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高価格にも納得できるサウンド

7万円の高額ワイヤレスイヤホン「B&W Pi8」の音が、泣けるほど良かった

2024年11月28日 11時00分更新

文● 貝塚/ASCII
提供: ディーアンドエムホールディングス

最高峰の音の秘密は、構造と素材にあった

 ここで、私の感想ではなく、Pi8の構造の面から、優れた音質の秘密を掘り下げていきましょう。

 Pi8のハード面での最大の特徴は、Analog Devices製のDSP(Digital Signal Processor)、DAC(Digital Analog Converter)、アンプをディスクリートで搭載している点にあります。

 すなわち、デジタル信号処理装置と、デジタル信号をアナログ信号に変換する装置、信号の増幅機が、それぞれ独立したパーツとして搭載されているということですね。多くのワイヤレスイヤホンでは、これらをSoCにまとめていることが多いので、非常に贅沢な仕様であると言えます。他社のハイエンド機を探しても、こういった仕様を盛り込んでいるイヤホンの数は、多くはありません。

 ワイヤレスイヤホンの小さなハウジングの中に効率よくパーツを配置するという点においてはSoCの方が優れていますし、パーツを複数に分けるということは、製造工程が増え、製造コストが上がることも意味します。にもかかわらず、わざわざパーツを分けている点に、こだわりを感じずにはいられません。

 ドライバーにもこだわりが見られます。まず、サイズが12mmとワイヤレスイヤホンにしては大型です。新規に開発したというドライバーで、B&Wのオーバーイヤーヘッドフォンとして最上位の「Px8」にも採用されているカーボンコーン技術を採用したドライバーを使っています。

 なぜドライバーにカーボンコーン技術を使うと音がよくなるのでしょう?

 このあたり、本稿では少し詳しく説明していきたいと思います。まず、ドライバーの役割は「信号を振動に変換し、音波を発生させること」と表現できますよね。理想としては、電気信号が100%の純度で音波に変わってほしいところですが、現実的にはそれは難しい。なぜなら、電気信号が信号に変換される際に、ドライバーの素材が持つ物理的な特性に影響を受けてしまうからです。

 では、理想的なドライバーとはどのようなものでしょうか?

 重要なのが「剛性」です。剛性が高いほど、振動板が意図しない形で歪むことを防げるため、音の濁りを抑えて、正確な再現性が得られます。「軽さ」も重要です。素材が軽いほど、素早く電気信号に反応できるので、音の立ち上がりや細かなニュアンスの忠実度が上がります。

 以上を踏まえると「とても軽くて、剛性が高い素材」がドライバーの理想であることがわかりますね。しかし、ここに課題が生まれます。普遍的な物理の法則から言って、剛性を上げると素材は重くなりがちで、軽くしようとすると剛性が不足しがちなのです。

 剛性が高いということは、分子同士が強く結びついており、外部からの力に対して変形しにくいということです(絶対にそうとは限りませんが)。そのため、一般的には分子の密度も高く、結果的に物質として重くなりやすいのです。

 一方で軽い素材は、素材を構成する分子が小さく、また結びつきが比較的緩い(傾向にある)ため、密度が低くなり、剛性も低くなります。

それぞれの物質の分子構造のイメージ。高剛性と軽量性は物理的に矛盾しやすい

 「剛性の高さ」と「軽さ」は、物理的に矛盾しやすい要素なんですよね。この矛盾する要素をどの閾値で調和させるか(どのポイントで剛性と軽量性のバランスをとるか)というのは、音響エンジニアリングの核心に近い部分のひとつと言ってもいいと思います。

 うーん。「剛性は高く、軽い」なんて。そんな夢のような素材が、この世にあるんでしょうかねー。

 …………そこを実現しているのが、カーボンコーン技術なのです。軽量な芯材にカーボンを層状にコーティングすることによって、軽さと、炭素原子の特性に由来する高い剛性を両立しているというわけです。

 この工夫の仕方、いかがでしょうか。生産性を考慮すると「できるだけ剛性が高く、できるだけ軽い素材を選択するのが自然だと思うのですが、「軽い素材に、剛性の高い素材をまとわせる」という手間のかかるやり方を採用するのが、さすがB&Wですよね。

 もう、Pi8の上質な音の理由は明らかになりましたね。この小さなハウジングに、B&Wのこだわりと挑戦が詰まっています。

Pi6という選択肢もある。これは迷ってしまう!

 ここまでPi8の製品としての完成度にひたすら触れてきましたが、実は同じシリーズから、もうひとつの選択肢がリリースされています。

こちらは実売価格4万円前後のPi6

 それが「Pi6」というワイヤレスイヤホンです。

 両者の違いはいくつかあり、主にはドライバーの素材、対応コーデック、スマート充電ケースを用いたオーディオ再送信機能の対応/非対応あたりになります。一覧で比較できるように、違いを下の表にまとめてみましょう。

Pi8とPi6の比較
モデル名 Pi8 Pi6
ドライバー 12mm径 カーボンコーン 12mm径 バイオセルロース
DSP 32 bit DSP(ディスクリート) 24 bit DSP
連続再生時間
(イヤホン単体/AC適用時)
最大6.5時間 最大8時間
オーディオ再送信機能 対応 非対応
実売価格 7万円前後 4万円前後

 いやー、実売価格で3万円くらいの違いがあるというのが、また悩ませてくるポイントですよね。

 仮にこれが1万円くらいの違いなら、私は「絶対にPi8がオススメですよ!」って書いていたと思います。でも3万円違うと、もう1〜2ガジェット買えますからね。

 スペックに表れない違いとしては、外装デザイン的に、Pi8はハウジング外周やケースのエッジがメタル調になっていたり、ブランドロゴがきらめくような仕立てになっていたりと、一段階上の質感を持っています。細かなところでいうと、専用アプリのイコライザーが、Pi8はLow、Low-Middle、Middle、Hi-Middle、Hiの調整に対応しているのに対し、Pi6はLow、Hiの調整のみだったり。

 何よりも、先ほど説明したパーツがディスクリートか否かという点、そしてドライバーの素材の違いは、両機の大きな差異になっているでしょう。全ての点でPi8が優っているのかというと、連続再生時間についてはPi6の方が公称値が1.5時間長くなっていて、Pi6に軍配が上がります。

Pi6(左)と、Pi8(右)。ハウジング外周のリングや、ロゴの仕上げが異なる

Pi6(左)と、Pi8(右)の充電ケース。形状はそっくりだが、仕上げが異なる

 肝心の音はというと、Pi6もすごく良いんですよね。敢えて違いを言語化するなら、特に大きな違いが現れるのは中高域以上で、Pi6ではわずかに低い音域からのマスキングが感じられます。さすがにPi8と同等とは言えないのですが、多くの普及期は及ばないレベルにあり、しっかりと高級機のサウンドです。

 そもそも、Pi6も価格的には高級機のラインにあります。Pi6も高級機で、Pi8は最高峰を求める人に向けられた、超高級機と捉えるのが正解かもしれません。

 B&Wのイヤホンの全体的なサウンド傾向はというと、ソースの再現性に重きを置いていて、やや遠くで鳴っているような、空間を感じさせる音作りに特徴があったのですが、今回の製品はPi8、Pi6ともに、従来より少し耳元に近い、ダイレクト感のある鳴りをしています。この傾向は両者に共通していて、「B&Wの哲学が詰まった最新の音が楽しめる」という点においては、Pi6でもしっかりと実現しているんですよね。

 Pi8が持つ独自の機能は必要なく、高いコストパフォーマンスでB&Wを楽しみたいという方にとっては、Pi6も非常に良い選択になるでしょう。

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