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切り捨てられた部門が再始動して作り上げたAmpereOne Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU

2024年09月16日 12時00分更新

 Hot Chips第2弾は、Ampere ComputingのAmpereOneをご紹介したい。こちらのコアは前回のOryonほどいわくつきではないのだが、会社がいわくつきだったりするので、まずはAmpere Computingの話をしよう。

完成直前に会社買収され、切り捨てられたプロセッサー部門

 Ampere Computingの話は、連載446回の最後でチラっと話をしている。もともとはネットワーク関係のさまざな製品を手掛けていたAMCC(Applied Micro Circuits Corporation:のちに略称をAPMに変更)が、2013年に突如発表したX-Geneに行き着く。

 X-Geneの発売に先立ち、同社はTitanと呼ばれるPowerPCベースの独自コアを開発していたものの商用には至らず、そこから完全に軸足をArmに切り替えた上で、しかもスクラッチから開発した最初のサーバー/組み込み向けのCPUコアとして登場した。初代のX-Geneに続き、X-Gene 2もリリースされ、さらにX-Gene 3に加え、その先のX-Gene 4の話も出ていた。

これは2014年のHotChips 26におけるApplied Microの発表。この時はX-Gene 2の内部構造を含む詳細が公開された

 2016年には、そのX-Gene 3のSimulation結果をまとめたホワイトペーパーもリリースしており、2017年の出荷に向けて期待されていたのだが、その2017年1月に会社が丸ごとMACOMに買収され、同年10月にプロセッサーの部門はファンドに丸ごと売却された。

X-Gene 3のSimulation結果。縦軸がスレッドあたりのSPECint_rateスコア、横軸が全スレッドでのSPECint_rateスコアである。AMDのA1170(Opteron A1170:Cortex-A57を8コア搭載したOpteron)がリストに入っているのが微笑ましい

 スピンアウトというよりも、MACOMにプロセッサー部門が不要なので捨てられたというのが正直なところか。そのファンドの親会社にいた、元Intel COOのRenee James氏が同部門の再生の指揮をとることになった。

 X-Gene 3が完成直前に買収→売却となったことで、X-Gene 3そのものの開発はホールド状態にあった。というのは完成させるにも相応のコストが掛かるからで、ファンドはとりあえず会社が存続するのに必要な資金は供給してくれるにしても、プロセッサーの開発に必要なコストに関しては、それが間違いなく回収可能の見極めがつかない限り難しい。そのあたりの見極めをするとともに、今後の自立(≒新規上場株式)に向けての道筋を立てるのがJames氏の仕事だったわけだ。

インテルの元COOが指揮をとりプロセッサー部門が
Ampere Computingとして立ち上がる

 そのように、ファンドに所有される形で立ち上がったのがAmpere Computingであるが、2018年にはそのX-Gene 3ベースのコアを採用したeMAGプロセッサーを発表する。

eMAGのチップ写真。製造はTSMCの16FF+であるとされるのに、なぜ韓国での製造と表記されているのかは謎。後工程をAmkorに委託したのだろうか? 写真は2018年のProduct Briefより抜粋

 なぜ発表のURLがamperecomputing.comではなくウェブアーカイブなのか? というと、Ampere Computing的にはすでにeMAGはなかったことになっているらしいからだ。eMAGはTSMCの16FF+で製造され、最大32コア、3.3GHz動作でTDP 125Wとされた。ただこのX-Gene 3の後に噂されていたX-Gene 4は一旦ご破算になったらしい。

 その代わり、2020年に同社はAmpere Alterを発表する。こちらはArmのNeoverse N1コアを採用したクラウドサーバー向けの製品という位置づけで、最大80コアのNeoverse N1(専用2次キャッシュは1MB)に32MBの3次キャッシュを組み合わせた構成。3.3GHz動作でのTDPは250Wに抑えられ、8chのDDR4-3200と128レーンのPCIe 4.0を装備するほか、CCIXを利用して2プロセッサー構成を取ることも可能となっていた。

 同年6月にはコア数を128に増やしたAlter MAXの発表もあり、2021年に発売開始されている。

 Ampere Alter/Alter MAXは意外に(というのも失礼だが)好評だった。というのは、Neoverse N1を搭載したプロセッサーは数多く存在するが、その大半は大規模クラウド事業者が自社専用に利用しているパターン(一番有名なのがAWS Gravitonである)で、普通の開発者や中小のクラウド事業者には手が出なかったからだ。

 こうした市場を、Ampere Alter/Alter MAXはうまく掴むことに成功する。実はこれに先立ち、Ampere Computingはさまざまな会社から投資を受けており、その中にはArmやNVIDIAの名前もあった。Neoverse N1コアをそのまま利用したのは、Armからの投資の見返りという側面もあったのかもしれない。もちろん後述する理由で、しばらく製品投入が遅れることになるので、その間を埋めるためにもNeoverseベースとするのは妥当な戦略だった。

 NVIDIAに関しては、CUDAベースのHPCシステムのホストとしてAlter/Alter MAXを提供することに関しての協業という形で、見返りを提供している。今でこそNVIDIAは自前でHopper CPUを提供可能になったが、それまではx86ベースで提供するしかなく、これをArmに置き換えるための手段を欠いていた。Ampere Computingはこの手段を提供した格好だ。

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