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デジタル庁の村上敬亮氏が語るマイナンバーカード実証実験の舞台裏

必要なのは想像力とガバナンスとの戦い 富山県朝日町のDXはなぜ実現したのか?

2024年11月13日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII
提供: ウイングアーク1st

1万人の地方都市でキャッシュレス、ライドシェア、行政ポイント

 最後にトピックとして挙げたのは、富山県朝日町の実証実験。ここではマイナンバーカードでの買い物が可能で、元デジタル行財政改革担当大臣の河野太郎氏も実際に買い物をしたという。公共サービスパスである「LoCoPiあさひまち」とマイナンバーカードをひも付けることで、本人認証で利用しているわけだが、単に買い物だけではなくさまざまな用途で利用できる。

富山県朝日町のマイナンバーカードによる実証実験

 たとえば、子どもたちはランドセルに取り付けたLoCoPiカードを、学校の玄関横に設置されたリーダーにかざして、入校・対校のチェックインを行なえる。人口1万人で、小学校が2つにまで減っている朝日町は、半数以上がスクールバスを使うため、バスの乗車もLoCoPiでチェックインできる。サッカースクールでもLoCoPiでチェックイン。チェックインのたびに親御さんにその情報が飛ぶので安心だ。

 また、「みんまなび」という放課後プロジェクトでは、教師ではなく、地元の方が子どもたちに社会教育を行なっている。子どもたちを製材所に招待して仕事を教えたり、料理店が郷土料理を教えている。ここで問題になるのは講演者や子どもたちを運ぶための足。それを解決するのが、地元のタクシー会社が連携したライドシェアの取り組みだ。前日まで予約するとライドシェア、当日予約は10台あるタクシーが使える。タクシーのドライバー同士はLINEグループができており、空いているタクシーが融通されることになる。

「ライドシェアとなると、普通はタクシー会社がバチバチとなる。(朝日町でも)タクシー会社協会に相談行ったら、全員反対。でも、とある御年89歳の社長だけは『俺は朝日町と心中する』といって啖呵を切ってくれ、実現できた」(村上氏)

 キャッシュレスは高齢者まで拡がっている。公民館で行なわれている100歳体操の現場キャッシュレスのチュートリアルが行なわれた結果、「スワイプはできないが、タップはできる」というお年寄りでも使いこなせるようになり、なんなら「現金より楽」という感想まで出ている。もちろん、ここでもLoCoPiのチェックインが用意されており、公民館に来ると、親族のスマホに連絡が飛ぶ。

 さらにLoCoPiは活動に対してポイントが付き、商店会のクジのように景品が当る。「あれってなかなか当らないのよねえ」とご老人方も楽しく参加しているという。また、町から高校生の卒業祝い金もLoCoPiにチャージされる。「親御さんに食事をごちそうした」みたいなハートフルな逸話も出た。

部局を超えてデータ活用できる素地を作らないとAIは活用できない

 朝日町はなぜこんな施策ができるのか? これは部局横断する「みんなで未来課」があるからだという。このプロジェクトは学務課、社会福祉課、交通政策課、商工管理課、生涯学習課などの部局横断プロジェクトを、みんなで未来課が管理し、委託事業者と連携して実現したもの。この結果、町の高齢者と子供の約半分が実証実験に参加したという。

「これから下手すると市民アプリと防災アプリと健康アプリと商工所アプリが4つ別々にできる可能性がある。でも、朝日町の場合は、みんなで未来課ができてしまった。普通は部局横断プロジェクトを管理する部課なんて存在しない。ある町長さんにここの話をしたら、『みんなで未来課が作れるこの町の町長さんはえらい』と話してくれました。ここなんです。部局を超えてデータ活用をできる素地を作らないと、AIを活用する未来はやってきません」(村上氏)

 マイナンバーカードの実証実験を通じて、DXの課題点を肌で感じてきた村上氏。ビジネスプレゼンのテンプレートにはまらない軽妙なトークから見えてきたのは、DXの可能性とそれに向かうマインドセット、そして戦い方だ。最後、村上氏はこうまとめる。

「DXは今後の日本に大きな可能性をもたらすマーケットであり、ある意味、指向性でもある。この中では、いかに横串を挿すかというガバナンスの戦いがあり、それをやるためには『こんなことが起きたらおもろいな』という想像力が足下の面倒くささに勝つかどうかが問われている。つまり、みなさん仕事は楽しくやりましょうということです」(村上氏)

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