第254回
「kintone AWARD 2024」レポート後編 今年のグランプリ企業は!?
日本エアコミューターは“ホームラン事例”で保守派を動かし、成田デンタルは“共感×人を動かす”で社内文化を変えた
成田デンタル:共感を得る3つのしくみと人を動かす4つのしかけが社内文化を変えた
ラストは、成田デンタルの吉原大騎氏のプレゼン「kintoneが支えるマネプロをみんなに活用してもらいたいんじゃ!」だ。
成田デンタルは歯科医と歯科技工場の間を取り持つ営業商社で、全国に24拠点を展開している。歯形を歯科医院から預かり、技工所に送り、完成した差し歯や入れ歯を検品して届けるといった事業を手掛ける。そのため、営業は1日に30から40件の歯科医を訪問するルート営業が中心だ。
kintone導入前、同社は2つの大きな壁に直面していた。ひとつ目は、グループウェアおよびマネージメントの問題だ。営業の活動報告にはパッケージ版の「サイボウズ Office」を利用しており、社長が全員分をチェックして、コメント・シェアしていた。しかし、2022年に社長が突現代わり、活動報告は管理職がチェックすることになった。
心配になった吉原氏が管理職に話を聞くと、「自由入力で書きづらい」「何のための活動報告だかわからない」とショックな言葉返ってくる。さらに、業務で使うルート表や月一で提出するレポートなどのフォーマットが、営業所ごとにバラバラ。提出しない営業所もあるなど、マネージメントの質にも格差が生まれていた。
2つ目の壁は、パッケージ版のサイボウズ Officeのサポートが2027年に終了することだ。以前使用していたサイボウズLiveも2019年に終了しており、2度目の試練となる。当然、クラウド版のサイボウズ Officeも検討したが、ユーザー上限数が300人なので、先々を考えると導入できない。
「そこで私は、kintoneに一縷の望みを託して、取締役の方々に提案しました。すると、『アカウントの価格が倍だし、サイボウズ Officeで使っていた機能を再現するにはプラグインが必要になるでしょ』と言われてしまいました」(吉原氏)
決裁を得るためには、kintoneへの移行に付加価値を加える必要があると考えた吉原氏。付加価値として考えたのは、バラバラだったルート表や営業レポートなどのフォーマットを全社統一してクラウドに保存することだった。目的が不明瞭だった活動報告も、顧客管理や売上実績を統合することで、マネージメントの質を高める。吉原氏はこのプロジェクトを、「全社営業マネージメント統一プロジェクト(マネプロ)」と名付けた。
さらに、吉原氏は、サイボウズの公式サイトで勉強しながらマネプロのプロトタイプも作成。それを取締役に見せると、目論見通り好反応を得られ、数か所の営業所で試すことになった。
ここまでのように、まず現場と徹底的に対話して、+αの付加価値を付けて、開発した実画面を見せる。3段階で“共感を得るしくみ”を作ったことが、kintoneの導入決定につながったという。
そして、kintoneを構築する際には、これまで使っていたサイボウズ OfficeのUIに対抗するために、ユーザーの「居住性」を強く意識した。そして、社内浸透のために“4つの人を動かすしかけ”をkintoneに組み込んだ。
ひとつ目のしかけは、PC、タブレット、スマホと、どのデバイスでも使いやすくしたこと。テーブルを開くのに手間がかかるなら、ぱんだ商会の「テーブルデータ一括表示プラグイン」で最初から一覧表示されるようにした。スクロールする際には、歯科医院名を固定表示させるなど工夫を凝らした。「ルート表を紙に印刷して持ち出したい」と言われればトヨクモの「プリントクリエイター」で対応した。
2つ目のしかけは導線の明確化だ。ポータルのアイコンはボタンらしくして、さらに“何をするアプリ”かを文字でも表示。無意識でも操作できるようにした。
3つ目のしかけは、入力の手間を減らしたこと。活動報告をする際、選択肢を選んでいくだけで、20秒以下で登録できるようにした。手軽に報告できるようになり、1行動1報告というルールも設けられた。
最後のしかけはデータを自分ごと化したことだ。活動報告の集計をポータルに貼り、誰でも見られるようにした。
「そして2023年の12月に取締役のトップダウンでkintoneを横展開しました。その結果、従来と比べて活動報告の登録数は5.5倍になり、さらに9カ月間それを維持しています。これは、マネプロをボトムまで落とし込めた結果だと思います」(吉原氏)
kintoneの成果を目の当たりにした取締役は、計測できるようになった行動量も評価指標のひとつにすることを決定。それを聞いた管理者は、業務の最後にルーチンとして行動を登録する時間を確保するようになり、営業所全体のベクトルが揃っていった。結果、社内のカルチャー自体も大きく変化していったという。
吉原氏は、「共感を得る3つのしくみ、そして人を動かす4つのしかけをぜひ活用してください。マネプロを導入して売り上げが伸びると仕事が楽しくなりました。kintoneってて笑顔を作ってくれる素敵なツールだなと思います」と締めくくった。
以上が、kintone AWARD 2024のレポートとなる。すべてのプレゼン終了後に投票が行われ、審査結果が発表された。見事グランプリを獲得したのは……関西地区代表のワイドループの川咲亮司氏だ(関連記事:洗脳アプリで基幹システム移行の下地を作ったワイドループ、ワイガヤで職人気質の匠を巻き込んだ北斗型枠製作所)。
川咲氏は、「kintoneが、これからシステムを入れ替える、これからシステムを作ろうという会社の選択肢のひとつになればいいなと思います」とコメントした。
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