この記事は、内閣官房による地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」に掲載されている記事の転載です。
大容量3D点群データのスムーズな
閲覧・共有、分類を実現する『ScanX』
株式会社ゼンリンは、高精度な地図データ制作・販売と建築業界向けソリューションで広く知られる企業だ。おもな事業は最新かつ高精度な地図データや経路情報、時空間データベースなどの提供のほか、建設や土木業界向けに工事の事前調査や工事に伴う地図を用いた効率化ソリューション、全国3D地図データも提供している。
2024年3月、ゼンリングループに高精度な3D点群データの分類・解析サービス『ScanX』を提供するローカスブルー株式会社が加わった。
ローカスブルー(旧スキャン・エックス)株式会社は、2019年10月に代表取締役CEOの宮谷聡氏が設立。従業員数20名弱で、その多くをエンジニアが占める。宮谷氏が航空機エンジニアとしてエアバスや海外スタートアップ企業に勤めていたこともあり、エンジニアはほぼ海外のメンバーで英語が公用語、勤務はフルリモートだ。
だが、実際にはエンジニアを含めて顧客の建設現場などに直接訪問して活用事例への解像度を高めるなど、足も使った顧客重視の製品開発に重点を置いている。
スタートアップ発のサービスであるScanXだが、すでに全国43都道府県1万現場以上で広く活用されている。理由には、建設業界が抱える深刻な人手不足がある。若い世代へのバトンタッチが遅れる一方で、2024年問題としてこれまで猶予されていた時間外労働の規制が開始された。さらに、建設業の需要増加や災害対応もあり、需要は増すばかりだ。
このような状況下で、国も生産性を向上させる技術として注目しており、企業間の口コミで利用が広がっていた『ScanX』は、令和3年に国土交通大臣賞を受賞。NETIS(国土交通省新技術システム)において工事成績評定点+1点の加算対象として登録されるなど、その価値が高く評価されている。
『ScanX』の特徴はおもに2つ。ひとつは、高性能PCでなければ閲覧・編集することが難しい数十GBもの3D点群データを、オンラインで軽快に複数のユーザーが閲覧・編集できるブラウザベースのサービスということ。
利用する3D点群データをアップロードすれば、一般的なノートPCとネット環境を用意するだけで快適に作業を行える。また、共有URLを発行して社内や関係者のPCやスマートフォンで閲覧できる機能や、作業を行った点群データのダウンロード機能も提供している。
もうひとつの特徴が、AIを用いた3D点群データの解析とクラス分類だ。読み込んだ3D点群データを解析し、自動で地表面や植生の種類、建造物、人物、ノイズといった特徴を捉えてレイヤー化できる。
この機能により、3D点群データから不必要な情報を削除するクリーニング作業も効率化できる。また、フィルタリングにより3D点群データの特徴をより視覚で確認しやすく、森林管理や施設の維持管理、災害復旧の現場確認といった作業の大幅な効率化が可能だ。宮谷氏は「クラス分類の開発に注力しており、ライバルが追いつけないレベル」と自信を見せる。
読み込む3D点群データは、取得を行った場所や地上または空などの取得方法によってデータの特性が大きく異なる。この点についても、機材や地形に合わせた30種類ほどのAIモデルを用意することで対応している。
ゼンリンとの連携で営業力を大幅に強化
将来の事業拡大にも期待が高まる
ゼンリングループにローカスブルー株式会社を加えた狙いについて、株式会社ゼンリン ICT事業本部 ICTサービス企画一部 部長 事業企画担当の八代知真氏は、建設業界を中心とした事業面のシナジーを挙げる。
八代氏は「ゼンリンにはCVCの子会社もあり、事業シナジーを得られるベンチャーを常に模索している。ローカスブルーがグループインしたことで、ゼンリンが持つ全国の顧客基盤を活用し、建設業界や土木分野において価値提供の機会を創出できると判断した。ゼンリンが保有する地図データベースなどのリソースを用いて、さらなるシナジーを生み出す取り組みも始めている」と語る。
ローカスブルー株式会社の宮谷氏は、ゼンリングループ入りについて「担当部門の方と面談した際、M&Aも含めた提案を頂けたのは積極的という印象を受けた」と語る。そして、ゼンリングループ入りしたことでの一番大きい変化は営業面だと語る。
「ローカスブルーの20名弱のうち、営業は自分を含めて実質2名で土木や測量関係の企業を開拓していた。ゼンリンの営業網は全国の幅広い業界と繋がっており、かつ高い営業スキルを持つのは自社にはない部分」(宮谷氏)。
今後の事業について、宮谷氏は「ScanXの技術は建築業界だけでなく、将来的に自動運転マップなど広い分野に応用できると考えている。AI学習も日々クラウドに蓄積されるデータの強化はもちろん、将来的にはゼンリンが蓄積している膨大なデータも活用できれば。また、自身の経験に加えて海外メンバーが多いことから海外展開も検討している。自社リソースとのバランスを見つつ、ゼンリンとのシナジーを含めて事業を進めたい」と、今後の見通しを示した。
イチBizアワードで
新しい価値提供の領域を探したい
内閣官房は地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト『イチBizアワード』を開催(募集は終了済)しており、2025年1月29日~31日に東京ビッグサイト南ホールで開催される『G空間EXPO2025』にて発表・表彰される。
イチBizアワードで、八代氏は継続的に新しい価値を生み出せる企業やアイデアに期待する。「ゼンリンは、さまざなな企業とともに新しい価値を提供できる領域を探す方針のもと活動している。シナジーを発揮できる企業などとはイチBizアワードはもちろん、以降も継続的なビジネスできる関係性が作れたら」(八代氏)。
(提供:株式会社ゼンリン)
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