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日置電機の「GENNECT Cloud」なら計測器の遠隔計測や操作がすぐ始められる

「5分で始められる遠隔計測」は嘘じゃない IoTが実現する計測器のデータ活用

2024年11月07日 09時00分更新

 製造現場やインフラなどを下支えする電気計測器。設置現場まで行かないと、データが取れないという課題を解消するのが、電気計測器メーカーである日置電機が手がけた遠隔計測サービス「GENNECT Cloud(ジェネクト クラウド)」になる。IoTプラットフォーム「SORACOM」の特徴を活かしたサービスの概要を日置電機の舩原一平氏に聞いた。

日置電機 グローバルDX推進部 ネットワークグループ 舩原一平氏

電話回線時代から課題だった遠隔計測 IoTの登場でサービス化へ

 日置電機は、来年創業90周年を迎える電気計測器メーカー。電子部品やバッテリの検査を行なう電子測定器のほか、電子回路基板の自動試験装置、電気工事・設備などで用いる現場測定器、電気信号の波形から異常を検出する記録装置などを提供しており、「産業のマザーツール」として製造業全般や自動車産業、インフラ、エネルギーなどの分野を下支えしている。海外売上も順調に伸びており、現在は約63%が海外の売上だ。

日置電機の電力測定器クランプオンパワーロガー「PW3360」

 これら日置電機の計測器を遠隔から計測・操作するIoTサービスが「GENNECT(ジェネクト) Cloud」になる。「今から10年くらい前は、設置現場に行って設置した計測器からデータを取得していたのですが、これからは遠隔で計測できるのが当たり前になるはず」(日置電機 舩原一平氏)とのことで、ソラコム起業間もないタイミングからサービス開発をスタートしたという。

 従来の現場でのデータ収集は、さまざまな課題があった。設置現場に向かう労力がかかるし、異常が起こってもデータ回収までに時間がかかってしまうのも問題だった。もちろん、計測器が複数拠点に設置されている場合は、データを集めるのも一苦労。ストレージの容量オーバーや設定ミスなどで、欲しいデータがとれてないこともあるが、行ってみないとわからないという課題も大きかった。

 こうした課題を解消する遠隔計測に関しては、日置電機も電話回線が当たり前だった時代からユーザーを支援してきた。ただ、当時は回線の調達やセキュリティの設定が大変で、コンサルティングも難しかったという。しかし、SORACOMのようなサービスの登場で、クラウドとネットワークの利活用がカジュアルになり、サービス開発も圧倒的に容易になった。「今までは弊社のエンジニアが現場に設置していましたが、今回は『お客さまですら、ほとんど作業の必要ないサービスを作ろう』ということでできたのがGENNECT Cloudになります」と舩原氏は説明する。

 GENNECT Cloudにはゲートウェイを用いる「GENNECT Remote」と、PC経由で送る「GENNECT One」という2つのサービスがあるが、SORACOM SIM搭載済みのゲートウェイを使うGENNECT Remoteの場合、ユーザーはゲートウェイを設置し、配線するだけで利用が開始できるというメリットがある。「『5分で始められる遠隔計測』と謳っていますが、実際に5分で始められます。使い方がわからないというお客さまはほとんどいませんね」と舩原氏はアピールする。 

計測器のデータ収集のみならず、遠隔操作まで可能

 こうしたGENNECTのサービスに欠かせないのが、SORACOMのテクノロジーだ。計測器のデータは有線LAN経由でIoTゲートウェイに渡され、そこからクラウドまでの通信をSORACOM Airが担っている。クラウドに集められたデータはGENNECT Cloud側でビジュアル化され、PCやスマホで閲覧することができる。具体的には計測器の収集した温度、湿度、電力、電気抵抗、振動などのロギングデータを1分間隔でクラウドに送信できるほか、異常を捉えた瞬間のデータファイル、USBカメラの画像なども取得できる。

GENNECTのシステム構成。GENNECT RemoteとOneのサービスが用意されている

 GENNECT Cloudは複数の拠点に設置した計測器から収集したデータをまとめることも可能だ。異常値が発生したときにはメールやSlackなどで通知させることもできる。「弊社の例では、コロナワクチンを保管するにあたって、冷蔵庫の温度変化を捉えると、管理者に通知が行くといった運用をしていました」(舩原氏)。同社のサイトでは、太陽光発電パネルに設置された計測器から温度、湿度、発電量、削減されたCO2量などを表示するデモを見ることができる。

GENNECT Remoteで利用されるIoTゲートウェイ

日置電機の温湿度ロガー「LR8514」

 具体的なユーザー事例としては、電源の異常を検知する電源品質アナライザという装置からのデータ収集が挙げられる。製造現場でクリティカルな機器の電源品質の低下が起こった場合は、そのイベントを計測器が検知し、データを記録したファイルを生成。メールで送信し、解析に活かしている。また、電力会社では山間部にある送電線の鉄塔に設置した計測器で消費電力を一定間隔で測定し、1日1回データ収集している事例もあるという。

 GENNECT Cloudではデータ収集のみならず、計測器自体を遠隔操作することも可能だ。「温度を測る範囲が想定より広かったとか、電源品質の異常を検知する条件がちょっと厳し過ぎたといった場合でも、まずは1週間くらい動かしてみて、そのあと現地に行かずに計測器の設定を変更できます」(舩原氏)とのこと。GENNECT Cloud自体のAPIも用意されているので、データを取得して、外部のシステムと連携することも可能になっている。

SORACOM採用により、セキュリティ確保と従量課金も可能に

 GENNECT RemoteにおけるSORACOM採用の大きなメリットはセキュリティだ。閉域のセルラー網を利用し、インターネットに出ない通信経路となっているため、ゲートウェイを攻撃されるリスクは極めて低い。IoTにおいて現地に設置したゲートウェイが想定外の動作をした時に調査が必要になるが、外部からメンテナンスのためのアクセスを受け付けられるようにしているとセキュリティが心配になる。GENNECT Remoteのゲートウェイは「SORACOM Napter」というセキュアアクセスサービスを用いているため、指定したIPアドレスを使って、必要なときだけポートを開放する仕様になっているので安心。メンテナンスの手間を大きく減らせているという。

 また、製造現場のネットワークとは別に、計測器のデータ収集で独立したセルラー網を使うので、ユーザー側で社内のセキュリティポリシーを変更しないで済むというメリットもある。さらにSORACOM Airのタグ情報と、SORACOM Beamの署名機能を用いることで、ゲートウェイ自体に認証情報を持たせず運用できるのもメリット。「パスワードや証明書の準備など初期設定の手間をなくし、デバイスから認証情報を持ち出されるリスクを減らすことが可能になっています」(舩原氏)。

 ビジネス面で大きいのは、SORACOMの公開しているWeb APIを利用することで、SIMの状況を自動的に自社システムに取り込めていることだ。たとえば、通信が切断したときにユーザーに警告したり、通信量をベースに従量課金でサービスを提供できるといったメリットがある。

 現在サービス提供が国内のみとなっているが、導入済み企業の計測器が増えたり、大口の契約も増えているとのこと。各国の電波法やデータ保護の障壁があるが、海外向けにサービス展開できれば、より多くの導入につながると見込んでいる。

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