「パソコンの製造現場」ときいて、どのような光景を思い浮かべるだろうか。
詳細な様子を具体的に思い浮かべられる人は限られるのかもしれないが、レーンがあって、ボードが次々に流れてきて、作業者がパーツの取り付けやネジ留めをしていて……というのが、多くの人が想像するステレオタイプかもしれない。
ところが先日、見学に訪れたMSIの昆山工場の姿は違っていた。イメージの中の「パソコンの工場」よりもずっと人が少なく、想像よりもはるかに高度な自動化が進んでいたのだ。
シェルフ搬送用のスマートロボットに迎えられ、工場内へ
江蘇省の昆山市に所在するMSIの昆山工場は、深セン工場と双璧を成す中国国内の大規模工場。広さは社員寮のエリアも含んで28万8000平方メートルと広大だ。ノートPCやEV向け充電ソリューションの製造を担っており、ノートPCの月間生産台数は公称で40万台を数える。
月間40万台という数字、大きいのか小さいのか? 参考までにJEITA(電子情報技術産業協会)の調査を引用すると、日本国内の2024年7月度のノートPCの出荷台数は49.5万台である。
生産数と出荷数なので単純な比較はできないのだが、日本市場でひと月に卸されたすべてのノートPCの数字に匹敵する数を1社のうちの1拠点で作っていると考えると、おおよその規模感が伝わるだろうか。
驚異的な生産効率は、どのように実現されているのか。
今回見学したのは主にノートPCのPCBA(Printed Circuit Board Assembly=プリント基板の組み立て)と、ケースへの組み込み、出荷前テスト、パッケージングの工程である。
レポートに移ろう。工場内に入り、はじめに目にしたのは人ではなくロボットだった。工場内倉庫から供給される在庫パーツを載せたシェルフを、必要に応じて必要な場所に移動させる搬送用のスマートロボットだ。
数十秒眺めているあいだにも、工場の奥から手前へ、手前から奥へと走り回って、シェルフを定められた位置へと移動させている。このロボットは床にプリントされたQRコードを読み取って場所を判別しているそうだ。
ボードの製造工程は、プリント基板(PCB)の自動繰り出しからスタートする。繰り出されたPCBには、まずレーザーでバーコードが刻印される。これはボードのひとつひとつにトレーサビリティーを付与するため。生産の初めの段階で、ボードの個体が判別できる状態を作っておくのだ。
続いてはあらかじめ設定されているCADデータを元に「はんだプリンター」で回路をプリント。プリントが完了したら、半導体類の取り付け工程に進む。
トランジスタや抵抗器、マイクロチップコンデンサーなどはそれぞれリールに巻き付けられており、自動でボードにマウントされていく。
USB端子やRJ45(有線LAN)端子などもリール化されており、自動でマウントが進む。ボードだけでなく、こういったすべての部品、部材はバーコードで管理されていて、万一異常が起きれば、どのレーンで組み付けられた部品なのかや、その部品の生産工場はどこかといったことが後から追跡できるようになっている。「トレーサビリティー」はこの工場を表現するひとつのキーワードだ。
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