週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

今回はECサイト用のバーチャルアシスタント パワーアップしたお題に8社が挑む!

RAG、マルチモーダル、AIエージェント AI Challenge Dayで生成AIの高みを目指せ

2024年12月20日 09時00分更新

こだわりとチームビルディングに学びがあったオルターブース

 トップバッターは 福岡から来たオルターブース。チームはプレゼンを務めた釘宮よしなり氏を中心にした3人で、入社1~2年目のフレッシュなチームだ。「AIやRAGはこれから来る技術だから、若いなりにやってみようかと参加を希望しました。この1~2年でRAGではさまざまな技術が登場しているので、それらを総合的に見つつ、自分たちでプラスアルファを考えていこうということになりました」と釘宮氏は語る。

悔しさをにじませたオルターブース 釘宮よしなり氏

 チームがデータを見て、最初に感じたのは「ただ取り込むだけではいい回答にならない」という点。そのため、RAGの検索にきちんと引っかかるデータ整形の実装にこだわってアーキテクチャを描いた。また、利用が拡大する可能性も見越して、サーバーレスやイベント駆動なども盛り込んだという。

 しかし、今回時間が足らず、途中で実装を断念した。これがプレゼンの2日前の話。「僕が最初のアーキテクチャを作ったのですが、こだわりが強すぎて、これは周りに伝えられず、タスクの配分ができなかった。硬直した時間を作ってしまい、時間がなくなった」と釘宮氏。1~2年目の新人と言うことで、実装力がなかったのに加え、マネジメントとコミュニケーションの不足があった。「難しいんですけど、人と対話して、お互いなにがわからないかを把握しないと、チームとして成り立たないと思いました」(釘宮氏)。

構想はいろいろあったが、時間が足らず途中で実装を断念

 「とても悔しい思いをした」と語る釘宮氏。しかし、日にちが経つにつれ、成長も見られ、チームとして動くことも可能になり、アーキテクチャもサーバーレスもイベント駆動を捨て、Kernel MemoryというOSSをカスタマイズする方針に変更した。「半年くらい前に先輩社員が使っていたのですが、そのときと全然違いました」とのことで、かなり使い物になりそうだった。

 OSSをカスタマイズして、APIから使える状態にはした。しかし、最後までは終わらなかった。つまりスコアが出ていない。「とても悔しい。だから、これからも継続して開発していって進めていけたらと考えています」と釘宮氏は語る。

最終的なアーキテクチャ

 審査委員長のASCII大谷イビサは、「完走できなかったのは、まさに『花ケ﨑の洗礼』ということで、難しかったんだろうなあと思いました。でも、こういうエンジニアのイベントって、失敗から学ぶというのがとても重要。そこを得られているということで、若い人がんばっているなという感想を私は持ちました。本当におつかれさま」とコメントした。

 MCつばさが「苦労してたいけど、楽しそうな気もしました」とコメントすると、釘宮氏は「安パイはとれたと思う。ありふれた知見でやる方法もあったけど、チームではなにかしら挑戦することにこだわり、チームでバランスがとれなくなった。RAGは無限に奥が深い技術だと思いました」と語った。

MIerならではの戦い 2回目のAZPowerはAI Searchを育てる

 2番手は2回目の参加となるAZPowerの木内航氏。「みなさんは体調、大丈夫そうですか?」と気遣う木内氏だが、「今回うちもエンジニア連れてきたかったんですけど、みんな体調的にグロッキーで、私の列は誰も座っていない。唯一元気で、家が近いだけで呼ばれた(笑)」と過酷な1週間をネタにし、場を和ませた。普段フルリモートワークを行なっている5人のメンバーで開発を行なったが、今回は誰も来られなかったという。いろいろな意味ですごい。

参加者の体調を気遣うAZPowerの木内航氏

 続いてAZPowerの紹介。「簡単に言うと、扱っている商材はAzureとMicrosoft 365。だからMicrosoftに魂を売ったMIer(Microsoft Integrator)なのかなと思って仕事しています(笑)」と木内氏はアピールした。なお、社名にちなんでサービス名はPowerが付与されており、チャットボットサービスの「PowerGenAI」などを展開。AI Challenge Dayは2大会連続出場中で、「今回もがんばりました」(木内氏)とのことだ。

 評価スクリプトは19.350点。「前回は17.425という点数。課題やモデルが違うので、単純比較はできないが、2点上がったので弊社としては実りのあるものになった」と木内氏は語る。

 構成はファイアウォール、フロントエンドのWebサーバー、LLM、RAGツール、データソースというシンプルなもの。前回は「Azureサービスを組み合わせる」という点に力点を置いたが、今回は「Azure AI Searchを育てる」ことにフォーカスしたという。また、Azureしかやっていないインテグレーターとして、ランディングゾーンを意識したアーキテクチャを構築した。「Azureプラットフォームにおいて、変化の速い生成AIを動かしていくには、ランディングゾーンに沿うのがベストプラクティスだと思いました」と木内氏は語る。

ランディングゾーンを意識したアーキテクチャ

 RAGの構築においては、インデックスとインデクサーに工夫を施した。JSONを含むデータセットにインデックスを作成すると、プレーンテキストと認識され、精度が低下してしまう問題が発生した。JSONを読み込めるインデクサーを作成したものの、これだと他のデータセットが読み込めなくなるので、1つのインデクサーを複数のインデクサーに対応させ、JSONとそれ以外を分離。結果としてデータを横断的に検索する問いに対して、精度を向上させることができたという。

 2点目の工夫は感情分析の向上。AI Searchを育てるべく、Sentiment Skillのスキルセットを用いて感情分析したり、Split Skillなどを組み合わせることでスコアを高めることができたという。スキルセットの理解も深まり、「AI Searchこんなに便利だったんだと感じられたのは、大きな収穫だった」と木内氏。また、GPT-4oのモデル性能も実感しており、前回実現できなかったことも、いろいろ実現できるようになったという。

 逆にチャレンジしてみたかったのはAI開発基盤の「Microsoft Fabric」。「Microsoft Fabricを使わせていただけたら、われわれもチャレンジして、みなさんのトライ&エラーも知見を得られていたのではないか」と木内氏は振り返る。

 こうして開発できたのは自立型ECサイトを謳う「PowerCommerce」だ。木内氏は、「RAGを使ってFAQを収集するということは、抽象化すると顧客が困っていることを集めること」と指摘。顧客の問い合わせを社内インサイトとして集約し、顧客対応や意思決定するための情報として活用できる自動化の仕組みが実現できたという。木内氏は、「これを『PowerCommerce』として弊社製品で展開したり、ここにFabricを組み合わせると、よりよい未来が待っている気がします」とセッションをまとめた。

自立型のECサイト「PowerCommerce」を提案

 審査員のナレッジネットワーク森戸裕一氏は、「みなさんが倒れられたということで、プレゼンの途中で倒れないか心配していましたが、非常にパワフルなプレゼンありがとうございました。最後のFAQのログを活かし、最終的に経営判断に活かしていくというのは、顧客視点では一番重要で、大きく評価したい」とコメントした。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この特集の記事