイルネットワーク圏外でも衛星通信を利用できる仕組みが実現している。特にヨーロッパでは、圏外での事故発生時の通信確保が求められている地域もあり、こうしたニーズに対応する。

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 グローバル展開においては、NTTグループのTransatelが強みを持つ。同社は世界各国でSIMローミングサービスを提供しており、木村氏は「C89の宇宙通信サービスをグローバルに展開する上で重要な役割を担う」と話していた。

 衛星データの活用は、国土管理や都市計画、インフラ管理、農業、森林管理など多岐にわたる。近年では、環境ビジネスとの連携も注目されており、森林伐採の状況把握などを通じた自然保護への貢献も期待されている。

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)との連携も強化しており、宇宙戦略基金などを活用した技術開発や、マーブルビジョンズの設立においてもJAXAの支援を受けている。JAXAが持つ知見や技術力と、NTTグループの事業化ノウハウを組み合わせることで、日本の宇宙産業全体の発展に貢献する姿勢を示している。

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 木村氏は「C89ブランド設立から半年という期間で、社内の連携強化や、海外のNTTグループ社員からのプロジェクト参加希望が多数寄せられるといった成果が出ている」と社内からも注目のプロジェクトであることをアピール。また「宇宙ビジネスへの参入に関心を持つ企業からの問い合わせも増加している」と語っており、市場の期待の高まりが感じられる。

 今後の展望として、観測衛星から通信衛星、そして地上局までを、日本のパートナーと共に構築する国産エコシステムの実現を視野に入れている。NTTのチーフ・コマーシャル・イノベーションの中澤里華氏は特定の衛星事業社への依存について、「今回のMWCでも非常に注目されていた課題」と話しており、光通信技術も含めて国内メーカーとの連携を通じて開発を進め、経済安全保障にも貢献できる体制を目指すとのこと。

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NTT 研究開発マーケティング本部 アライアンス部門 宇宙環境エネルギー担当 統括部長 木村吾郎氏(右)と同チーフ・コマーシャル・イノベーション 中澤里華氏(左)

 

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