リモコンと機器のやり取りには決まった“ルール”がある
赤外線リモコンが送信する“信号の中身”を見てみよう
台風が接近する中、静岡のホテルに泊まっています。ホテルは国道沿いにあり、車の走る音が聞こえてきます。この小さな部屋にも、テレビやエアコンを操作するためのIRリモコン(赤外線リモコン)が備え付けられています。壁に埋め込まれたコントローラーとは違い、IRリモコンはベッドの横に置いて、寝たままでも操作できるのでとても便利です。
前回の記事では、IRリモコンの基本的な仕組みを説明しました。リモコン内部にはマイコンが組み込まれていて、ボタンを押すと赤外線LEDが一定のパターンで点滅して信号を送ります。まるでリモコンが狼煙(のろし)を上げたり、灯台のように信号を発したりしているかのようです。
ただし、この信号はリモコンから機器に対して一方通行で送られていて、信号が相手に届いたかどうかは、リモコンにはわかりません。
それでは、リモコンからの信号を“受け取る側”はどうなっているのでしょうか。今回はそれを見てみましょう。
IRリモコンが搭載しているのは、皆さんがふだん目にする照明用のLEDと同じように、電気が流れると光る発光ダイオード(LED:Light-Emitting Diode)の一種でした。一方、信号を受け取る側の受信モジュールには「フォトダイオード」という部品が使われています。フォトダイオードは、光を受け取ると電気を流し、この電気信号をマイコンが読み取ります。送信側では電気信号を光に変えて送り、受信側ではその光を電気に変換して信号を受け取っているのです。
フォトダイオードの身近な例としては「太陽電池」が挙げられます。ただし、フォトダイオードが発生させる電気は微弱であるのに対して、太陽電池はより大きな電力を生み出します。また、スマートフォンやデジタルカメラが搭載する画像センサーも、たくさんの小さなフォトダイオードが集まったものです。
それでは、IRリモコンと機器の間では、どのようなやり取りが行われているのでしょうか? 市販のマイコンキットとIRモジュールを使って、リモコンから送られてくる信号を可視化する装置を作ってみました。
使用したのは低価格のマイコンキット(M5Stick C Plus 2)です。親指サイズのこのキットは、ディスプレイ、バッテリー、ボタン、ブザー、加速度センサー、そして送信用の赤外線LEDを内蔵しています。ただし、赤外線の受信機能はないので、外付けでIRモジュールを接続しました。
そして、このマイコンに短いプログラムを書き込み、IRリモコンの信号を受信すると信号の内容がディスプレイに表示されるようにしました。
まずは、前回記事で分解したソニー製のテレビ用IRリモコンからの信号を受信してみます。リモコンの電源ボタンを押すと、装置のディスプレイには「SONY a90 13」という文字が表示されました次に、手元にあった別のリモコン(扇風機のリモコン)の電源ボタンを押してみました。すると「NEC 60c50e01 34」と表示されました。
この「SONY a90 13」や「NEC 60c50e01 34」が、IRリモコンが“おしゃべり”している言葉です。
さて、最初に表示されている「SONY」や「NEC」は何を表しているのでしょうか?
いま試した2つのリモコンはどちらも赤外線を使って信号を送信しますが、その信号をどのような赤外線の点滅で表すかなど、通信信号のルールや手順が違います。そして、操作対象の機器がリモコンと共通のルールや手順に沿って信号を読み取れなければ、通信は成り立ちません。この共通のルールや手順を「通信プロトコル」と呼びます。
IRリモコンの通信プロトコルにはいくつかの種類があります。日本では、NECや家電協(家電製品協会)が定めたプロトコルを採用している製品が多いのですが、メーカー独自のプロトコルを使う製品もあります(ソニー、シャープ、パナソニックなど)。先ほど表示された「SONY」や「NEC」は、このプロトコルの種類を表しています。
次に表示された文字は、おしゃべりの中身です。今回の装置ではアルファベットと数字で表示していますが、機械が読み取っているのはこれをオン(1)とオフ(0)での表記に直した信号です(たとえば「a90」は「101010010000」)。NECと比べてSONYのおしゃべり内容は短いのですが、同じおしゃべりを3回繰り返し送信することで、通信の間違いを防ぐようになっています。
最後の数字は、おしゃべり全体の長さを表しています。リモコンからの一方的なおしゃべりでは、どこが話の区切りなのか分からないので、一緒に長さも送っているのです。
ところで、テレビやエアコンといった機器に付属しているリモコンはその機器専用のもので、ほかの機器を操作することはできません。ところが、複数の家電製品を1台で操作できる「マルチリモコン」という製品も市販されています。
前回分解したソニーのテレビリモコンもこのマルチリモコンの一種で、設定を変えると他社製のテレビを操作することもできます。これは、リモコン内蔵のマイコンが複数のプロトコルを持っており、設定されたプロトコルに応じた信号を送信する仕組みです。このようなマルチリモコンは「プリセット型」と呼ばれています。
プリセット型以外にも、IRリモコンが赤外線の受信機能を持っていて、ほかのリモコンが送信する信号を読み取って記憶する「学習型マルチリモコン」もあります。
さらに最近では、IRリモコン対応の機器を、スマートフォンのアプリケーションやブラウザを通じてインターネット経由で操作できる「スマートリモコン」も登場しています。これらはWi-FiやBluetoothを活用し、スマートホームシステムの一部として家電をコントロールすることができます。
次回は、このスマートリモコンについて詳しく見ていきましょう。
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