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今回はECサイト用のバーチャルアシスタント パワーアップしたお題に8社が挑む!

RAG、マルチモーダル、AIエージェント AI Challenge Dayで生成AIの高みを目指せ

2024年12月20日 09時00分更新

「1つの窓口ですべて解決」を目指すリコージャパンはPower Platformに強み

 5番手はリコージャパンの髙田翔也氏。リコージャパンは複合機を中心としたオフィス機器を販売しているが、「マイクロソフト ジャパンパートナー オブ ザ イヤー2024(Security Productivity部門)」を4年連続で受賞。また、中堅中小企業におけるMicrosoft 365の新規法人契約数や新規販売額も国内トップクラスだという。

若手メンバーの代表として登壇したリコージャパンの髙田翔也氏

 2回目の出場となる今回は2年目4名、3年目1名の計5名で参加。普段はMicrosoft 365の導入構築や、Power Platformのアプリ開発を手がけており、「メンバー全員AIに関わったことはなかったのですが、若手メンバーチャレンジ精神を持って取り組ませていただきました」と髙田氏はコメント。そんなリコージャパンチームだが、評価スクリプトの結果は20.825点と20点越えをクリアしてきた。

 今回は「1つの窓口ですべて解決できる」をコンセプトとしたECサイトのアシスタントアプリを目指した。「弊社の中にもRAGを活用して、社内の情報をとってくるシステムはあるのですが、用途によって聞く場所が違ったり、利用するハードルが高かったりしたので、メンバーで話し合い、1つの窓口ですべて解決するアシスタントを作ることにしました」と髙田氏は語る。

1つの窓口ですべて解決するECサイトアシスタントアプリ

 続いて今回目指したアーキテクチャの説明。AI SearchやBlobストレージを採用したシンプルな構成だが、特徴的なのは得意とするPowerプラットフォームを全面採用しているところ。「PowerAutomateは普段業務で使っているので、自分自身もカスタマイズしやすい。お客さまにも紹介できるということで、今回採用させていただきました」(髙田氏)。

 また、Azure Database for PostgreSQLからデータを取得し、Power BI+Copilotで可視化するという取り組みも行なった。アシスタントの画面左に質問を書き入れると、右側にPower BIのレポートが表示される。CopilotもPower BIのレポート作成の補助として利用しており、参照情報も表示される。UI周りの強みを全面に押し出してきた印象だ。

アシスタント画面にPowerBIのレポートを表示

 RAGに関しては、前処理を重視し、ファイルごとに処理を変えている。具体的にはAzure Document IntelligenceでテキストのMarkdown化と画像データの抽出を行ない、ExcelはPythonで不要なヘッダを削除し、日本語への要約を行なった。精度向上に向けては、1~4日目で読み取れないデータがないようにインデックスを調整。この段階でスコアは19.525。5日目にはユーザーした入力した内容に応じて内容を変更するプロンプトフローを実装し、ここで20.825までスコアを伸ばした。ここでは危険なプロンプトの回答制御や参照先データの限定、APIの呼び出し、マルチモーダル対応などを実施した。

 その他、ファイルごとのインデックス作成、データソースの分割、感情分析、画像のベクトル化、目的別インデックスによるRAGの切り分けなども試行したが、今回は時間切れになったという。「ユーザーの質問や目的を判別し、RAGの選定を行なった後、インデックスに投げるようにしたかった。バックエンドはできたが、UIまでつなげることができなかった」と髙田氏は振り返る。

 最後、髙田氏は「経験が浅いからこそいろいろなアイデアが出たが、それを実装する力はなかったので、今後はそれを学んでいきたい。Copilotとの連携も試したい」と感想を述べる。今後は自らに経験値をとどめることなく、5日間で学んだことを社内に共有していくという。

 審査員のASCII大谷イビサは「リコージャパンさんも2回目と言うことで、ウェルカムバックです。前回は『とんでもないところに来てしまった』という名言が出て、すごくチャレンジしてもらったのですが、今回もいろいろチャレンジしてもらった。実際に点数も上がっているし、Powerプラットフォームの強みを活かしていこう点も引き続きチャレンジしていて、成長を感じられた」とコメントした。

ショッピングメイトとマエストロでECサイトをAI化したSky

 6番手のSky 瀬戸秦斗氏は「みなさんおつかれじゃないですかね」とテンション高め。「もう生成AIもメンバーかな」ということで、6名+GPT4oでイベントに挑んできた。Sky と言えば、「 SKYSEA Client View 」や「 SKYPCE 」などパッケージ製品のイメージが強いが、今回のチームは普段からユーザー企業向けのシステム開発も行なっており、生成AIやデータ分析の領域でも実績を上げているという。

カスタマーストーリーメインで説明したSky 瀬戸秦斗氏

 今回作ったECサイト訪問者向けのヘルプアシスタントは「オンラインショッピング革命!あなた専属のAIショッピングメイト」を謳う。ペルソナの青空太郎さん(32歳)は、普段の仕事が忙しすぎて、店舗での買い物が難しく、もっぱらECサイトを利用する。しかし、ECサイトの利用に関しては、「膨大な商品数から自分にあったアイテムを見つけるのに苦労している」「商品の詳細情報やレビューがわかりにくく、購入を決めるのも時間がかかる」「返品手続きも複雑」などの不安がある。「僕もECサイト使いますけど、めちゃくちゃ共感します」と語る。

 今回開発したヘルプアシスタントは、そんな太郎の好みに基づき、パーソナライズされた商品の推薦を行なうだけではなく、質問に関しても対応する。たとえば詳細な商品説明やレビューの要約、返品手続きのリアルタイムなサポートまで行なう。店舗の接客を受けるように、テキスト、音声、画像などマルチモーダルが利用できるという。これにより、太郎は短期間で自分に最適な商品を見つけることができ、購入プロセスもスムーズになる。

 ECサイト側からしても、コンバージョン率が向上し、売上の増加につながる。太郎がリピート顧客となることで、友人にもサイトを推薦するようになるため、新規顧客の獲得につながる。太郎のフィードバックにより、商品の改善が行なわれれば、サイト全体の顧客体験もさらに向上。顧客も、ECサイトも、いいことずくめというのが、Skyチームの目論見だ。

 顧客フィードバック分析アシスタントは「顧客の声を次の一手に!AIインサイトマエストロ」を謳う。こちらのペルソナは、カスタマーストーリーはECサイト運営マネージャーの青空次郎(45歳)。次郎には顧客のフィードバックを手動で分析しているため、時間がかかり、重要なインサイトを見逃すという課題があった。また、フィードバックから改善策を迅速に導くのが難しい点も課題だった。

 こちらに関しては、フィードバックを自動的に分類・分析し、ポジティブ・ネガティブな要素を瞬時に特定するだけでなく、重要なインサイトもリアルタイムに次郎に提供する。それだけではなく、インサイトに基づく具体的な改善策の提案を自動作成し、実行可能なアクションプランを提供する。瀬戸氏は「次のアクションプランを提供する。これがAIインサイトマエストロなんです」とアピールする。

 これにより、次郎はフィードバック分析にかける時間が大幅に削減でき、戦略的な意思決定に集中。改善策をタイムリーに実施することで、顧客満足度が向上し、ロイヤリティも強化。ECサイトの運営効率が向上し、迅速な対応により、市場競争力も強化。次郎はデータに基づくことで、確信を持って施策を提案できるようになり、組織全体の意思決定プロセスも改善。フィードバックを活用した新製品の開発やサービス改善により、ブランドのイノベーションが高まり、業界内のリーダーシップを確立する。これがECサイト側の目指すカスタマーストーリーだ。

 時間の大半をカスタマーストーリーに費やしたSkyだったが、ここでアーキテクチャを披露。マルチモーダル対応のAzure OpenAI Serviceを活用することで、テキストだけでなく、画像もインプットとして利用した質問、リアルタイムAPIを用いた音声を用いた回答も可能で、店舗のような接客も可能になるという。その他、プロンプト・トークン数の監査を容易にするためのGenAI SecOps、Azure Front Doorを用いたマルチリージョンでの耐障害性の確保や負荷分散、Azure MonitorやKeyVaultのセキュリティ機能の活用など、全体的にエンタープライズやセキュリティにも配慮されたアーキテクチャとなっている。

アーキテクチャ図

 評価スクリプトの結果は20.500点。プロンプトフローをメインに利用し、さまざまなRAGのアーキテクチャを試し、評価指標を元にRAG見直しを実施。前述したGenAISecOpsの一部を実践した。また、前処理に関してはSynapse Analyticsを利用し、MongoDBのデータをBlobストレージに出力したり、RAGとして回答の精度を高めたり、AI Visionを用いたインデックス化など、さまざまな工夫を行なったという。

 RAGの処理に関しては、論文まで調べた結果、HyDEやクエリ拡張、Text-to-SQL、Rerank、Advanced RAG、マルチモーダルなど、さまざまな手法を試した。一方で、Metadata FilterやMultiQuery、Recomp、CopilotStack、Cotなどは手が回らず。質問に応じて検索先やAPI呼び出しを変えたり、マルチエージェントなども今後の課題になるという。最終的に、複数人で作成したPromptFlowを統合するのに苦労したが、かなり壮大なRAGアーキテクチャが完成したという。「非常にいい1週間でした。これでSkyの発表終わります」と締めた。

RAG構築で工夫した点・感想

 ナレッジネットワークの森戸裕一氏は、「実際にSkyさんが開発したサービスを提案されているような感じで、プレゼンもうまいなと感じました。『AIショッピングメイト』や『AIインサイトマエストロ』も、どのようなサービスかわかりやすいし、試したかったことが表現されている。試したかったこと、できなかったことなどが説明されていたので、われわれも採点しやすいなと感じます」とコメントした。

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