機械の役割、人の役割
完成したボードはケースへの組み込みの工程へと進む。ここでも、ヒートシンクの取り付けやボトムケースのネジ留めなど、数多くのセクションが自動化されていた。
ケースへの組み込み工程では(意外と?)人の手によるネジ留めのラインもあって、ここでは先輩社員が後進に指導している様子も見られた。
同社はおよそ5年前から生産の自動化を積極的に推し進めているが、自動化の推進以降、出荷製品の良品率は98.3%から99.8%へと大幅にアップしているという。社員1人あたりの月間生産台数は、自動化推進前の平均290台から平均1129台へと大幅にアップしているそうだから、飛躍的な生産の効率化に成功したと言えるだろう。
見学していて、私は率直に「この工場は将来的な無人化を目指しているのかな?」と感じたのだが、読者の皆さんはどうだろう。
ところが、見学の現場に同行してくれたMSI コンピューター(深セン)のヴァイスプレジデントであり、昆山、深センの2拠点の工場長でもあるEthan Yang氏にたずねてみれば、無人化は、MSIの工場が目指す姿ではないという。
曰く、「自動化の目的は無人化ではなく、あくまでも品質の向上と平均化なのです。昆山は新技術を試したり、新製品を生産したりする機会も多い工場ですから、製造の知見が溜まってきた製品については順次自動化を進めつつ、人的リソースはなるべく新しい技術の追求に回していくという体制をとっています」とのこと。
人の手で新しい技術を探究し、手法が熟してきた段階でマシーンに代替してもらう。人はまた新しい技術を追求していく。どうやらそういうことのようだ。
劇的に過酷なテストにも耐えるMSIノートPC
出荷前テストの模様を見ていこう。組み立てが済んで市場に出回る製品の形になったノートPCは、キーボードの打鍵テストやトラックパッドの反応テストを終えたのち、一度ラックに並べられる。
ラック上ではディスプレーパネルの色温度テストやベンチマークなどが実施され、テストをクリアした個体は、最後のパッケージングへと進むことになる。
打鍵テストやトラックパッドのテスト、色温度のテストなども基本的にはすべて自動化されている。ラックに並んだ数々のノートPCにはテスト用のケーブルが接続され、それぞれの挙動を見せている。テストエリアでも、人のポジションは作業者というよりオペレーターに近い。
だが、マシーンに任せっぱなしにはしないところもMSI流。最後の工程まで進んで製品のうち一定数は、ランダムにピックアップされ、人による実際の使用感のテストにかける。自動化を極めつつあるからこそ、人間の感覚の重要さも深く理解しているのかのしれない。
なお昆山工場は製造ライン以外にもラボ的な検証スペースを持っていて、そちらでは主に耐久テストなどが実施されている。
ヒンジの耐久性テストでは2万5000回の開閉、キーボードの耐久性テストでは100万回の打鍵、端子の耐久性テストでは5000回の端子の抜き差しを実施しているそうで、それ以外にも高温下/低温下における駆動テストや振動に対する耐久性、落下に対する耐久性なども検証している。
中国国内のもうひとつの工場・深セン工場では、電子顕微鏡で部品や部材を評価したり、科学的な分析を加えて、調達した部材がMSIの求める基準に達しているかどうかを確認する厳格なテストも実施されている。
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