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米政府、AIチップ輸出規制強化を検討 NVIDIAは猛反発「敵対国の思う壺」

2025年01月14日 10時00分更新

 バイデン政権が任期終了直前となる2025年1月、人工知能(AI)チップの輸出規制を大幅に強化する方針を検討していることが報じられた。検討中の規制案は、データセンターで使用されるAIチップの輸出を国別・企業別に制限し、世界的なAI技術の普及をコントロールすることを目的としているとされる。

新規制の詳細

3つのカテゴリー

 新規制では、各国を3つのカテゴリーに分類し、それぞれ異なる制限を適用する。

 第1カテゴリー(Tier 1)では、米国と18の同盟国(ドイツ、オランダ、日本、韓国、台湾など)が該当し、ほぼ制限なしでAIチップにアクセス可能となる。このカテゴリーの国に本社を置く企業は、総計算能力の25%までを他地域に配置できる。ただし、米国企業については50%を米国内に保持することが必須となる。

 第2カテゴリー(Tier 2)には世界の大多数の国が該当する。これらの国々には2025年から2027年の期間で、約50,000個のGPUに相当する計算能力が上限として設定される。ただし、企業単位では、米国の安全保障基準と人権基準を満たしてVEU(Validated End User)認証を取得することで、より高い上限の申請が可能となる。

 第3カテゴリー(Tier 3)には中国、マカオ、および武器禁輸国(約24カ国)が該当し、実質的に輸入が禁止される。

 さらに規制は、AIモデルの開発・運用にも及ぶ。第3カテゴリーの国でのAIモデルの重み(model weights)のホスティングは禁止され、第2カテゴリーの国でも一定の安全基準を満たす必要がある。ただし、オープンソースモデルは規制対象外となる。

産業界からの反発

 当然NVIDIAはこの規制強化に対し強く反発している。同社のネッド・フィンクル副社長は声明で、この規制が「反中国的な動き」を装いながら、実際には世界中のコンピューターに影響を与え、代替技術への移行を促すことになると警告。さらに、バイデン政権に対し「政権交代直前のこの時期に新たな規制を導入することは、米国経済に損害を与え、米国を後退させ、敵対国の思う壺になる」と強く批判した。

 また、Amazon、Microsoft、Metaなどが参画する情報技術産業協議会(ITI)は、規制案が米企業の海外でのコンピューティングシステム販売能力に恣意的な制約を課し、グローバル市場を競合他社に譲ることになりかねないと指摘している。

 ITIのジェイソン・オックスマンCEOはこの動きを事前に察知し、1月7日付でレイモンド商務長官宛ての書簡を送付。規制案の完全な実施ではなく、地政学的・経済的な影響の大きさを考慮し、パブリックコメントを受け付けるプロセス(proposed rulemaking)としての発行を求めている。

政権交代と今後の展開

 1月20日に予定されているトランプ政権への移行を控え、産業界からは政権交代直前のこのような重要な政策変更への批判が強まっている。トランプ前大統領は1度目の政権時代から国家安全保障を理由に対中技術販売規制を実施しており、新政権下でも何らかの形で輸出規制は継続されるとの見方が出ているが、その具体的な内容については不透明な状況が続いている。バイデン政権が目指す先端技術の拡散制御と、産業界が懸念する経済・技術革新への影響のバランスを、新政権がどのように図るのか注目される。

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