「Ryzen 9 9950X」が発売されてからかれこれ1ヵ月が経過しようとしている。Ryzen 9000シリーズで採用されたZen 5アーキテクチャーは“前世代以上の性能をより低いTDP設定で動かせる”というのが最大の売りだ。特に物理8コアの「Ryzen 7 9700X」はTDP 65Wという設定のおかげで消費電力も低く、空冷クーラーでも難なく運用できる低発熱ぶりを発揮した。
マザーメーカーはTDP 105Wモードの実装を進めているようだが、検証記事にある通り、Ryzen 7 9700XのTDP 105W設定はCPUのパフォーマンスと発熱のギリギリを絶妙に攻めるような設定になっている。となるとTDP 170WのRyzen 9 9950Xの発熱や消費電力はかなり気になるところ。
TDP 105Wモードもそうだが、多少消費電力が犠牲になってもベンチマークの数値を優先させる空気が支配しているため、特にフラッグシップモデルはかなり無茶をしているのではないかと心配している人もいるだろう。実際それで問題に直面したメーカーもあるが、AMDはどうなのだろうか?
そこで本稿では、Ryzen 9 9950Xのパフォーマンスを消費電力面にフォーカスして再検証してみたい。1世代前の「Ryzen 9 7950X」と同じTDP 170W設定据え置きとなったRyzen 9 9950Xだが、Zen 4がZen 5になったメリットはキチンと活かせているのだろうか? ついでにPBO(Precision Boost Overdrive 2)を利用してTDPを変化させた場合に、どの程度性能・発熱・消費電力に変化があるのかも検証する。
Ryzen 9 9950Xは少しパワーが絞られている
Ryzen 9 9950XのTDPは170Wで、これは1世代前のRyzen 7 7950Xと同じ設定である。しかしPPT(CPUソケットが受け取れる電力の上限)はRyzen 9 7950Xが230Wなのに対し9950Xは200W。Ryzen 9 9950XはTDPが前世代と同じでも、CPU Package Powerを若干絞ったチューニングになっている。
そこで本検証では、Ryzen 9 9950Xの設定を以下のように設定した。TDP 120W/ 105W/ 65Wの設定値はRyzen 9 9900X(120W)やRyzen 7 7700X(105W)、9700X(65W)の設定値をそのまま流用している。さらにRyzen 9 7950Xと同じ設定、すなわちPPTを230Wに増量した場合の設定値でも比較する。
Ryzen 9 9950Xの設定 | ||||||
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TDP 170W-230W | PPT 230W/ TDC 160A/ EDC 225A | |||||
TDP 170W-200W | PPT 200W/ TDC 160A/ EDC 225A(Ryzen 9 9950Xの定格) | |||||
TDP 120W | PPT162W/ TDC 120A/ EDC 180A | |||||
TDP 105W | PPT 142W/ TDC 110A/ EDC170A | |||||
TDP 65W | PPT 88W/ TDC 75A/ EDC 150A |
検証環境は以下の通りだ。分岐予測改善のコードが含まれるとされる「KB5041587」を導入した状態で検証している。今回の検証環境もSecure BootやResizable BAR、メモリー整合性やHDRといった機能は一通り有効とした。GPUドライバーはRadeon Software 24.8.1である。
テスト環境 | |
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CPU | AMD「Ryzen 9 9950X」(16コア/32スレッド、最大5.7GHz) AMD「Ryzen 9 7950X」 (16コア/32スレッド、最大5.7GHz) |
CPUクーラー | NZXT「Kraken Elite 360」 (簡易水冷、360mmラジエーター) |
マザーボード | ASRock「X670E Taichi」(AMD X670E、BIOS 3.06、ATX) |
メモリー | Micron「CP2K16G56C46U5」 (16GB×2、DDR5-5200/DDR5-5600) |
ビデオカード | AMD Radeon RX 7900 XTX リファレンスカード |
ストレージ | Micron「CT2000T700SSD3」(2TB、NVMe M.2、PCIe Gen5) |
電源ユニット | Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」 (1000W、80PLUS Platinum) |
OS | Microsoft「Windows 11 Pro」(23H2) |
TDPを下げるほど処理時間が長くなるが
170Wを120Wに下げた程度ではほとんど影響がない
定番の「CINEBENCH 2024」を利用しCPUの計算力を比較する。TDPが下がれば低くなるのは当然だが、TDP 170WかつPPT230W設定にした場合にスコアーが上昇するかに注目だ。10分間のプレヒートを経てからスコアーを算出するモードで計測している。
予想通り定格(170W-PPT 200W)からTDPを下げるにつれスコアーは下がるが、影響を受けるのはマルチスレッドのスコアーのみで、シングルスレッドのスコアーに影響はない。Ryzen 9 9900X相当のTDP 120Wで運用してもなお、前世代のRyzen 7 7950Xより高スコアーを出せるのは驚きだ。
TDP 105WになるとさすがにRyzen 9 7950Xよりもマルチスレッドのスコアーは下回るが、それでも3%程度の差でしかない。Zen 5アーキテクチャーのワットパフォーマンスのすごさはTDPを下げた状態でより輝くのだ。
では「Handbrake」を利用して動画のエンコード時間を比較する。4K@60fps、再生時間約3分の動画を用意し、Handbrakeプリセットの“Super HQ 1080p30 Surround”および“Super HQ 2160p60 4K HEVC Surround”を利用してMP4動画に出力する時間を計測した。
こちらもRyzen 9 9950Xは定格よりTDPを下げるほど処理時間も長くなるが、170Wを120Wに下げた程度ではほとんど影響がなく、かつRyzen 7 7950Xよりも短時間で処理を終えている。このあたりはCINEBENCH 2024の傾向とほぼ同じといえる。
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