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海外とほぼ遅延ナシで繋がるIOWNから血糖値の検査まで! NTT R&Dフォーラムで見つけた新技術

2024年11月28日 09時00分更新

 NTTが、NTT R&DおよびNTTグループが研究・開発した最新技術やビジネス展開について紹介する「NTT R&Dフォーラム」が11月29日まで開催中です(完全招待制)。これに先駆けて、11月21日にメディア向け内覧会が開催されました。会場は東京・武蔵野市にあるNTT武蔵野研究開発センター。

 今回のテーマは「IOWN INTEGRAL」で、「RESEARCH」「DEVELOPMENT」「BUSINESS」の3つのカテゴリーにわけて、合計82の技術や取り組みが出展。時間の制約があり、すべての展示を見たわけではありませんが、筆者が注目した5つの技術についてインプレッションを交えてレポートします。

IOWNでつながった台湾とリアルタイム映像中継

 今回のフォーラムで最大のトピックとなっていたのがIOWN(アイオン)。NTTが次世代の情報通信基盤として推し進めているもので、ネットワークから端末まで、すべてに光ベースの技術を導入し、高品質・大容量・低遅延の通信を実現するAPN(オールフォトニクスネットワーク)が重要な技術となっています。日本では、昨年から商用サービスが始まりましたが、国際展開への第一歩として、今年8月には日本と台湾間のAPNが開通。日本と台湾を結んだデモンストレーションが披露されました。

NTT武蔵野研究開発センタと台湾の中華電信のデータセンタを結んでクロストークを実演。2拠点間は海底ケーブルと光ファイバーのオール有線でつながっている。実際に対面している感覚でじゃんけんができるほど低遅延だった

 日本と台湾は約3000kmも離れていますが、100Gbpsの通信速度を実現し、遅延は片道で約17msec(0.017秒)とのこと。国際APNでつながった東京と台湾・桃園でリアルタイム映像を中継し、東京から台湾のカメラの遠隔操作する体験もできました。

東京にあるリモートコントローラを使って、台湾のカメラを操作してみた。筆者は自宅に設置した監視カメラを外出時にスマホで操作することがあるが、それよりも格段になめらかに操作できた

 遅延は100msec(0.1秒)程度で、APNよりも通信に用いる機器内部での遅延のほうが大きいとのこと。台湾にいる人とほぼタイムラグを感じずに会話し、じゃんけんもできました。カメラのリモート操作も非常になめらかでした。

 将来的には、台湾の企業が日本のデータセンターにバックアップを取ったり、台湾で開催されるイベントを日本からのリモート操作でライブ中継したりと、さまざまな用途が見込まれています。台湾以外の国・地域への展開も期待したいところです。

NTTとTBSによるリモートプロダクションのデモも披露。現地に多くの中継機材やスタッフを派遣することなく、クラウドを使って、リモート操作で番組制作ができるという

人に代わってPCを操作してくれる
NTT版LLM「tsuzumi」

 IOWNと並んで、大きなテーマとして掲げられていたのが生成AI。NTTグループは「tsuzumi」という独自のLLM(大規模言語モデル)を開発し、2024年3月に商用サービスを開始。同時に機能の拡張も進めています。

 tsuzumiの進化を紹介するために、商品購入のデモンストレーションを実施。テキストで具体的に指示することなく、画像や図表などを参照させて商品を検索し、通常はユーザーが操作しなければならないECサイトでの操作も自動で行なわれて、社内用の伝票を作成するまでの過程が披露されました。

 これまでのLLMは、チャット形式で何かを調べるためのものという印象でしたが、tsuzumiはPCの操作を大幅に簡略化してくれるものになりそうです。

紫色のノートとペンが写っている画像を指定して「これに似た商品を探して」と指示するだけで、該当する商品が検索される

ECサイトへのログイン、注文なども自動でできる

 LLMは世界中で多くの企業が開発し、覇権争いを展開しています。tsuzumiは日本語の処理能力が高く、軽量でカスタマイズの実用度が高いことも特徴。今後、種類が異なる複数のデータを扱うマルチモーダル化や、RAG(検索拡張生成)の強化を進めることもアピールしていました。

オープンイヤー型ヘッドフォン向けの
ノイズキャンセリングが進化

 オープンイヤー型ヘッドフォン向けのANC(アクティブノイズキャンセリング)技術も注目を集めていました。すでにノイズキャンセリング機能を搭載するオープンイヤー型ヘッドフォンはありますが、1000Hz以下の音しか低減できないとのこと。しかし、実際に人間の耳が最も敏感に感じるのは3000Hz付近の音なのです。それを低減できないために、環境によってはヘッドフォンの音が聞こえづらく、音量を上げて、難聴になるリスクが生じていました。

 NTTが新たに発表したANC技術では、100~3000Hzまでの広帯域の騒音を低減できることが特徴。実際に試してみると、騒音の音量は半分くらいになる印象です。騒音は完全には消えないものの、ヘッドフォンの音声を聞き取るには支障はなく、近くにいる人との会話にも支障はないように感じました。

ANC付きオープンイヤー型ヘッドフォンの試作機

音漏れせずに、周囲の騒音だけを低減できる仕組み

 NTTグループのNTTソノリティが今年7月に「nwm ONE」というオープンイヤー型ヘッドフォンを発売し、音質が高く評価されましたが、今回出展されていたANC搭載のプロトタイプは、nwm ONEをベースにしているようでした。意外と早い時期の商品化を期待できそうです。

同じ原理を用いて、空間の騒音を低減する技術も出展。大きな騒音が聞こえる部屋だが、この骨組みの下に入ると騒音が小さくなった

組まれたパイプには、小さなスピーカーのようなものをたくさん設置されていて、これらによって騒音が相殺される仕組み

肌への浸透率は約2倍! 電池入り美顔パック登場!

 環境にやさしい “土に還る電池” などを開発した研究者たちが取り組んでいるのが、電池を応用した経皮吸収促進技術。電池における電解液の役割を皮膚に担わせることでイオンの流れを発生させ、有効成分の経皮吸収を促すというもの。

 この技術を用いた美顔パックの試作品が、そのまま販売できそうなパッケージで展示されていました。電池入りのパックは、最初は乾いた状態で、美容液に触れることで効果が有効になる仕組み。原理は異なりますが、使い捨てカイロのような感覚で使えそうです。

左が内側、右が外側。内側には薄い電池が入っているのが確認できた

すぐに販売できそうなパッケージで展示されていた

上に美容液、下に顔に貼るシートが入っていて、上の部分を押して、シートに美容液を浸透する仕組み

 現在の実験では、一般的な美顔パックの約2倍の浸透効果を期待できるとのこと。土に還る電池の技術を生かし、燃えるゴミとして出せる製品にしたいと考えているそうです。

 今回のフォーラムに出展されていたのは美顔パックのだけでしたが、この技術は薬剤にも利用可能。薬の成分の吸収を促進でき、注射に変わる投薬方法になることも期待できそうです。

針で刺さない腕時計型グルコースセンサー

 腕時計型のグルコースセンサーも出展されていました。健康診断などで耳にする「血糖値」とは、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度を意味します。血糖値は食事や運動によって変動するので、それをモニタリングすることが重要。グルコースセンサーは、血糖値のモニタリングに使うものです。

 一般的に、血糖値の測定には血液が必要で、指先などに針を刺して採血する必要があります。しかし、NTTが開発するグルコースセンサーは、針を使わず電波を用いて、皮膚の間質液中に含まれる血糖値を調べる仕組み。痛みもなく、容易に血糖値をモニタリングできることが利点。

NTTが開発中のグルコースセンサの概要

 NTTグループでは数年前から研究・開発に取り組んでいて、東京大学医学部と連携して、人が実際に装着する原理検証も行なっているとのこと。今回のフォーラムに出展されていたプロトタイプは小型で長く、身体に装着しておけることが特徴。腕時計のように装着できるサイズで、将来的にはスマートウォッチの機能として搭載されることも視野に入れているとのこと。

中央にあるのが従来のプロトタイプで、2台のセンサーで構成されている。右が今回出展された小型のもの。左が腕時計型のプロトタイプ

横から見ると従来モデルからの小型化は一目瞭然

測定されたデータはスマホやタブレットで確認し、データが保存される

 スマートウォッチについて取材していると、心電図、血圧の次に、搭載したい機能として耳にするのが血糖値センサーです。世界で複数のメーカーが研究・開発に取り組んでいる機能ですが、NTTのセンサーは電波を用いて、通信性能にも優位性があるそうです。

 手軽に血糖値を測れるようになったら、糖尿病の予防につながります。筆者は心疾患で手術をしたことがあるのですが、医師から何度となく「糖尿病にはならないように」と言われています。糖尿病になると、ほかの疾患にもつながったり、使えない薬や治療が生じたり、結構厄介なことになると脅されています。この針で刺さないグルコースセンサー、1日も早く商用化してほしいですね。

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