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性能も上がったが消費電力も増えた「Ryzen 7 9800X3D」最速レビュー、AI推論の処理速度は7800X3Dの約2倍!

2024年11月06日 23時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●北村/ASCII

 2024年11月7日(北米基準)、AMDは第2世代3D V-Cacheを搭載したゲーミング向けCPU「Ryzen 7 9800X3D」の発売をグローバル市場で解禁する。ただし日本における販売解禁は物流などの制約から約1週間遅れの11月15日午前11時である。

 国内税込み予想価格は8万6800円(北米予想価格は479ドル)となり、昨今の厳しい為替事情を反映した価格設定となった。ただ2週間ほど前に解禁となったCore Ultra 200Sシリーズに比べるとマイルドなドル円レートで計算されているようだ。

Ryzen 7 9800X3Dの発売はグローバル市場では11月7日解禁となる。つまり本レビューは発売直前に公開されるわけだ

 Zen 5アーキテクチャーを採用したRyzen 9000シリーズは8月に発売されたが、前世代であるRyzen 7000シリーズに比べセールスに苦労しているという業界筋の観測も聞こえてくる。これは発売当初のRyzen 9000シリーズの性能がさまざまな要因――Ryzen 5/ 7におけるTDPを絞った仕様や、分岐予測改善のコードの実装具合、AGESA 1.2.0.2以前のBIOSにおけるコア間レイテンシーの問題などが挙げられる――でRyzen 7000シリーズに対し圧倒的差をつけられなかった可能性もあるが、筆者としては「後から3D V-Cache搭載版Ryzen 9000シリーズ」が出てくるとわかっているので、皆じっと待っていたと推測している。

 事実Ryzen 9000シリーズのレビューにおいても、Ryzen 7 9700XやRyzen 9 9950Xのゲーミング性能はRyzen 7 7800X3Dに勝てるものではなかった(無論例外もあるが)。

Ryzen 7 9800Xのパッケージ(レンダリング画像)。寸法や意匠はRyzen 7 9700Xのものと共通だが、中央部分がシルバーになっていること、左上に「AMD 3D-V Cache Technology」と銘打たれている

 そんな中出てきたのが今回発売されるRyzen 7 9800X3Dである。Ryzen 7 7800X3Dと同じSocket AM5、物理8コアという非常に近い構成を備えているが、Zen 5アーキテクチャーと第2世代3D V-Cacheを採用している。物理12コア・16コアを採用した上位モデルは未発表だが、Ryzen 9 7950X3Dや9950Xなどの挙動を見た限りでは、どんなゲームでも確実に3D V-Cacheの効果が享受できるCPUはこのRyzen 7 9800X3Dであると筆者は確信している。

 筆者はRyzen 7 9800X3Dをレビューできる幸運に恵まれた。本レビューは前編と後編の2部構成となり、前編では定番ベンチや消費電力、クリエイティブ系アプリでの検証を交えたゲーム以外の検証を、後編ではゲーム56本によるゲーミング性能だけにフォーカスした検証を実施する。

Ryzen 7 9800X3D(左)と7800X3D(右)の比較。どちらもSocket AM5版なので外形はもちろん裏面のランド配置も同じ。強いていえば基板表面のキャパシターの配置が違うが、これはRyzen 7000→9000シリーズの差分と同じである

コア数やクロックよりも構造に注目

 Ryzen 7 9800X3Dのスペックは、既存の9700Xや7800X3Dから大きく変化していない。物理コア数は8、TDPはRyzen 7 9700Xの65W(定格)から比べると約2倍になったが、1世代前の7800X3Dと同じ120W設定である。

 Ryzen 7 9800X3Dのベースクロックは9700Xや7800X3Dよりも高いが、最大ブーストクロックは9700Xと7800X3Dの中間である。3D V-CacheによるL3キャッシュ増加分も64MBで7800X3Dと同じであることなどを考慮すると、Zen 5である以外にメリットのなさそうな製品に見えるかもしれない。

Ryzen 7 9800X3Dと、その近傍の製品とのスペック比較
  Ryzen 7 9800X3D Ryzen 7 9700X Ryzen 7 7800X3D
アーキテクチャー Zen 5 (4nm+6nm) Zen 5 (4nm+6nm) Zen 4 (5nm+6nm)
コア/スレッド 8 / 16 8 / 16 8 / 16
ベースクロック 4.7GHz 3.8GHz 4.2GHz
ブーストクロック 5.2GHz 5.5Hz 5GHz
L2キャッシュ 8MB 8MB 8MB
L3キャッシュ 96MB 32MB 96MB
対応メモリー DDR5-5600 DDR5-5600 DDR5-5200
TDP 120W 65W 120W
内蔵GPU Radeon Graphics Radeon Graphics Radeon Graphics
対応ソケット AM5 AM5 AM5
CPUクーラー なし なし なし
初出時税込価格 ¥86,800 ¥70,800 ¥71,800

「CPU-Z」によるCPU情報。L3キャッシュが96MB表示であることが3D V-Cache搭載の証

 Ryzen 7 9800X3D最大の売りは3D V-Cacheが第2世代になった点にある。既存のX3Dモデルの場合、CPUコアが格納されているダイ(CCD)の上に3D V-Cacheを“かぶせる”ように合体させ、その上からヒートスプレッダーで覆うという構造になっていた。

 この構造は画期的ではあったが、CPUコアの発熱が3D-V Cacheの層を介してヒートスプレッダーに伝達されるため冷却効率が犠牲になり、CPUのクロックを控えめにせざるを得ないという弱点も生み出した。

 そこでAMDは3D V-Cache層とCCDを入れ替えることで、CCDとヒートスプレッダーを直接接触させる技法を採用した。これにより熱抵抗は最大46%も改善され、TDP120Wというポテンシャルの限界まで活かせるようになるわけだ。

 ベースクロックがRyzen 7800X3Dよりも500MHz、最大ブーストクロックが200MHz引き上げられたのはこの第2世代3D V-Cacheの存在によりところが大きい。

 この設計変更によりRyzen 7 9800X3DはRyzen 9000シリーズと同じようにオーバークロックできるようになったとAMDは謳う。オーバークロックについては既存のPBO(Precision Boost Overdrive)やCurve Optimizerのほか、Ryzen 9000シリーズと同じCurve Shaperも利用できる。

 ちなみにこれまでのX3Dシリーズでは3D V-Cacheの方がCCDよりも小さかったため、CCDと3D-V Cache層のほかに“高さ合わせ”用のシリコンも必要だった。だがRyzen 9000シリーズではCCDと3D V-Cache層が同じ寸法になっているため、高さ合わせも不要になる。

従来の3D V-Cache。CCDの上に3D-V Cacheを積み重ねるが3D-V Cacheでカバーできない部分の強度を確保するために高さ合わせのための層(Structural Silicon。グレーの部分)も追加する必要があった

第2世代3D V-Cache。3D V-Cacheと同じ寸法で設計されたCCDのダイを積み重ねるため、従来のような余分な層が不要になる。単に上下を入れ替えただけ、と思えるかもしれないが半導体に求められる精密度においては、この設計変更は簡単な話ではない

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